米朝首脳会談の雑感

「歴史的」と称されたトランプ・キム対談から一夜明けた。いろいろなことがわかって面白かった。以下バラバラだが雑感を述べたい。

アメリカ人に「包括的」の意味を聞いたところ数人から「トランプ大統領は長文を覚えられないし理解もできないから」という答えが返ってきた。包括的というのは「いろいろ難しい」というような意味のようである。

G7と米朝会談の報道姿勢の違いを考えると、日本人は世界情勢は自分たちの手の届かないところで動いていると感じており、逆に自分たちの手に委ねられると困惑するか過小評価して無視したがることがわかる。ただ、これを悔しいとは思っておらず、「責任を取らなくて済む」と考えているのかもしれない。

G7のように「責任を取らされかねない」会議にはあまり関心が集まらなかったが、自分たちの手が届かないと感じると逆に追いかけたくなるようだ。各社ともシンガポールでの会議の様子を詳しく伝えた。とはいえ特に伝えることもないので「金正恩はシークレットブーツを履いているようだ」とか「ランチにタコが出たようである」などということを伝えるに止まった。NHKはニュースに北朝鮮の放送のような仰々しい効果音までつけていた。アメリカにとっては選挙キャンペーンの一環でありシンガポールにとっては観光プロモーションだった。日本人はこれを「歴史的会談」と捉えたのである。

そのあとは例によって憶測を記事にし始めた。トランプ大統領は米韓軍事演習を止めると言っているが、米軍や韓国側は「聞いていない」とのことである。防衛省には米軍に見捨てられるのではという不安があるようで、彼らが「真意を確かめる必要がある」などと言っている。が、真意を確かめに行けば「ではいくら払うんだ」ということになりかねない。

日本人は主体的な決定はとても嫌がるのだが、乗り遅れているとなると途端に焦りだす。


次に、安倍政権は自分たちの無力さを十分理解していることもわかった。現実の解釈を歪めることで心理的な無力感を軽減させようとしている。だがこれも責任を取らされることを恐れており無力感に依存しているだけなのかもしれない。どうせ何も決められないと考えてるほうが楽なのであろう。

ただこの態度はマスコミにも見られた。日本の重要問題は拉致であると言い続けたが、これは拉致よりも核といいきってしまうと「拉致被害者を見捨てている」と非難されかねないからだろう。かといって、拉致被害者が返ってくると考えている人はいない。とりあえず「そう言っておけば無難だ」という態度が見え隠れする。

都合の良い解釈によって現実から目を背ける傾向がある安倍首相は、G7で突発的に持ち上がった首脳同士の対立について行けなかった。決められないどころか議論に参加することもできなかったようである。彼にできるのはお膳立てされた席で決断力のあるリーダーのように振る舞うことだけであり、本当は責任を取らされることを誰よりも嫌っているようだ。だが、それを支えているのは「決めたくない日本人」なのかもしれない。反安倍人たちを除いて「リーダーシップがない」と非難する人はいなかった。

もし仮に海洋プラスティックの枠組みに入るとプラスティック製品が使えなくなる。アメリカのカフェの中にはプラスティックのストローの使用禁止を始めたところもあるのだが、安倍首相がこれを提案すれば国民からブーイングが出るはずで、何を勝手に決めているんだと言って怒るだろう。


さらにトランプ大統領については二つのことがわかった。トランプ大統領は韓国の駐留を単なる不必要な経費と考えており、日本を武器の貿易先と考えている。これは経営者としては当然の判断だと言えるが、アメリカの大統領は経営者ではない。細かなことには興味がないが、かといって部下の判断を尊重するようなこともない。単にその場でインスタ映えする瞬間を撮らせて選挙戦を有利にすることしか考えていない。

韓国との間の演習を中止すると宣言したようだが、事前の根回しをした様子はない。すでに情報戦が始まっており、軍の側は「今までの体制を維持する」と宣言している。しかし軍の反発は当然だ。演習を「挑発的な戦争ごっこ(war game)」呼ばわりしたからである。

