消費税議論の嘘

消費税増税の議論が錯綜している。実はこの議論は嘘が大元になっているのでそもそもまともな議論ができないことになっている。知っている人は知っている話なので改めて書くようなものでもないのだが、一応知らない人のためにまとめておきたい。

社会福祉のために使うというのは嘘

もともと消費税は直間比率の見直しのために創案された。中曽根康弘の自伝から引用しているウェブサイトを見つけた。孫引きになってしまうので詳細の議論は直接自伝を参照していただきたい。日本の税制は戦後アメリカが作ったものだが、景気に左右されてしまうので、景気に左右されにくい売り上げから税を取ろうというのがその大元になっている。さらに、この議論は国債の発行の抑制議論の一部であるという二つが重要な観点だ。

つまり、最初から食料品のように「不景気になっても消費が抑制されにくい」ものから薄く広く課税することが目的になっているわけである。ところがこの引用からもわかるように、日本では税制を変えることに対する反対意見が大きいのでなんらかの別の目的が必要になった。それが福祉財源としての消費税だった。しかし、その後「国債はいくら発行しても日銀が買い取ってくれるし、国民は資産をもっており外国から借りているわけでもないので、国債はたくさん発行しても困らない」という論調となり、行財政改革は行き詰ってしまう。その「嘘」に乗っているのが安倍政権なのだが、安倍首相や麻生財務大臣が何をどこまで嘘と認識しているのかはよくわからない。

財務省がまとめた表向きの歴史では、直間比率の見直しは政治主導ということになっており、彼らは「言われたことをやっているだけ」という認識になっているようだ。(財務省・PDF)しかし、これもたぶん嘘なのではないだろうか。高齢者が増えることが予想される。高齢者は給料をもらわないので所得税に変わる財源は是非とも必要だからである。ただ、これだと「高齢者からも新しい税をとりますよ」ということになってしまい、表向きは言いにくい。

ところが、これでは有権者を説得できないと考えた誰かが「福祉のための税金だと主張すればいいんじゃないか」と言い出したのだと思う。当時の非自民党系の政権は消費税議論には後ろ向きだった。自民党が金権政治+消費税増税で国民の信任を失ったのを見てきたからである。

細川政権も当初消費税増税に後ろ向きだったが、細川護煕首相が急に「国民福祉税にして7%に上げたい」と言い出した。もともと「金権政治をなくせば増税しなくて済む」というスローガンだったので「細川は嘘をついた」ということになり政権が瓦解した。(日経新聞)そして菅政権も10%構想を打ち出し国民の信任を失い、野田政権で実行を決めたことで政権から放逐される。細川護煕の自称録を参照したウェブサイトが見つかったが、アメリカにコメの開放などを迫られて忙しかったので消費税にまで頭が回らなかったというようなことが書かれてある。

安倍首相もこれが嘘であるということを知っている。だが、その手法は変化しつつある。元財務大臣だった藤井裕久はこう語る。(日経新聞

「世論を十分理解しない政策は理念が正しくても駄目だというのが国民福祉税の最大の反省。増税の前にやるべきことがいくつかある。公のムダ排除と国会議員の削減は大前提。目的税化や逆進性対策、地方との関係を議論し、税制への信頼を高めるために、インボイス(送り状)や番号制度を導入することも必要だ。理念先行だった大平さんや細川さんと同じで、今度も3度目の教訓になっちゃった」

つまり、行政改革が先行しているように見えなければ国民の理解変えられないだろうというのである。これがクラッシックな(つまり昭和を知っている)消費税議論の順番である。だが、国民の福祉に使うという嘘を信じた「第二世代の政治家」たちは、福祉といいさえすれば、行政改革は必ずしも必要ないと考え始めた。

このため、すでに自民党が支持を失ってから政治家になった安倍首相は、だんだんいうことが無茶苦茶になってきている。もともと「老後の安心のために消費税をあげさせてください」と言っており、これ自体が嘘なのだが、この過程で消費税と赤字国債の関係が忘れ去られているので、国債の累計発行額は上がり続けている。(財務省

