なぜ福田事務次官に女性記者をあてがってはいけないのか

お天気もよくなってきたので、Twitterをみながらファッションの記事でも書こうかと思って準備を進めてきた。こういう時はニュースもあまり見ないのだが、Twitterを眺めていると、福田事務次官が非難されるべきだとかテレビ朝日が悪いとかいうくだらない書き込みが散見される。江川紹子さんですらネトウヨのくだらない書き込みに反応していてちょっとくらい気持ちになった。

この人たちにははっきりと書かないと伝わらないんだなと思った。テレビ朝日が福田事務次官の性癖を知りながら女性記者を送っていたことには問題がある。だがそれは女性差別とはあまり関係がない。上司も女性だったという話もあるのだが、仮にそうだったとしたらこの上司も軽率だったし、上司が女性であるということも実はそれほど本質的ではない。

ではなぜ悪いのか。民主主義の根幹に関わる問題があるからだ。そしてそれがほとんど日本では理解されていないのである。

全く別の例をあげて説明したい。あなたは中小の企業に勤めている課長だ。企業のウェブを作成するのが主な仕事だが定期的な仕事も欲しいので大手広告代理店に営業マンを送っている。大手広告代理店には野心的でやり手の営業マンを送るのがよさそうだ。彼は昼夜を問わず熱心に仕事をして「代理店に大変かわいがられるように」なる。

これは喜ばしいことだろうか。

そのうち彼は「今度コンペがある。うちの体力には合わないがぜひ参加したい」と言い出す。さらに、今回は格安で仕事を受けてくれと言われたと言い出す。次にでかい仕事があるからその時に挽回できると約束してくれているなどともいう。あなたはマネージャーとしてこれを判断しなければならない。

だが、この人は十中八九大手広告代理店に取り込まれている。大きな会社に出入りして通行パスなどをもらうと「その会社の一員」になったような気がしてしまう。そこで所属企業にとって不利な提案などをするようになるのである。

もちろん「彼が取り込まれている」というのは疑惑でしかない。なぜならば、彼の提案はそれなりに理屈が通っているからだ。代理店の仕事は無くしたくないが担当を変えれば仕事がなくなるかもしれない。彼のパイプで取れている仕事も多いだろう。だが、広告代理店の言いなりになれば、リソースだけを浪費されることになるかもしれない。

彼が取り込まれているかを確かめるすべはない。彼はプライベートでも代理店と仲が良い。さらに代理店も騙すつもりでやっているわけではないかもしれない。代理店には代理店の事情がある。中で競争を抱えているので少しでも有利な条件で働いてくれるハウスを抱えておく必要があり、営業マンを「かわいがる」のである。彼らにも悪気はなく、今回だけのつもりかもしれないが、一度「美味しい思い」をしてしまえば次も頼りたくなる。そういうものなのだ。

ここで営業マンが男性か女性かというのは大した問題ではない。しかし、もし仮に女性を一人で担当としてつけていたとしたらどうだろうか。しかもその人は大変女癖が悪いということが知られている。多分「何か問題があった時」にはあなたは糾弾される。そしてあなたが男性か女性かということはそれほど問題にならないだろう。

これが問題なのはどうしてか。それは営業マンが代理人だからである。代理人とは、ある種の権限を与えて任せている人のことを指す。もし彼が企業の代表者であれば経営者としての「ソロバン」が働くだろうから、搾取されるだけになる仕事は受けないだろう。もし仮に癒着したとしてもそれはそれで仕方がない。会社が潰れても自己責任である。

同じことが国レベルでも言える。安倍首相はトランプ大統領と大変仲良くなってゴルフのラウンドを回る。トランプ大統領は「嫌なことを言わず」「忠実にゴルフに従ってくれる」し「ゴルフ場の宣伝にもなる」のでこの首相を大変気に入っているようだ。日本国民も「アメリカの大統領と近しい関係になれば優遇してもらえるかも」と期待している。だが安倍首相は利用されるだけなのでトランプ大統領は重要なことは安倍首相には相談しなくなるだろう。トランプ大統領はお金持ちなので彼のお金に群がってくる人をたくさん「いなして」いる。安倍首相はそのうちの一人に過ぎない。

もし安倍首相が日本の独裁者の家系に生まれたのならそれでも問題はない。体制に関わるようなディールには応じないだろうし、彼の国なのだからそれは彼が決められる問題である。だが彼は選挙で約束してその地位にあるに過ぎない。もし気分を良くして「自分はアメリカから日本の統治を任されているのだ」などと誤認したらどうだろう。ゴルフの間には政府高官も入らないので記録も残らない。だから、あとでチェックをすることもできない。

では日本人がこれを怖いと思わないのは何故なのだろうか。それは終身雇用のもとで「この人はずっとうちの人間だから裏切ることはないだろう」と思っているからだ。冒頭のウェブハウスの例が怖いのは新しい産業には転職があり、営業マンが相手の会社や別の会社にアカウントごと移ってしまう可能性があるからである。また代理店側にも有期雇用の社員がおり競争のために過度のダンピングを強要する場合がある。村落的な制御装置が働きにくいのだ。

