おじいさんの国日本はその後どうなるのか

先日来、石破茂が首相になれないという現象を起点にして、日本は成長しない国になったということを観察した。日本人はこれを受け止めて「諦める必要がある」というのが最終的な結論だった。つまり、一生懸命に労働することが素晴らしいという価値観を諦めるか、それでも頑張りたい人は韓国のような先進発展途上国に行くべきだと提案した。

アンチの人があまりこのブログを読むことはないだろうが、これをTwitterなどで主張すれば「自虐史観だ」と攻撃される可能性がある。日本人がダメな民族だからこうなったと捉えられかねないからである。だが、この現象はある程度普遍的に起き得るのではないかと考えた。つまり、韓国が優秀だから成長しているわけでも日本がダメだから成長しないわけでもないのではないかと思う。

これについて考えられる良いモデルはないかと探してみることにした。韓国が「お金集め」を動機にして新しい価値観を受け入れていることを観察したので、日本の対外債務に着目した。なお一言で「成長」といってもその方式は一様ではない。かつての大英帝国のように経済圏を拡大して成長を目指す国もあるし、イノベーションでも成長は起こる。

日本は海外にお金を貸す債権国になっている。このため新しい価値観や技術を受け入れて成長する動機がない。自前でなんとかなってしまうからである。だが、国内に投資機会もないので地方は潤わない。そして若い人たちが学習してもそれを活かせる場所もない。つまり格差が固定化される。この記事を書いている時に、日本では博士号や修士号を持つ人たちが少なくなっているという毎日新聞の記事が話題になった。先進国では一人負けなのだそうだが、未来に投資をしなくなったのは日本が老齢化しているからだろう。

そこでいろいろ検索してみると「成熟した債権国」とか「未成熟の債権国」という議論があることがわかった。どうも「国際収支発展段階説」というモデルがあるらしい。この中で日本がどの段階に入るのかということが話題になっているようである。2014年に日本は「成熟した債権国」に入ったという話を見つけた。いろいろな説があるようだが、バブル崩壊と同時に未成熟な債権国になり、リーマンショックあたりで成熟した債権国になったという説をいくつか見つけた。

その一方で、安倍政権時期に入ってから純資産は減少している。これは取り崩しを意味するので「再建取り崩し国」になっている可能性もあるし、円の価値が減少したことによる一時的な現象なのかもしれない。

日本は債権国であるという事実を取り出して「政府がいくら国から借金をしても大丈夫なのだ」という人がいるが、それとこれとは別の議論なのだそうだ。

日本が長く成熟した債権国でい続けるためには投資スキルを獲得して「賢い運用」を心がける必要がある。しかしこの状態を永遠に続けるわけには行かない。その時に「次の段階」にはいるわけだが、その時にはまた新しい飯の種が必要になる。この記事ではアメリカは先行してこの段階に入っていると言っている。アメリカはシェールガスの輸出国になりつつある。

昔稼いだお金の利子でやって行けると聞くと良いことばかりのようだが、今の日本を見ているとそうでないことがわかる。実経済に対する意欲が失われてしまうからである。お金持ちになると人は堕落する。かつて、オランダ病と言われる状態があった。天然資源を輸出するだけで外貨が稼げてしまうので実態経済が停滞したという現象である。ノルウェーのようにこれを未然に防いだ国もある。国が資金を管理して未来への投資に優先的に割り当てるのである。ちなみにオランダではオランダ病が克服できず最終的に「ワークシェアリングで痛みを分かち合う」という合意がなされるまで不況が続いた。Wikipediaのワッセナー合意のエントリーに詳しい説明がある。オランダがこの病気を克服できたのは民主主義が発展していたからである。もともとスペインの植民地から独立したオランダは自治の歴史が長かった。アフリカの国の中には天然資源をめぐって争いや政治腐敗が横行して成長の階段から転げ落ちてしまう国が多い。

中国はまた別のやり方をしている。彼らも海外債務を持っている債権国なのだが一帯一路政策をとり海外への投資をしている。つまり独裁を強化して強いリーダーシップを生み出し生き金を使うことで段階が成熟することを防いでいる。中国は国内投資が一段落したのでこれを海外展開しようとしているのだろう。しかし、このやり方は先進国とあまりにも違いすぎており、やがて「文明の衝突」を引き起こす可能性があるのではないかと思われる。

あまり投資に慣れていない日本人は貯まった金の使い方がよくわからないのだが、中国人は本能的に金が溜まりすぎると経済活動が停滞するということ知っているのかもしれない。この記事によるとこのため中国は「債務国」の段階にとどまっている。前回韓国の例を見たのだが、債務国の企業は海外投資を呼び込んで積極的にビジネス展開するので活力が失われない。つまり日本は老齢化により「取り崩し」段階に入りつつあるが、中国は時計の針を遅らせることで債権国になることを防いでいるのだとも言える。日本はオランダのように通貨高にはならなかったのだが(一説には人工的に抑えているとも言われている)がそれでも経済が老化し始めているのである。

ドイツも債権国なのだが、このPDFを見るとこれまでは移民が賃金を周辺国に還流させることと観光によってドイツ人がお金を使うことで黒字を減らしてきたようである。しかしこの流れは滞りつつあり「ドイツの一人勝ち」が生まれている。これはドイツにとって良いことのようだが、周辺国の不満を生んでいる。また急速に移民がなだれ込むことにより「極右」にラベリングされる政党が伸長し民主主義に危機が生まれている。だが、本当の問題は債権国状態が恒常化することにより、結果的に経済が「おじいちゃん」になることなのかもしれない。まだその兆候は現れておらず今後を注目したい。

ここまでを見る限り「成熟した債権国」でい続けることはあまりいいことではないようだ。カネ余りは成人病のような状態を作り出すからである。日本では未来と地方をしめころしつつある。現在の日本は国内に投資できる機会が減っている。このため地元経済や子育て世代にはお金は回らない。しかし企業はお金を抱えていて海外への投資を行っている。地元経済や子育てにお金が回らないので政府は借金をしてその穴埋めをしているという状態になっている。

新しい人たちや周辺部にチャンスがないので、結果的に経済がシュリンクしてしまうのだ。このままでは新しい経済段階を登り始める前に肝心の成長点が国から消えてしまっているということになりかねない。我々は構わないのだが子孫にたいへんにハンディを負わせることになるだろう。

やがてはまた新しい発展段階を登り始めるのだが、その前にとても子供を育てられる環境ではなくなり大学教育が根本から破壊されている可能性もある。そうなれば国としては終了である。数世代ののちに蓄えを使いつぶした後でどこかの国に吸収されることになる。そうならないようにするためには、まず政治家が現状を冷静に見極めた上で対策を講じる必要がある。アメリカのように新しい資源が発見されるということがないのなら、投資で集まったお金を優先的に未来や地方に投資するか、経済圏獲得のために外国に積極的に投資して権益を確保するというやり方があるのではないかと思うのだが、他にも方法はあるのかもしれない。

自民党の安倍氏・石破氏によると日本の最優先課題は憲法第9条を変えて70年以上前の清算をすることのようだ。確かに大切な課題なのだが、実際にはバブル期以降経済のフェイズが2つか3つ進んでおりまずその対応を急ぐ必要がありそうである。だが自民党には選挙対策本部はあっても経済シンクタンクはなくビジョネアーもいないので、国の方針を決める議論ができない。かつては中央省庁がこの役割を担っていたのだろうが、今では霞ヶ関で村を形成しており国全体のビジョンを策定する能力を持った人はいないのかもしれない。