修正エンゲル係数という欺瞞

修正エンゲル係数が富裕層優遇だという話がTwitterで流れてきた。ちょっとこれは言いがかりだなと思ったのだが、個人が書いているらしいのでそれほどムキになって反論するような話でもないのかもしれない。が、これを調べてみるといろいろなことがわかる。




修正エンゲル係数とはエンゲル係数を算出するときに貯蓄なども「消費」として計上した値である。このエンゲル係数の上昇は2012年から始まっている。ちょうど安倍政権が始まった時なので「アベノミクスがうまくいっていない証拠なのではないか」とも言われる。

アベノミクスはそもそも通貨の価値を毀損することにより円安誘導するのが目的だった。国民に我慢してもらって企業に儲けてもらおうという政策である。つまり、ドルベースの国民の収入や円建て財産の価値を毀損してでも企業の交易条件をよくする企業救済策なのである。だからそれで国民の生活が苦しくなったとしてもそれほど不思議ではない。

だが、実際にはなぜ2012年からエンゲル係数が上がり続けているのかということはよくわからない。団塊の世代が定年退職する時期にあたり人口動態に変化があった可能性もある。安倍政権には野党転落した経験があり、その「悪夢のような」恐怖感から「現状をごまかしてでも現政権の政策を正当化したい」という<犯罪動機>がある。だから、不都合な変化について現状を調査しようという気持ちにならないのだろう。

実際に経済統計に詳しい人が書いている記事を読むと、問題はそんな程度のものではないようだ。そもそもこの統計は高齢化社会の実情はわからないというのだ。

しかし、修正エンゲル係数にも問題があります。小職の先の記事でも指摘していますように、最近のエンゲル係数の上昇の主因は高齢化なのですが、修正エンゲル係数では実は高齢化要因を把握することができません。なぜなら、家計調査では所得に関する計数は勤労世帯のものしか公表されていないからです。つまり、修正エンゲル係数は、主に現役世代の懐具合を表しているのであり、高齢者も含めた全国民の平均的な懐具合を表すことができないのです。

修正エンゲル係数」という忖度?

そもそもこの政府統計ではそもそも高齢世帯の経済実態はわからないとしている。つまり、統計のあり方を議論しないと実態はわからないのだが、これを議論すると政府の失敗を隠蔽する方向に話が流れてしまうということだ。憲法改正にも言えることだが、政府の不純な動機が議論そのものを妨げているのである。

この記事では消費性向からエンゲル係数分を取り除き2015年までは確かにアベノミクスの効果はあったが、それ以降は経済が不調に陥っているのだろうと分析している。この分析は鈴木明彦の「戦後最長の経済成長」は嘘だったのではないかという観測とも合致する。こちらでも、2015年からは景気後退期で2017年からまた小さな山があったと分析している。つまり、当初のアベノミクスに効果があったとしてもそれは賞味期限切れなので新しい施策が必要なはずなのである。しかし、それを議論しようとすると今度は「消費税を上げるべきではないのでは?」という野党議論にぶつかり、話し合いそのものができない。

大塚耕平参議院議員は統計について安倍首相に具体的な質問をしていた。大塚さんによると「景気判断」というのは数値を参考にした恣意的なものであり議論が紛糾した期間があるという。さらに、調査統計のうち「どうやって出しているか」が公表されていないものがあるそうだ。大塚さんは算出基準を明確に出すように予算委員会に求めていたのだが、これが実現するかは不透明である。内閣のメンバーがこの意味をきちんと理解していない可能性が高いからだ。

この日の質問では院内活動家の小西洋之議員が安倍首相を監督する責任があると言って尊大な態度を取っていた。実際の監督責任とは正しい資料をもとに判断することであって上から目線で首相を叱責することではない。だが、不幸なことにまっとうな大塚議員の主張はあまり野党内では人気がないようだ。「勧善懲悪的な歌舞伎要素」に欠けるからだろう。NHKの国会中継は国民のルサンチマンを晴らすエンターティンメントになりつつある。

さて、こんな国会議論の前に、NHKのあさイチでは「一般家庭の家計が苦しくなっている」という特集をやっていた。同じ手取りでも可処分所得は減っているとしている。このため家計を引き締める必要があり、ローンの借り換えなどを行わなければならない。教育費や親の介護で負担が増え自己破産も多いそうだ。社会保障費は上がり続け、実際に支援が必要な人たちには回って行かない。ただ、柳沢さんがいなくなったあさイチではこのプレゼンテーションに疑問を持つ人がもういない。

結果的にNHKのこの特集は「生活が苦しいなら自己責任と工夫で乗り切りましょう」というプロパガンダになっている。生活が苦しいのは工夫が足らぬからだという自己責任論である。NHKは地上波離れを意識して通信分野への権益拡大を狙っており、政府を忖度しつつ生活実感に即した特集を組んでいるのだろう。これが結果的に大本営の失敗を隠す「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」キャンペーンになっている。

NHKは「なぜ手取りの収入が減っているのか」ということは説明しなかった。社会保障費負担が伸びており実質的に負担増社会になっているということは無視されてしまったのだ。野党も政権を取れば手取りの減少と現役世代の減少という条件を変えられない。だから彼らは抜本的で具体的な提案をせず院内妨害活動に勤しむしかない。Twitterを見ている限り大塚議員への応援はなく、森ゆうこさんや小西洋之さんといった院内活動家にばかり拍手が送られる。

こんななか、偽薬効果も含めてアベノミクスの効果は薄れており、諸物価が上がり始めた。これから社会保障費の増大、将来不安への備えに加えて食費の上昇が起こる。しばらくはアベノミクスの元でも豊かさが実感できないのは工夫が足らぬからだという自己責任の時代が続くことになるのだろう。「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」は花森安治が考えたという戦前の有名な標語だが、日本はまた戦前さながらの「支援がなくても文句を言わずに精神で乗り切る」時代に入った。こうしていつ乗り込んでくるのかわからないGHQの登場を待つのだ。