女性記者が福田事務次官を告発したことの本当の意味、とは何か

福田事務次官が辞任したが、まだこの問題は収まっていないらしく「テレビ朝日けしからん」というような話になりつつある。ネトウヨの人たちが朝日を嫌っているのはわかっているのでまあいいとして、リベラルの人たちも好意的な見方はしていないようだ。

昨日のエントリーではテレビ朝日けしからんというような書き方をしたのに態度を変えるのかといわれそうなのだが、みんなが朝日系列叩きを始めると、価値判断なしにこの女性記者の是非を考えたくなった。へそ曲がりと言われればそれだけなのだが、価値判断なしに何かを考えるのは実は難しい。

しばらく考えていたのだがよくわからない。そもそも、なぜわからないのだろうかと考えた。普通の企業であれば記者の稼働時間というのはコストなので情報を得るコストと価値を天秤にかければよい。だがそれができない。理由はいくつかある。

第一の理由はどこのテレビ局も同じような情報を流しており情報に価値がないからだ。極論すると政府広報と民放一局で良いのではないかと思える。あとは週刊誌が二誌あれば良い。競争が働くのでそれなりのスクープ合戦が起こるだろう。

また人件費の問題に落とし込むのも難しそうだ。日本の記者というのはオフィシャルの情報をとってくるだけではダメで私生活に食い込んで「本音の話を聞く」のが良いとされているらしい。このブログでは普段から非公式な意思決定ルートが民主主義にとって害悪であるという論を採用しているので、まあこの線でアプローチしてみても良いのかなと思った。だが、実際には「みんながやっている」ことを一社だけ降りるのは難しそうだ。

福田財務事務次官というのは、女性記者が私生活を切り売りして情報をとる価値がある相手なのかと考えた。仲良くなって取れる情報というのは「いずれは公になる情報を他社より少し早く知ることができる」か「財務省が流したい情報をオフレコと称して流す」という二つが考えられる。もしこれが株価に関係するような内容であればいち早く情報を取ってくるのは重要だろうが、そんな情報を軽々しく流すとは思えないので、結局は情報機関の自己満足か財務省のために使われるということになる。だからこの一連の取材活動は無駄だと言える。

だが、そもそも記者が私生活を切り売りしていることが報道社のコストであるなどという論調はどこにもない。これはなぜかと考えてみた。第一に記者たちが仕事時間と私生活を切り離していないという事情があるだろう。つまり「私生活に切り込んでなんぼ」と記者を<洗脳>することで報道社はブラックな職場環境を作っていることになる。ブラックでも記者というのは特権的でやりがいがある仕事とされているので「女性だから使えない」とは思われたくないのだろう。

ではなぜ報道社の記者というのは特別なのだろうか。それは報道社が特別だからだ。ではなぜ報道社は特権的な地位が得られるのか。それは記者クラブがあるからである。女性記者はフリーになるかネットメディアの記者になるという選択肢があったはずだが、いずれも記者クラブから排除されるので取材活動そのものができなくなる可能性が高い。皮肉なことに今回のテレビ朝日の深夜会見でもネットメディアは排除されていたらしい。

記者クラブが特権的な地位を得ることで、労働者である記者は隷属的な地位に置かれるのだが、それ以上の問題がある。国民は新しい視点からの情報を得ることはできないのだ。すると、財務省は「特権的な地位」の許認可権限を握っていることになる。これが報道社から便宜供与を受ける理由になる。

それなりにメディア倫理が働いていると指摘する人もいるのだろうが、普段から行状に問題がある人のセクハラすら告発できない会社が、財務省に都合が悪い情報を流せるはずはない。当然、女性記者の上司のように何かの理由をつけて自粛するはずだ。そしてそれは国民の知る権利を阻害しているということになる。

結局「記者クラブが悪い」ということになった。期せずしてわかったのはこれが単に女性や労働者の人権問題であるだけでなく、国民の知る権利に関わっているということだ。福田事務次官の「名乗り出ることもできないだろう」という強気の裏には「国民の知る権利などというのは高級官僚の胸先三寸で決まるのだ」という確証があったのではないかと思う。「報道各社も独占的に情報を得ることでおいしい思いをしてきたでしょ」ということだ。

そう考えるとこの女性記者が発したメッセージの意味は実は我々が考えているよりもっと重いものなのかもしれない。女性記者が守られるためには「テレビ朝日の配慮を」というような声があるのだが、多分テレビ朝日はあてにならない。当座は女性ジャーナリストが連携して彼女を守る必要があるのだろうが、実はフリーの記者を含めた人たちが連携して彼女を守らなければならないのではないかと思える。これは独占的に情報を占有している報道者と官僚機構の共犯意識から生まれたハラスメントだからだ。

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