成長はどこから来るのか

前回は石破茂について考えた。石破さんは首相になれる見込みがない。それは石破さんが国を成長させるアイディアを持っておらず、石破さんの周りにいる人たちも国を成長させるアイディアを持っていないからだった。

では、安倍首相のほうがよいのかとか、立憲民主党のほうがふさわしいのかという話になるのだが、そもそも安倍首相にも国を成長させるアイディアはない。安倍首相は日銀がうまいことをすれば僕らは何もしなくていいといった人だけの人であり成長を起こすアイディアは一切持っていない。立憲民主党もそれは同じようである。立憲主義が徹底されたからといって国民が豊かになることはない。

するとここから導き出される結論は簡単である。日本には成長の芽がないのだ。

では成長はどこから来るのか。韓国のジャニーズ事務所のようなところが株主に向けてプレゼンテーションをしているという動画を見つけたのでそれを観察してみたい。JYPは韓国で第二位のプロダクションである。あまりハンサムではないこの人が現役の歌い手兼プロダクション社長だ。バナナが好きなゴリラというあだ名がついているそうだが人気のあった歌手であり、韓国のHIROさんみたいな人である。

彼は英語で投資家に向けてプレゼンテーションをしているのだが、そのやり方は完全にアメリカ風である。英語が流暢なだけでなく投資家にビジョンを訴えかけるというやり方もアメリカ文化の影響を受けている。在米経験はあるようだが経営学などでアメリカに留学した経験はないようだ。それだけ広くアメリカ式の資金調達方法が浸透しているのだろう。

彼が掲げるビジョンは4つある。事業部制を採用し成長スピードを加速させること、ローカリゼーションを行いグローバル化を目指すこと、自社を音楽工場のようにすること、従業員のワークライフバランスを重視して生産性を向上させることである。

中でも注目すべきなのは「グローカル」マネージメントの輸出である。もともと海外のマーケットに韓国人のアーティストを輸出してきたのだが、今度は日本人だけからなるユニットを日本で売り出すという。これまでアーティストの海外進出を手がけていたのでノウハウそのものを輸出しようとしているのである。これが成功するとJYPはジャニーズ事務所などと競合することになる。日本ではTWICEが成功しつつあるので、この目論見も決して無謀なものではないだろう。

このようにして韓国のエンターティンメントは明確にアメリカ流の経済成長を志向しており、成果が出ている。日本語がペラペラの韓国人アイドルをテレビで見ることも増えたし、アメリカでは防弾少年団が韓国語のままビルボードにランクインした。

プレゼンテーションの中でもっとも注目すべきなのは従業員のワークライフバランスについてである。韓国では左派寄りのムンジェイン政権がワークライフバランスの充実を訴えている。最近は最低賃金を大幅に上げることに成功したもののそれが約束通りでなかったとして謝罪している。これをみると国民の生産性を上げるために「国を挙げて労働者のやる気を出させようとしている」ことがわかる。多くの日本人が羨ましく思う姿ではないだろうか。

だが、これも「リベラルな人権派が理想を追求したから起きた」わけではなさそうだ。つまり、韓国人は外国から投資を受けるために外国風の価値観を国内に浸透させようとしているのである。製造業はまじめさと効率性が重要だったのだが、サービス産業は居心地の良さを求める。

ではなぜ韓国ではこのようなことが起こるのか。日本は戦後すぐに製造業を中心とした企業文化をアメリカから輸入したのでサービス業にうまく適応できなかった。良い品質についての関心は高いが、スピードと多様性に対応できないし、居心地の良さが新しいサービスを呼び込むということが本質的に理解できない。韓国のほうが「OS」が新しいので成功しやすい。日本では製造業が他の「堅苦しい」労働文化が残っていて、サービス産業を充実させるのに「残業して長い時間働けば良い」と考える人が多い。確かに製造業ではラインを長く稼働させればよりおおくのネジやクギを生産できるが、クリエイティブ型のサービス産業ではアイディアの源泉が枯渇してしまう。

韓国は、お金のでもとにあわせて企業文化を作り変える必要がある。そこで「ワークライフバランス」が重要になるのだろう。つまり、ワークライフバランスは福利厚生というよりも投資家向けのアピールの色彩が強いということになる。結局は「理想」ではなく「お金」なのである。

