加計学園問題 – 嘘が嘘を呼ぶ

2015年4月2日に会議があったかなかったかで大騒ぎになっているのだが、あまりにも細かすぎていったい何が問題になっているのかがさっぱりわからなくなってしまった。加計学園は継続開削の対象なのでそれなりに追いかけているつもりだが、それでもしばらく目を離していると何が起こっているのかがわからなくなってしまう。今回の騒ぎの原因は首相が2017年1月21日まで「知り得る立場にいたのだが知らなかった」と言ったことが「嘘だったのではないか」ということが問題になっているようだ。これが嘘だとすると安倍首相と加計理事長の間に収賄の容疑が生じるとのことである。

この件は幾重にも「嘘」が積み重なってできているのだが、国民の間にはすでに一定の「真実」ができあがっているように思える。みんなが何を思っているかということが真実なのであって、実際に何があったのかというのはそれほど重要ではない。だがこれを言葉にしてみることは実は重要だ。意外と曖昧さが残っているのである。

加計学園の理事長と首相は昵懇の中である。同時に、加計学園は今治市との間で新しい学校を作りたいという計画もあった。しかし、関係省庁が反対し石破大臣も越えられそうにないハードルを設置したので首相に口利きを依頼した。首相は柳瀬秘書官を使って省庁に圧力をかけると形勢が逆転し、加計学園は獣医学部を作る事に成功した。

ところが、曖昧さも残る。加計学園がいつ獣医学部を作ろうと決めたのかはよくわからない。また最初に加計学園が今治市に話を持ちかけたのか、それとも安倍首相が積極的に制度を作って加計学園を応援したのかもわからない。また選定過程にも曖昧さがある。つまり、今治市が加計学園と政府を仲介したのか、それとも加計学園が今治市と政府を仲介したのかがよくわからないのである。

うろ覚えの知識では、戦略特区制度では地方自治体が事業者を選んで選定が進むことになっていたと思うのだが、調べてみるとこれについて明確に書いている資料は意外と少ない。国家戦略特別区域会議というものを開催するらしいのだが、これの主催者が誰なのかがよくわからないのである。

別の知識では首相が強いリーダーシップを発揮して岩盤規制を打ち破ることになっているのだが、首相がどこで力強いリーダーシップを発揮したのかはよくわからない。そもそもなぜ首相が力強いリーダーシップを発揮しなければ物事が進まないのかもわからない。

さらに同じ業種の戦略特区をいくつ作るのかということもよくわからない。今回は京都と新潟が落とされたようだということになっているが、この特区は地域を決めてから事業者を選ぶようになっているとすると新潟と京都は今治の件には関係なく特区を立ち上げればよい。今治プロジェクトが走っている間は新潟は同じようなプロジェクト提案をしてはいけないというルールはないはずだ。なぜ首相が力強いリーダーシップを発揮する特区制度をブロックするために別の大臣の作った基準が発動しうるのだろうか。考えてみると、なんらかの裏事情の想定を使って追加説明を加えないと特区制度そのものがうまく説明できないのだ。

つまり「あるべき姿」が何だったのかがよくわからなくなっており、従って何が嘘なのかもよくわからないという状態になっている。だが、攻撃する方もされる方もあまりそのことには興味がないようで、しきりに誰が嘘をついたとか嘘をついていないとか言い合っている。有権者も「嘘つき探しゲーム」に熱中しているようだ。

いずれにせよその意味では官邸が嘘を吐き続けるのは実は当然だ。ゴールは「加計学園の今治プロジェクトは決まり通りに行われた」ということを証明することなのだが、その途中で曖昧な意思決定が行われている。そこでそれに合わせてつじつまを合わせようとしているうちに誰もが大混乱に陥っている。するとどこかが整合しなくなる。この場合切り捨てられるのは中央から遠い人たちなので、彼らが文章を持ち出して「自分たちは正しい報告をした」と言いだして騒ぎが大きくなり、もはや収集がつかない状態だ。

この原因になっているのは首相の「力強いリーダーシップ」という嘘である。首相のリーダーシップがどのように発揮されたのかがよくわからないので。首相秘書官の関与もよくわからなくなっている。誰もが首相は日本で一番偉い人だからなんとかしてくれるのだろうと思っているのだが、実は何もしていないし監督もしていないということがわかってしまった。

加計理事長は2015年2月25日に加計学園理事長と安倍首相が会ったというのが記憶違いだったといっている。これは少なくとも加計学園が事業主体であり国も関与していると主張していることになる。関係としては「国」→「加計学園」→「地方自治体」である。柳瀬秘書官の説明でも「国」→「加計学園」→「地方自治体」ということになっている。加計学園が連れてきた専門家が「新しい獣医学部」について熱心に語ったことになっており、地方自治体はいたのかいなかったのかよくわからなかったことになっているからである。だが、実際には国は地域を設定してから事業者を決めることになっているはずである。いったいどっちが正しいあり方だったのだろう。

加計学園は今治市に96億円の支援を要請している。この支援自体は学校が認可されたら行われるということなので県や市の説明責任には直ちに影響はない。しかしながら実際には工事は先行して行われておりそのためにはお金が必要だったはずだ。加計学園が自己資金ですべての工事費用を調達できているのなら問題はないわけだが、加計学園には借金があり銀行からお金を借りていたはずである。つまり「まだ認可されるかはわからない事業」が担保になってお金を借りていたことになる。首相の関与には担保価値があるのである。すると「首相がいいねと言っていた」と誰かがほのめかしていたとしたら、その人は詐欺行為を働いていた可能性が高い。理事長がこれを主導していたとしたらこれは学校ぐるみの詐欺行為だし、別の人が主導していたとしたら加計理事長は使用者としてこの人を特定して告発する責任がある。

プロセス通りに許認可をしていたとしたら開学は間に合わなかったはずだ。すでに提案が間に合わないといって降りた学校があることがわかっている上に、認可が降りるかどうかまだわからない状態で借金もしなければならない。このような提案ができる事業主体はない。

もともと、戦略特区は外国に対する利益供与として設定されたという話がある。日本市場は監督官庁の既得権保護のために閉鎖的な空間になっている。アメリカが自分の国のルールで事業を展開しようとした時省庁の関与が邪魔になる。そこで首相が関与して省庁の既得権を排除しようとしているというのである。外国への利益供与のために国内産業が犠牲になることを一般に「売国」という。

嘘の追求はそれなりに続けていただいても構わないと思うのだが、野党になるのか後継の自民党の首相でも構わないのだが、この制度の問題を洗い出して問題点を国民に説明すべきだろう。背景にある問題は首相の「お友達の要求を叶えていい格好がしたい」という首相のわがままだ。ただ、実際にプロジェクトを進めようとすると臆病になってしまう上に、お友達が何をやりたがっているのかを理解しようという気持ちもないので、状況が大混乱する。この制度を温存している限り同じようなことが度々繰り返されることになるだろう。