ポピュリズムとアルゼンチン型の没落

前回「トランプ大統領のアメリカがラテンアメリカ的なポピュリズムに陥っているのでは?」と書こうとしてやめた。アルゼンチンについてよく知らなかったからである。アルゼンチンの政治はポピュリズモとして知られており、一度これについて書いたことがあるのだが、おさらいのつもりでもう一度アルゼンチンの戦後の歴史について軽く調べてみた。途中で消費税批判が出てくる。今のままで消費税増税はしないほうがいいと、アルゼンチンの歴史を見て思った。




アルゼンチンは南米にある人口4000万人くらいの中進国である。南米ではブラジルについで豊かな国なのだそうだ。第二次世界世界大戦までは世界的にも豊かなことで知られていた。第二次世界大戦にほとんど参加せず、アメリカなどに肉を輸出しており富の蓄積ができたからだと言われているそうだ。

アルゼンチンは後進国ではないのだが、今では貧困率が32%にまで上昇している。必要以下の食料と日用品しか得られないという人たちが3人に1人もいる。これが没落型国家の問題点である。つまり社会的インフラは整っているが、内部に貧困を抱え込んでしまい政治がそれを解決できないのである。また、過去に数回債務不履行(デフォルト)を起こしており通貨には信頼がない。

アルゼンチンをここまでひどい状態に陥れた政治の正体が「ポピュリズム」である。ペロンという軍人出身の大統領が貧困層に手厚い福祉対策を行った結果、第二次世界大戦で蓄積した外貨を使い果たしてしまったのだ。アルゼンチンにとって地球の裏側で起きている戦争は金儲けの絶好の機会だった。日本が朝鮮戦争特需で経済成長したのと同じような図式だ。それを国内の産業育成に回せなかったのである。

第二次世界大戦が終わってもアルゼンチンは構造改革に着手せず、福祉に力を入れる。経済の構造転換の意欲がないままで手厚い福祉政策を手放せなかったことで、結果的に「貧困者が極端に多い」社会ができてしまった。その後軍事政権が民主化弾圧を行い、再民主化した後でインフレに見舞われた。コトバンク掲載ののブリタニカ辞典によると1989年には累積債務が国家予算の1/2になり6000%のインフレとなったそうである。

Newsweekは次のような分析を紹介している。構造改革を嫌い見かけ上のリーダーシップを好んだという点が日本と似ている。日本はサービス産業化に失敗し自民党主導の政治改革ができず、その後の民主党政権も大失敗したという歴史がある。その後生まれたのが見かけ上のリーダーシップを喧伝する安倍政権なので、この経緯がとても似ているのである。

結局のところアルゼンチンが何度も経済危機を繰り返すのは、財政規律が守られず、国民が変化を拒否していることが最大の原因である。

ちなみに前政権は自らに都合が良くなるよう経済統計の恣意的な解釈などを行っていた。こうした誤魔化しは長続きしないと思われがちだが、意外とそうでもない。結果的に自国が貧しくなっても、政治家による見かけ上の強いリーダーシップを望む国民は多いというのが偽らざる現実だ。

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2018/05/post-49_3.php

ペロン大統領そのものはそれほどひどい弾圧は行わず「バラマキ」に徹したようだが、そのあとの軍事政権は激しく民主化を弾圧したそうである。これを汚い戦争と呼ぶらしい。しかし内部に敵を作りそれを弾圧する手法も民主化運動を抑制できず、イギリスを敵にしたフォークランド紛争を起こしてそれが失敗したことで軍事政権は終了した。その後またバラマキ政治に戻りハイパーインフレを起こし、最終的に国の1/3が貧困層になるほど経済が疲弊した。つまり、バラマキができなくなると敵を作って不満を解消するという手法が取られるのだ。

もう一つ重要だと思うのは、アルゼンチンが自らが経済の中心にならず周縁として機能していたという点だろう。食料の供給地ではあったが、自らが大きな消費市場になることはなかった。このため中央の経済(この場合アメリカ)の動向に左右されやすいという特性がある。

日本は自動車や家電などの部品の供給国なのだが、自らも人口一億人以上の消費地であり、実はそれほど外需依存の経済周縁国ではない。これを支えていたのが豊かな中間層だ。しかしながら、安倍政権は消費税を増税し古い構造を持った企業を温存することにより豊かな中間層を破壊しようとしている。これは結果的に経済の周縁化を生み出すだろう。内需を捨てて外需を追求しようとしているからだ。消費税依存を支持しているのは「年金財政を崩壊させたくない」という構造改革して欲しくない人たちなので、アルゼンチンほどではないにせよ「緩やかなバラマキが経済の再活性化と構造改革を拒んでいる」ということになる。

人口と富の蓄積がアルゼンチンより多いので経済の崩壊には時間がかかるだろうが、このまま思い切った構造転換ができないと日本経済も数世代先にはアルゼンチン化することになるだろう。通貨は信頼されず、国内に貧困が蔓延するという世界が数世代後にやってくるのである。