その上、今度は「教育費を無償化する」と言い出して選挙を戦った。この時「無償化の財源」については触れなかった。(東京新聞西日本新聞)選挙が終わってしばらく経つと今度は無償化のために財源が必要だから消費税を上げさせてくれと言い出した。では教育無償化をやめれば消費税は上げなくて済むのかという話になるのだが、これを聞かれると多分安倍政権は沈黙してしまうだろう。

つまり、もともとこの議論全体が嘘なうえに、一体何の嘘をついているのかすらわからなくなっているという状態なので個別の話を聞いてもあまり意味がない。選挙が終わればまた別のことを言い出すだけだからである。

消費税反対という野党も嘘

一方で野党の側の態度も煮え切らない。例えば山本太郎は消費税の引き下げを提案しているはずだが、先の日経新聞の記事を読むと細川政権下の小沢一郎は国民福祉税構想に賛成の立場だったし、藤井の見立てによれば「大蔵省と小沢一郎の合作」である。現在は自民党だから上げられないと言っているだけで、消費税をいくらにするのが適正なのかというビジョンは持っていないはずである。

さらに野田政権も税金を上げなくても行政の無駄を省くと言っていたはずなのだが、結局「消費税を上げざるをえない」と決断して下野したという経緯がある。こちらは記憶をしている人も多いのではないだろうか。そのために枝野幸男は消費税には反対とは言えないので「今の時点であげるのは反対」というに止まっている。消費税議論は「行革とセット」だったわけだが、これも無理だと言っている。要は何もできないと言ってしまっているのである。ここで景気をよくするアイディアが出て来ればよいがそれもない。つまり、何もしないと言っているのだ。

週刊新潮には伊藤惇夫の発言として「立憲民主党の議員の中には消費税は18%程度にまで上げなければならない」と指摘する議員がいるということを伝えている。(デイリー新潮

伊藤氏が立憲民主党の議員と懇談すると、例えば消費税増税に関して「本当は18%くらいまで上げなければいけないんですよ」と本音を打ち明けるという。

しかしそもそも何のための税金なのかがわからなくなっている上に、政党は有権者の反発を恐れて本当のことをいわない。議論の基礎がないのだから、そもそも適正税率などあるはずはない。すると結局「取れるだけ」取ろうというような話になってしまう。20%は行き過ぎだから19%か18%くらいでということになるのだ。

公平な税金というのも嘘

公明党は食品を軽減税率にすると痛税感が和らぐと主張している。(公明党)しかし例えばアメリカで売上税が高いとされるカリフォルニア州の2018年現在の税率は8.25%だそうである。(ロスアンゼルス留学情報館)しかも、ロスアンジェルスでは食品やサービスには売上税がかからないようだ。(Rafu Shimpou)つまり、すべての取引に消費税がかかる日本はそもそもアメリカと比べると多くの税金を支払っており、痛税感が強い。

イギリスの付加価値税は20%と高額だが、これも食品や介護用品は免税であり日本よりも痛税感が少ない。面倒であり文句も多いようだが、少なくとも食品などでは税金を取らずに財政規律を守ってなんとかしましょうと工夫しているのである。

だから、食品は8%に据え置くからといって「お得な感じがしますよね」というのは実は嘘なのである。

どの政党もなんとなく嘘をついている

このことから、どの政党もなんとなく嘘をついているということがわかる。民主党系の野党は「消費税に頼らなければ将来財政が破綻する」ということを知っているが、これを言うと選挙に負けるために言えない。公明党はすでに自民党の共犯者になってしまっているので、食品は8%に据え置くからお得でしょと催眠術をかけようとしている。ちなみに最近地上波でもこの催眠療法が始まった。さらに自民党支持者のなかには過去についた嘘さえ忘れてしまっており、国債は日銀が引き受けるからいくら発行してもOKであり、安倍政権は財務省に騙されているだけだということを言い出す人が出てきた。

石破茂も10%では足りないと言っている。(時事通信社)だからポイント制度を作って2%還元するくらいでは問題は解決しないし、ましてや一回きり商品券をもらったからといって痛税感が改善するわけではない。国民はそのうち慣れるだろうが、慣れる過程で消費を抑制することが予想される。

今後、消費税をめぐり様々な「議論」が出てくるものと思われるが、こうした基礎知識を持ちながらなま温かく観察するのがよかろうと思う。この議論にまともにぶつかると、もやもやだけが募り睡眠不足に陥ってしまうかもしれない。

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