記者会見での最初の方に「金正恩委員長を高く評価したがオットーワムビアさんのことを忘れたのか」という質問があったが、これにまともに答えず「ワームビアさんは特別だ」と意味不明のことを言い続けていた。さらに続く質問にも同様に答えており、記者たちにまともに対応するつもりもなさそうである。

米朝会議そのものにもあまり興味がなかったようで、その間にも地方選挙についてのエンドースメントや誰かの悪口をツイートし続けていた。軽度の興奮状態にあることは間違いがない。彼が長期的な視野を持たず「目の前の勝ち負け」に異常にこだわっていることを示している。この状態で根回しや橋渡しをしても何の意味もないし、分析そのものも無意味であると言える。

彼にとって世界は極めて単純だが、それに依存する人たちは振り回されることになる。だから、自分ではなにも決めたくない日本人との間の関係は最悪とも言える。

日本はこれに意味を持たせて自分の得点にしようとしている。すでに安倍首相がトランプ大統領とヨーロッパのリーダーの橋渡しをしたという幻想が語られており、コラ職人の創造意欲をかきたてたようである。これまでは安倍首相と周辺だけが嘘をついていたのだが、マスコミや国民も「アメリカが守ってくれているはず」という嘘の物語を求めることになるだろう。


アメリカが日本の防波堤になる時代は終わったが日本人はそのことを認めたくない。もう東アジアが共産圏になる脅威はなく、従ってアメリカ軍がこの地域に駐留する意味はない。

一方で日本は中国の大きさ(面積と人口)を恐れている。今までは、アメリカの後ろ盾があると感じることでかりそめの安心を得てきたのだが、これからは上手に付き合って行くか敵対するかを決めなければならない。アメリカが朝鮮半島の中国の管轄権(宗主権とか優先権とかどういう言い方をしてもいいのだが)を認めてしまうと、日本は独力で防衛を迫られることになるだろう。

今回トランプ大統領は日本と韓国が非核化の費用を負担すると言っているが、両国が躊躇すれば中国にチャンスが回ってくる。韓国は軍事的にアメリカを後ろ盾にしている国なので独力で経済圏を作ることは難しく日本とも協力ができない。もちろん日本は過去の歴史から北朝鮮を経済圏に組み込むことはできない。トランプ大統領にとっては自分たちがお金を出さないことさえ宣言してしまえばあとはどうでもよいことなのだろう。あとは「もう北朝鮮からミサイルが飛んでくることはない」と言い続ければ、国内の支持者を納得させることができる。

すると、日本は防衛費を諸外国並みに増やさなければならない。だいたい2%をちょっと上回るくらいが「相場」である。しかしながらこれをアメリカの関心をつなぎとめるためにも使いたいので、実際には役に立たない防衛装備品(素直に武器と言っても良いのだが)を買うための約束をしているようである。買い手が決まっている製品の品質保証に力を入れるほどアメリカはお人好しではないので、型落ちで部品が手に入れない戦闘機とか、構造上落ちる可能性が極めて高いヘリコプターなどを買わされる危険性がある。

野党は一枚岩ではなく、1%を超える防衛費も嫌だという人たちから、対馬まで中国の勢力圏が迫ってくるから大変なことになると主張する人まで意見がまとまりそうにない。

憲法第9条の問題を片付けなければならないわけだが、今の安倍首相の説得で憲法第9条の改憲を納得する国民はいないだろう。「他にいないから」という消極的な理由で支持されているに過ぎない上に、アンチ安倍人たちの反応はもはやアレルギーの域に達している。

決めたくない日本人の周囲で状況だけが動いており、日本人は後から大きな出費を迫られることになる。だが、実はこれこそが安倍政権の狙いなのかもしれない。状況に追いかけられて仕方なくやったといえば責任だけは取らなくて良いからだ。