防弾少年団の問題でテレビ朝日は何に失敗したのか

防弾少年団がテレビ朝日の番組に出られなくなって日本の保守は大喜びだった。だが、海外ではどんな反応が見られるだろうか。このニュースをアメリカのABCが伝えている。ABCは朝の人気番組で防弾少年団を紹介しており「自分たちとあまり変わらない気のいいお兄ちゃん達」という印象がある。それを頭に入れてこの記事を読んでいただきたい。なお記事は荒訳なので、間違いを含んでいる可能性がある。

日本のテレビ局がBTS(防弾少年団)のテレビ出演をメンバーの一人が着ていたTシャツを理由にキャンセルした。テレビ朝日は金曜日の生放送の出演をオファーしていたが、メンバーの一人であるジミンに対するクレームを受けてこれを取り消した。

視聴者はジミンが2017年3月にロスアンゼルスでジミンが着ていたTシャツにあった「原子爆弾の雲」と「第二次世界大戦からの解放」という内容にクレームをつけた。Tシャツには「コリア」と「愛国」と書かれていた。テレビ朝日はBTS所属事務所とこの問題について話し合ったと説明している。事務所はのちにオフィシャルファンページでショーには出演しないと告知した。

ABCニュースはBTSのマネジメントチームにコメントを求めたが、チームからの即時回答は得られなかった。

韓国のローカルニュースは日本の反韓感情の証拠の可能性があると伝えている。聯合ニュースのTVレポーターは「韓国人歌手が日本で突然キャンセルされたのは初めてではない」と説明した。

BTSは来週に東京ドームを皮切りに日本の4か所でのコンサートを予定している。この韓国のボーイバンドはアメリカのビルボード200チャートで2回一位を取っている。

表面的には事実だけを伝えており、ここからアメリカの人たちがどんな印象を受けるのかはわからないが、一つ見逃せないことが書かれている。韓国側の視点で書かれているのである。

アメリカの人たちは日本人のように原爆を絶対悪とは思っていない可能性が高い(原爆投下の知識すらない可能性もある)からこれが「原爆」で起きた反応なのか「韓国独立」で起きた反応なのかがわからない。さらに、リーダーのRMは英語が堪能であり、最近グッドモーニングアメリカ(GMT)というアメリカの有名な朝の番組に出演して人気を得ている。彼は普通のアメリカ人と同じような英語を話す親しみの持てるアーティストである。

そうした背景を知った上でこの記事を読むと「なんだかよくわからない問題のために突然出演をキャンセルされたかわいそうなバンド」という印象がつく。するとアメリカ人は韓国側に肩入れしてしまうのだ。韓国人の歌手が出演をキャンセルされたのは初めてではないという韓国側からの情報にも「差別感情」が匂わされている。

日本でTwitterの反応をみると「テレビ朝日が番組出演をキャンセルしたのは大勝利だ」というようなことになっているのだが、実際にはそう思われていない可能性が高い。

今回、テレビ朝日はなぜ防弾少年団の出演をキャンセルしたのかを説明しなかった。多分、関わり合いになるのを避けたのだろうし、原爆の写真が問題であることは日本人には説明しなくてもわかる。さらに他のマスコミもこれを話題にすることを避けたので誰も「日本人が原爆についてどう思っているか」を説明しなかった。だからこれが翻訳されてアメリカで紹介されることもない。一方で、韓国は憶測も交えていろいろな情報発信をするので、結果的にこれだけが伝わるのである。

テレビ朝日は外国の視線も意識しながら「両国で違う見方があることは承知しているが政治問題に発展しかねない議論を持ち込むべきではない」とか「アーティストの表現の自由は保証されるべきかもしれないが、日本の国民感情から見て原爆を許容したとみなされかねない出演者を許容することはできない」などのステートメントを出し、原爆は日本では特別な問題であるということを伝えるべきであった。しかし、もともと内向きで国内の炎上だけを気にした日本のメディアが数日でこうした判断を下せたとも思えない。

国内市場が狭いとか外貨が必要だとかいう理由があったにせよ、積極的にアメリカに進出し言葉も堪能な人が多い韓国と比べると、日本人は内向きでアメリカに進出した日本人のアイドルはそれほど多くない。通訳を交えてあらかじめ決められた「アーティストトーク」ができたとしてもRMのレベルでは英語は話せないだろう。通訳越しの会話よりも直接話せたほうが親近感が増すというのは当然だ。

日本が困った時に国際世論が、顔の見える韓国と顔の見えない日本のどちらを応援するのかということになる。答えは明確なのではないか。保守と呼ばれる人たちは今回騒ぎを起こして日本を守ったと思っているのだろうが、テレビ局を萎縮させることで結果的に日本の声を海外に届けるのを妨げている。なんとも皮肉なことだ。

日本の議論はいつも内向きである上に、そもそも日本人は外国人を人としては見ていない。高齢化が心配だから働き手は確保したい。しかし、賃金も払いたくないし、社会保障からも締め出したいというような議論が平気で行われている。またすでに海外から「研修」という名目で開発途上国から来た人を騙して使っている。実習のはずなのに怪我をしたら使い物になれないから帰れと言われたり残業代の時給が300円という訴えも出ている。こうした実態が当局に見つかると研修先を用意するのでもなく途中で打ち切り国に返してしまう(朝日新聞)し、彼らがあまりの辛さに逃げ出しても「脱走した犯罪者だから」ということで犯罪者扱いして国外に退去させている。さらには難民として入ってきた人を何年も施設に留め置き(東京新聞)自殺者も出している。人としてみていない外国から信頼してもらえないのは当たり前である。

日本人は「言わなくてもわかるだろう」と考える人が多いのかもしれないが、アメリカ人は説明しないことはわかってくれない。内向きで外国語も話せないうえに、そもそも説明しようという気持ちにもならないから、欧米諸国にもわかってもらえないだろう。

自分たちが下に見ている外国人を使い倒し、逆に上に見ている人たちには萎縮して自分のことをうまく説明できない。100歩譲って慰安婦や徴用工の問題に日本の言い分があったとしても、日本語だけで内輪の議論をしているだけでは何も伝わらないだろう。

実はテレビ朝日の対応もその延長になっている。外国の視線を意識しない時点で、テレビ朝日は議論に負けていたのである。

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