世界で民主主義は死につつあるのか

Twitterを見ているとよく「民主主義が死んだ」と叫んでいる人たちがいる。中には「何回殺すんだ」と呆れている人もいるし、また「冷笑していると民主主義は本当に死んでしまう」と主張する人たちもいる。

これまで観察した結果、日本で混乱しているは日本型の組織管理システムであり民主主義ではなかった。そもそも日本の西洋型の民主主義システムは未成熟だが、本音と建前を分離して管理するシステムがあった。これが機能不全を起こしており結果的に「民主主義が死んでいる」ように見えるのだろう。本音と建前を西洋流に言い換えると嘘と隠蔽と言えなくもないからである。

ただし、世界の民主主義がどうなっているのかについてはわからない点も多い。たまたまタイムラインに流れてきたイアン・ブレマーのチャンネルで取り扱われていたのでご紹介したい。なお「翻訳が違っている」という不満をお持ちの方もいらっしゃるかもしれない。YouTubeには(多分機械翻訳による)字幕がついているので、ポーズしたり巻き戻し(矢印キーで巻き戻しができる)見ながら視聴すれば英語でも比較的容易に読み解くことができると思う。ぜひご自身で確かめていただきたい。

このYouTubeは三部構成になっているのだが、二番目にスティーブン・レビツキー(日本ではスティーブン・レヴィツキーとして紹介されているようだ)というハーバード大学教授のインタビューがある。レビツキーは民主主義の終焉過程について本を出したばかりらしく、この他にも新聞に民主主義の死に関するエッセイを書いたりしているようだ。

いずれ日本でも翻訳されることになるのかもしれないが、日本については全く触れられていない。日本の民主主義が健全なレベルにあるからなのか、忘れ去られているからなのかはわからない。アメリカではトランプ政権が誕生する前後から「民主主義の死」が語られるようになった。確かにアメリカの民主主義は危機にあるが、教授によると「民主主義の死」と言えるようなレベルではないという。

教授によれば、民主主義が死ぬケースはそれほど多くないという。例えば最近の例ではベネズエラが独裁制に移行し民主主義が崩壊した。だがベネズエラは民主主義の歴史そのものがそれほど長くなかった。教授はホアン・リンツのフレームワークをもとに四つのリトマス試験紙を使って分析を行っており、トランプ政権は全てに当てはまっていると言っている。しかし、アメリカの政体は「独裁」と呼べるような領域には達していないという。

  • 民主主義のルールに疑問を投げかける
  • 野党やメディアの基本的人権に脅しをかける
  • 暴力を許容する
  • ライバルの合法性に疑問を挟む

YouTubeの中には出てこないのだが、日本では「民主主義のルール」は守られている。自民党が選挙に勝ち続けているからである。三番目の暴力がどのような現れ方をしているのかはわからないので安倍政権がこのチェックに合格しているかはわからない。

ただ、基本的人権の制限についてはかなりおおっぴらに議論されるようになった。また、ライバルの合法性に疑問を持つことはないが「結果的に失敗した」とことあるごとに喧伝しており、中にはデマを使って野党を貶めるようなことまで行われているようだ。いずれにせよ日本も、危機にはあるが民主主義が死ぬようなレベルには至っていないと言ってよさそうである。むしろ政権交代が常に意識されるようになり、その分与党が「なりふり構わなくなった」と考えたほうがよさそうだ。

教授は民主主義が軍隊やファシズムによって外から攻撃されるとは考えていない。むしろ民主主義的な過程を踏みながら内部から崩壊してしまう。だが、民主主義社会の側もやすやすと破壊されることはない。そのカギになるのが豊かさと民主主義の経験(YouTubeの中ではageと紹介されている)である。アメリカは豊かな国であり民主主義の歴史も長い。

日本は全体が貧しくなる中で取り残された中間層がポピュリズムを希求するようになった。ネトウヨと呼ばれているのがそれである。しかし、彼らが政党に先導されて選挙結果を左右するような状態にまではなっていない。今自民党政権を支えているのは仏教・神道系の宗教組織がもたらす組織票である。こうした過程をみると、民主主義が死につつある社会と共通する要因がある。YouTubeに戻って見てみよう。

