マティス国防長官の辞任に全く反応しなかった日本人

マティス国防長官が辞任することがわかった。またしてもトランプ大統領によるTwitter辞令だったために日本などの同盟国には告知されなかったのではないかと思われる。今日はこれについて考える。




マティス国防長官は辞任にあたってトランプ大統領に手紙を書いており、これが各媒体で紹介されている。(New York Times)日本でいえば防衛長官の解任がTwitterで知らされその反論が朝日新聞から出るというような感じで、極めて異常な何かが起こっていることがうかがえる。マティス国防長官は新聞を使って説明責任を果たし、トランプ大統領はTwitterを使い説明責任を放棄した。

マティス長官が防衛についてオーナーシップを持っているのは明らかで、その意味ではマティスにとってこの仕事は所有集団になっていることがわかる。そのため、後に残る軍人やその他の職員について言及しており、十分な引き継ぎ時間を取ったと説明している。と同時に後任は勝手に決めたらいいと言い放ってもいる。日本人は仕事に対して所有感や所属感を感じると後任についても色々と言いたがるものだが、マティス長官はトランプ政権に必ずしも所属感情を抱いてはいなかったようである。その意味では「わが軍隊」ではあっても「わが政府」ではなかったということだ。

この件について思い出したのは天皇誕生日の会見だった。実はニュースは見ていないのだが声を詰まらせて「30年の間に戦争がなくてよかった」と語られたそだ。よほどの重圧だったということがわかるのと同時に、今上陛下が日本の平和について政治的権限がない中でオーナーシップを感じていたことがわかる。戦争と平和ということを語る上でこの重圧と責任感というのはとても大きな視点だと思う。

マティス国防長官はトランプ大統領の予算措置には感謝している。しかし、英語の場合「だがしかし」の後が重要である。そのだがしかしの中身がいささか深刻だ。戦争と平和にオーナーシップを感じていたであろうマティス国防長官は、同盟国との関係が重要視されていないことがアメリカの国益を損ないかねないと言っている。

マティス国防長官によると、アメリカは自由・民主主義社会を守るために同盟国と組んで中国やロシアと対峙している。であるから、同盟国を大切にしなければならないと言っている。この価値観がトランプ大統領と合わないと言っているので、言い換えると「トランプ大統領はアメリカの価値観がよく理解できていない」と批判していることになる。

トランプ大統領は目先の利益を優先し同盟関係を取引の材料にし始めている。これがアメリカという国の国益を損なうというのがマティス国防長官の主張なのだろう。そんななか彼はアメリカの戦争と平和に責任は持てないと言っているのだ。

今上陛下の発言はある程度日本人の心を動かしたようだが、マティスの件はあまり関心を集めなかったようだ。日本人には正常化バイアスが働いていて「同盟を維持する価値観が揺らいでいる」と考えたくない人が多いのではないかと思った。つまり、意味がわからなかったという人と、なかったことにしたいという人が多かったのではないかと思う。日本人は戦争と平和について真剣に考えていない。国民だけでなく政権も実はそれほどの責任感は持っていない。

このオーナーシップのなさが顕著に表れているのが辺野古の埋め立てである。埋め立ては始まったが工事が着工できるめどは立っていないそうだ。まだ調査も終わっていないそうで、予算執行が見送られたと伝えられた。(琉球新報)巷ではファッションセレブのローラさんが「辺野古を守れ」と表明したことが話題になっている。これは国防とはリンクせず単に環境破壊はいけないという文脈だ。実際には単なる反対派への嫌がらせのための無駄な環境破壊が起こっているだけなのでローラさんの指摘は実はあっていたことになる。官邸は反対派が面白くないという村の論理で必要のない埋め立てをやっているのだ。毎日新聞によると海底が軟弱でコンクリートの構造体が置けない可能性もあるそうで(毎日新聞)そうなるとアメリカのアセスメントに通らないから基地は移転できない。

最後に、損得で国防を考えがちな日本人は、価値観が同盟を支えているということをあまり理解していない可能性があると思った。アメリカは人工的に作られた国なので自由を守るというイデオロギーがとても大切だ。それを守るためにアメリカの国境を固めて国際的には引きこもるというのが孤立主義であり、世界の同じ価値観の国と連携するというのがマティス国防長官らのイデオロギーなのだろう。

日本人はどうやら「アメリカが世界で一番強いのだから、それに依存するのが一番トクである」と損得勘定で考えているように思える。安倍首相が「自由主義という共通の価値観を」と主張すればするほど、このうわ滑った感じに薄ら寒さを感じる。平たく言えば「アメリカの意向を背景に中国に対して威張りたい」と考えているのではないかと思ってしまうのである。

アメリカで同盟関係を維持する価値観が揺らいでいるということは近い将来日本に対して重大な問題になるだろう。アメリカが日米同盟を経済的取引のための道具として利用すると、これまで近隣諸国とうまくやってこなかった日本はそれを拒否できない。日本人は強いものに守られていると感じると弱いものにことさら居丈高になる。関東軍を背景にして日本人が、満州人や中国人を「指導」したというのと同じことである。相撲のかわいがりと同じようにそれは暴力的な威圧だった。結局関東軍は逃げ出してしまい、取り残された日本人は今度は満州で逃げ回ることになった。同じようなことが起こるかもしれないし、守ってやっているのだからという理由で過剰な貢献が求められるようになるかもしれない。実際にアメリカの兵器産業への貢献は進んでおり、国会ではほとんど議論になっていない。

さすがにトランプ大統領も国防を恫喝の道具にはしないだろうと思いたいのだが、トランプ大統領は先日政府機関の一部閉鎖に踏み込んだ。(時事通信)彼にとっては政府機関とは自らと支持者の欲求を満たすための道具にすぎない。もともとは自身が責任を取ると言っていたそうだが、支持者たちが騒ぎ始めると一転して民主党非難に転じた。これを同盟国との関係でやらないとは言い切れない。

さらにニューヨークタイムスはあまり心配しない日本人の代わりに同盟について心配している。価値観によって結びついているヨーロッパが離反すれば、いくつかのことが起こる。日本がアメリカと一緒に孤立し、アメリカからは守ってもらえず、中国とヨーロッパが接近して相対的に中国の力が強くなる可能性があるのだ。

しかし最悪なシナリオが実現しても日本のジャーナリズムはこれを見て見ぬ振りをする可能性が高い。記者クラブという既得権益に守られて政府の御用報道になったジャーナリズムは分析力を失いつつあるからである。これが結果的に国民の知る権利を侵害し、更新されない古びた世界観を持った保守とリベラルが不毛な論争を繰り広げる可能性がある。