ジャニーズ事務所のような旧型のエンターティンメント企業はテレビ局を抑えてネットへの露出を抑制することで、自社の利権は確保することができるだろう。しかし、テレビ局も事務所も内向きになりどんどんつまらなくなってゆく。ネットで面白い番組がいくつもでてきているので、若い人ほどテレビを見なくなるはずだ。すると、テレビはますます老人のものとなり過疎化が進むだろう。これまで嫌という程見てきた「村落の過疎化」現象である。

しかし、ジャニーズ事務所は成長する必要がない。テレビ局という利権が約束されているのでわざわざ海外に出かけて行く必要はないし、多分内部留保を蓄えており、銀行からお金を借りる必要すらないだろう。つまり、ジャニーズ事務所はキャッシュカウ型で安定しており新規の投資も新しい技術の確保も必要ない。だから日本は引きこもってもなんとかなってしまうのである。

一方韓国の若者は成功すれば世界に出ることができるが、恐ろしい競争に勝ち抜かねばならない。オーディション番組が流行しているのだが、ものすごい才能を持った人たちが競争で振り落とされてゆく。

これは多分多くの日本の企業で起きていることだ。利権に見合った仕事さえしていればいいので「わざわざ成長する必要」はないし「IT投資をして仕事を効率化する」必要もない。キャッシュカウが死ななければイノベーションは起こらない。日本はキャッシュカウを延命させることで過疎化を起こしている国だということになる。

新しい企業文化が入ってこない理由は他にもある。

最近トルコの経済が停滞している。アメリカと対立しており新興国マネーの引き上げが起こっているようだ。この新興国の中には韓国が入っている。韓国は「海外マネーを取り入れて成長している」国である。一方日本は債権国になっていて「お金を貸す側」になっているので、新興国マネーの影響を受けて経済が停滞するということはない。これがGDPでは見えない「先進国」と「発展途上国」の違いである。多分、歴史的な経緯から作られた差異であろう。

発展途上国は経済成長の余地が大きい上に、海外マネーを取り入れる必要性から新しい経営理念や価値観が入って来やすい一方で日本は過去の蓄積があり贅沢さえ言わなければそこそこの暮らしができる。最悪生活保護を配ってもそれなりになんとかなってしまう国になっている。ところが、何もする必要がないので、設備投資は更新されず、IT革命は起こらず、従業員の給料も上がらず、福利厚生も向上しないということになっている。

だが、発展途上国には固有の問題がある。政情が不安定化すると投資家が一斉に引き上げてしまうので一気に不況に陥る。トルコは今その状態にあり、それに引き込まれて南アフリカやアルゼンチンでも通貨安が起きたという話がある。

ここから発想を飛ばしていろいろな考察ができるのだが、まず最初にやらなければならないのは日本はキャッシュカウを殺してでも再び成長を目指すべきなのかという議論である。もともと長期安定志向の強い日本人には到底受け入れられそうもない政策だが、これは定常化(つまりゼロ成長)を意味する。

安倍政権を支持する若い人は「民主党になったら就職不安が起きる」という一方で、もう日本は成長しないからその状態になれるべきだというと「老害だ」と言って憤慨する。だが、ここまで見てきたようにこの二つは実は同時には成り立たない。目の前の就職不安を解消するためには既存の企業に生きていてもらう必要があるが、これは確実に成長を阻害している。だが、これを乗り越えることはできないだろう。

国が成長しないということは「新規の労働(平たく言えば頑張り)」が意味を持たないということになる。今まである蓄積で生活したほうが良い世界である。言い換えればアパート経営者の生活ということになる。資産で生活できると言えば聞こえはいいが、電球を取り替えたりという「メンテナンス」の毎日を送りながら、頑張っても収益は増えないという世界である。冗談抜きで「保守はメンテナンス」ということになってしまう。新しいことをやりたいと考えるとまだ住めるアパートを壊す必要があるのだが、その途端に収入の道が途絶えてしまうのだ。

「老後型」の国では労働も新しい技術も大した価値を持たないので、価値観を大幅に変える必要があるだろう。