これを定式化すると次のようになる。日本は村落から家業が生まれた。いったんは企業という契約・委託関係の集団を作ったがうまくゆかず、そのうちに擬似家族的に忠誠心を保証するような企業形態が生まれる。終身雇用は従業員からみた安全保障でもあるか、企業もまた従業員の忠誠を買っている。雇用関係が結べない場合には系列店を作って「公私ともに」世話をするようになった。こうした固定的な環境では村落的な慣行はそれほど害悪になることはない。しかし、近年では雇用が流動化してきており「契約」に基づいた権限の移譲が行われるようになってきた。

中高年を中心に「その会社の所属員は絶対に企業を裏切らないだろう」と思っている人は多い。なぜならば契約型の社会を知らないからだ。契約型社会では人は裏切る可能性がある。政治の世界でも同じようなことが起きている。安倍首相は日本人だから日本を裏切るはずはないと思っているのだが、それは自民党が政権を手放す可能性がなかったからだろう。現在では政権交代が起こり得る。これが裏切りの温床になるのだ。

それでも慣行を疑いの目で見ることは難しい。例えば安倍首相が金正恩と仲が良く一緒にスキーをする仲だったら何が起きているかを考えてみると良い。突然、安倍首相が「拉致問題は解決済みだ」と宣言し、北朝鮮と友好条約を結んで巨額のお詫び金を支払うことになったと発表したら国民は大反発するだろう。だが「個人の親密な関係をもとにした検証不可能な提案」という意味では、実は現在の日米関係とさほど変わりはない。違うのは文脈だけである。アメリカは良い国で北朝鮮は悪い国とされているのだが、誰がそれを保証してくれるというのだろうか。

さらにトランプ大統領が習近平主席と個人的に親密であり一対一で会合を重ねていたとしたらどうだろうか。多分トランプ大統領は中国との親密な関係が疑われて「アメリカに不利なことを約束しているのではないか」と思われるに違いない。日本も当然そう思うだろう。

さて、ここで改めてテレビ朝日の問題を見てみよう。女性記者が福田事務次官と緊密な関係を持ちスクープを連発してくるようになる。普段から性癖に問題があるとされている人だが明確な証拠はない。二つの疑惑が生まれる。一つは親密な関係を保つために福田事務次官が国の情報を売り渡しているというもので、もう一つはテレビ朝日の女性記者が世論誘導のためにリークを利用しているというものだ。おそらくは両方が疑われるだろう。

実際にこうしたことは起きている。NHKの岩田解説員は何かにつけ安倍政権擁護の極端な論を展開するという疑惑が持たれているが確証はない。ここで「時々親密に寿司を食べているらしい」という話が流れてくる。視聴者は岩田さんのいうことをどれくらい信用すべきだろうか。もしかしたら公平な人かもしれないし、そうではないかもしれない。あるいは岩田さんは公平なつもりでも客観的に自分の立ち位置を見られなくなっている可能性もある。なんら保証はない。

もし仮にそれが田崎史郎さん(食事もしているしお金も渡っているのではないかという噂がある)の場合どうだろうか。田崎さんが菅官房長官と恋愛関係にあるとは思えないが、個人的な親密さが情報の信憑性を損ないかねないという意味では同じことが起きている。田崎さんに違和感がないのはテレビ局がそれをわかって代理人として使っているからなのだが果たしてそれは国民の知る権利にとってはいいことなのだろうか。

それでも「日本は昔からそうだった」という人もいるかもしれない。目を覚ませと言いたい。私たちは検証不可能な親密さが一年以上に渡って国会審議を空転させてきた状態を見ている。安倍首相は加計学園の理事長と旧知の関係だった。プロセス上は問題がなかったようだし、公式の記録からは安倍首相が直接的に関わったという証拠も出ていない。国会で追求しても確たる証拠は出てこないし、出てきたとしても最終的に追い詰めることはできない。でも多分何か不公正なことは行われているだろう。でなければ官僚が総出で嘘をついたり、あとから資料が<発見>されることなどありえない。

モリカケ問題も不透明な外交もセクハラ問題も全てつながっている。これは偶然でもでっち上げでもなく、私たちの民主主義が多分に固定的な関係に基づく村落的な面影を残しているからである。

プライベートな領域に踏み込んでしまうと後で検証ができなくなるので公私は分けなければならない。それは民主主義のプロセス全般に言える。つまり、テレビ朝日の件は「報道機関がプライベートで仲良くなって情報を取ろうとした」こと自体に問題がある。そしてそれが問題なのは権限を委託されている人どうしが第三者に対して検証不可能なことをやってはいけないからだ。

そして、それは終身雇用が崩壊しつつあるビジネス社会にも当てはまることであって、女性だからどうだといった類の話ではないのである。

Google Recommendation Advertisement



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です