ベネズエラではエリートへの反発が大衆を動かしてポピュリズム(YouTubeの中ではポピュリズムという言葉は使われていないが)が台頭し民主主義が崩壊した。その前段階には二大政党制があった。ベネズエラは1980年代から新自由主義的な政策が行われて庶民層の怒りを買っていたとされる。チャベス大統領はその反発を利用して大統領になり当初は絶大な信任を受けていた。だがその政策は石油に依存したいびつな経済に支えられており、石油産業が行き詰ったところで民主主義体制が崩壊してしまった。

教授が心配している国は3つあるという。それがブラジル、インド、南アフリカだ。ブラジルでは汚職が広がっておりエリート層への反発が出ている。インドや南アフリカは与党が強いのだがこれが権威主義に結びつく危険性が高いという。つまり、与党が失敗して急進的な野党が政権を引き継ぐことで民主主義が死ぬ場合と、与党が権威主義化して民主主義が死ぬ場合があるということになるだろう。

南アフリカの件はYouTubeの中では既知の事実として受け入れられているのだが、日本ではズマ大統領が辞任してからのニュースはほとんど流れてこない。南アフリカはアパルトヘイトを戦った政党に人気が高かった。投資が呼び込まれて経済が成長すると未成熟な民主主義でもなんとかやってゆくことができていたが、リーマンショック後に経済停滞が始まると汚職が表面化した。日経新聞によるとズマ大統領が去ったからといって経済状態がよくなったわけではなく、現在でも低成長が続いているという。これが独裁に移行するのではないかと心配されているようだ。

ブラジルではブラジルのトランプと呼ばれるボウソナロという下院議員が「台風の目」になっている。庶民層から支持されたルラ大統領は汚職で捕まった。混乱する政治状況下で過激な発言を繰り返すボウソナロ氏が台頭する様子を現地のニッケイ新聞が伝えている。

ルラ大統領が支持された様子は田中角栄に似ているかもしれない。中卒で今太閤と呼ばれた田中角栄は庶民層に人気が高かったのだが最終的には汚職により政界を追われることになった。この後自民党は「金権政治」懸念を払拭することはできず、細川政権によって最初の下野に追い込まれ、そのあとも自民党が単独で政権を得ることはなかった。自民党は当初は左派と組みやがて宗教政党に乗り換え、その過程で一部の議員が原理主義化した思想を自民党に持ち込んだ。その意味では日本はブラジルや南アフリカなどの経験をすでに済ませているということになる。

日本は西洋型の民主主義の歴史は長くないのだが、その前進に日本型の立憲政治を経験している。これが分厚い素地となって民主主義とは違った形で政体を安定させている。「本音と建前の分離管理」というのもそのうちの一つなのではないかと思う。だが、民主主義そのものの歴史は短いために説明責任やプロセスの透明化などという理念は理解されず、これが表に出ると「民主主義は死んだ」と大騒ぎになるのであろう。

日本では多くの人たちが自分を中流と考えており政治に頼ってエリート層を打ち負かしたいという感情はそれほど強くない。また、中流層がそのまま国全体で没落しており格差の拡大もそれほど大きくない。つまりエリートへの反発というルートから民主主義が壊れる危険性はそれほど高くなさそうである。つまり、日本は民主主義とは別の社会と統治のシステムがあり西洋型民主主義システムを補っていると言える。日本の中間層は正直に問題点を教えて欲しいとは考えておらず、上手に隠蔽して管理して欲しいと考えている。

ヨーロッパでもアメリカでも中道右派・中道左派と呼ばれる人たちはグローバリゼーション(自由貿易と移動の自由の確保)を支持しているという。しかしながら30%程度の人たちはこのグローバリゼーションには賛成していない。こうした人たちがトランプ政権などのポピュリズム(繰り返しになるがYouTubeの中では使われていない)の支持層になり民主主義を脅かす。日本は移民がおらず、自由貿易によって利益を享受している側なので移民に対する反発が広がりさえしなければこのルートから民主主義が崩壊することもなさそうである。

日本の民主主義はそれほどの危機にはない。だが民主主義の歴史の長いアメリカでさえ民主主義は常に崩壊するリスクを持っている。基本的人権がないがしろにされる時その危機は高まる。だが、問題になるのは一部のネトウヨと呼ばれる人たちではなく「政治的な意識をあまり持たない」人たちだがこうした感激思想に<感染>することだ。その意味では一部の不見識な議員やネトウヨの取り巻きたちの一挙手一投足に腹を立てて感情をすり減らすべきではない。このようなことは日常茶飯事で起きているが「もう疲れた」と一発逆転を狙った瞬間に瞬間に崩壊が始まるかもしれないからだ。

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