アベノミクス実質賃金偽装の正体についてあれこれ考える

補正予算の審議が行われ安倍政権が統計を偽装してアベノミクスの成果を偽装しているのでは?」と論戦になっていた。表面上面白かったのは安倍首相の自白だ。アベノミクスは失敗した(あるいは万策尽きた)と認めている。




安倍さんは給与の額面については出すと言っているが、実質賃金は出さないと言っている。実質賃金とは額面ではなく「一体どれくらいのものを買えるのか」ということを指している。コトバンクではこれをデフレートという難しい言葉で説明している。これが出せないということは政府も「給与所得者の購買力が落ちている」ということを認めていることになる。根本さんは「生データは出すから勝手に民間(ユーザー)で予測してくれ」と言っているのでもう白旗は上がっている。安倍さんの性格上「嘘をつきましたごめんなさい」とは言えないというだけの話なのである。森永卓郎はTBSのニュースで「政府が統計を出してくれないから計算できない」と駄々をこねていたが、野口悠紀雄は手に入るデータを実際に計算し「どのデータでも伸び率が下がっているのが問題」と言っている。

実際に「景気が良くなった」という実感がなく、賃金上昇なきインフレが始まっていると考えられる。安倍政権はこれを見て見ぬ振りをしている可能性が高い。このインフレという言葉は今回の記事では「=経済成長」と使われることがある。つまり、経済が成長しても賃金に戻ってこなければ「悪い経済成長」になってしまうのである。

安倍さんたちが言い争いをしているのは賃金が上昇しているか下降しているかという点である。ガベージニュースによると実はアルバイトやパートの賃金は上昇しているようだ。つまり、アルバイトやパートは不足しているのである。これが安倍さんが得意げに言っている「有効求人倍率が上がっている」の正体だ。安倍さんは繰り返し「低賃金労働者が不足しているから」アベノミクスは成功だと胸を張っているのである。海外から低賃金労働者を受け入れ始めたところをみると人手不足は本当に始まっており、安倍さんはこれが賃金成長なき経済成長だということを知っているのだろう。

ここで最初の絵が出てくる。かつての日本は正社員1名とパートが若干名という構成だった。お父さんは働き一部のお母さんや学生などが「お小遣い稼ぎ」をするのが目的だったからである。ところが、サービス業転換が進みパート依存が進んでいる可能性があるということになる。例えばパートに依存する世帯が増えても大企業の一部の賃金労働者の給与ものすごく増えれば「給与総額」は上がり続ける。が、年金が逼迫している老人とパート依存の世帯の数が増えれば全体としての景気は悪化して行く。低所得世帯が増えるからである。

こうなると今の部分部分を取り出した議論には全く意味がない。

こんな中、NHKはとんでもないことをやらかしてくれた。NHKは企業広告をしないはずなのだが、パソナが高齢者向けに説明会をやったということを堂々と企業名入りで広報してしまっている。NHKしか見ない上に年金に不安のある団塊世代の人たちは、この宣伝に乗りパソナに使い捨てられることになるのだろう。こうして全体としてさらに不安定な状況が強まり、その仲介をするほんの限られた人たちがけが肥え太り、さらに政治的影響力を増す。多分、NHKはこの流れがわかっていて広報しているはずだ。製造業派遣の解禁から海外技能実習生の導入の先にあるのは豊富な恒例労働力だ。パソナはNHKに無料広告を頼めるほど政治的影響力を増しており、さらにこれが強まることになる。

安倍首相はこうした全体の流れを理解しないままで得意げに官僚が書いた紙を読み続けているという可能性はあると思う。が、多分官僚たちは何が起きているかを知っているはずだし、安倍首相も考えればわかるはずである。

こんな中で維新の藤巻健史さんがニヤニヤと面白い質問をしていた。政府は財政健全化のためには「名目経済成長率」を維持し続けなれけばらならないので統計を高めに出したい。ドーマーの定理というヒントだけが出ており何が言いたいのかよくわからない。

現在、日本においては、名目GDP成長率が名目公債利子率を上回れば、財政赤字は維持可能であるという概念になっています。

https://www.ifinance.ne.jp/glossary/global/glo219.html

一方で年金支出とマクロ経済スライドの話をほのめかし、名目経済成長率が高まれば5年ごとの年金支出を見直さざるをえないですよねと言っている。つまり、「財政健全化と年金の維持が本当に両立するのですか?」と言っているのである。答弁者は根本厚生労働大臣だったがおそらくはこれを理解しておらず、藤巻さんは後ろにいる「人形遣い」に聞いていたのだろう。

さらに、冒頭の野口悠紀雄も面白いことをほのめかしている。

最大の問題は、公的年金の財政検証で非現実的に高い実質賃金が想定され、人口構造の変化に伴う深刻な問題が覆い隠されていることだ。

https://diamond.jp/articles/-/193149?page=6

ここまで来て、真の問題が見えてくる。実質賃金(つまり間接的に物価のことを言っている)のトレンドに変化が起きているということは、実はいままで財政と年金財源の間にあった微妙なバランスが崩れかけているということを意味している。一部の国会議員や経済学者にはこのことの意味がわかっているのである。

重要なのは、今回の統計の偽装ではなく「すでに統計数字は調理されているってことはみんな分かってるんですよ。物価が上がり始めたということはその調理の嘘がもうすぐバレちゃうってことなんですけどいいんですかね」ということなのである。今回の本当の質問は「もう腐った食材を調理するのは限界なんじゃないですか?」という意味なのではないだろうか。

野口さんや藤巻さんが最後の答えを言わないのは「何を優先して何を切り捨てるのか」を決めるのは政治家の役割だからだと思っているからだろう。さらに藤巻さんとお友達にとって「政府が何もやらない」し「理解もしていない」というのは有用な情報である。日本切りをして仮想通貨にでも海外資産にでも投資すればいいのだから。

だが、不祥事の隠蔽すらできなくなった官僚たちに何を切って何を生かすかなど決められるはずはないので、あとは多分わからずに紙を読んでいる安倍首相や根本匠厚生労働大臣、ないしはいま自民党を攻め立てている野党が決断を迫られることになる。

もちろん国民はその嘘の巻き添えを食うことになる。先延ばしにしていたものが、より大きな波になって襲いかかるのである。