「もはやデフレではない」とは一体何だったのか?

Quoraで面白い質問を見つけた。景気の変化を感じたことがないというのだ。




経済が動いていないので実感できないのは当たり前のことである。これからの世代は「景気」そのものを実感していないのに、景気が良くなった・悪くなったという話を延々と聞かされることになるだろう。つまり、坂道を知らないのに「今は登りだ」いや「下りだ」という話を延々と聞かされることになるのだ。

高度経済成長期には昨日より明日が良いことが当たり前だった。これが時々滞ることがありそれが「不景気」だった。不景気は「正常ではない」状態だったので人々は何かがおかしいと感じて政府に対策を求めた。これが景気対策である。つまり坂道を登っており時々その坂道がなくなると政府に対策を求めていたのだ。

では戦後の不景気とは何だったのか。基本は景気循環なのだが、これが外的要因によって刺激を受けるという特徴がある。

  • ニクソンショック:ニクソン大統領がドルと金の交換を停止し、円高ドル安が起こって交易条件が変わった。
  • 第一次オイルショック:第四次中東戦争が起き石油価格が上昇し、国内の物価が急騰した。
  • 第二次オイルショック:イラン革命によりイランの石油供給が止まった。
  • 円高不況:円高不況と呼ばれている時期はいくつかあるようだが、円の価格がじわじわと上がり国内の製造業を苦しめたとされる。

日本には高度経済成長という基調がありそれが交易条件の変化(為替とエネルギー調達)によって不況になっていたということがわかる。だがそれは一時的なものであり、その時期さえ乗り切ればまた高度経済成長に乗れるというような認識があった。

ところが最後の円高不況は違っている。日本が経済的に強くなるにつれて円高が進んだ。日本はこの条件を変えることはできないので、製造業で蓄積した資金を別産業に投資する必要があった。つまり、日本は製造業の最適圏を抜けつつあった。が、余剰資金を他産業に投資せずに土地などの資産につぎ込んだために資産バブルが起こる。これをバブル景気と言っている。加熱を恐れて政府が介入したのをきっかけにバブルが弾けた。すると次に何に投資していいかわからなくなり長期的な停滞期に入ってしまったのである。

儲かったら土地を買えばいいという正解が無くなって日本人はどうしていいかわからなくなった。そこで、何が正解かという<議論>が始まる。これが延々と続いた時代がほぼ平成時代と重なる。自民党単独政権が崩壊し、社会党の凋落、小泉政権、ポスト小泉政権の混乱、民主党政権の改革の失敗、安倍政権という時期だ。改革勢力が次々と現れ軒並み人々を落胆させ、その度に劇場化が進行するという、政党政治が破綻しつつある時代である。

高度経済成長期を知っている人たちは「何かおかしい」と感じてきた。もちろん政府も非難され、最終的には自民党がいけないということになった。が、その他にも「構造改革をしなければならない」とか「ものを買わない消費者がいけない」などとの犯人探しが行われてきた。これが「デフレ」の正体である。デフレは経済的に定義された用語ではなく、高度経済成長期が終わったことを認められない人々の不満の声だったのである。デフレを叫ぶ人たちが本当に言いたかったのは「正解を!」ということだった。

民主党政権でもこのデフレの犯人探しは続き「コンクリート(自民党主導の公共工事)が悪いということになった。そこで象徴的にダム工事を止めてみたのだが問題は全く解決しなかった。最後に「やっぱり消費税を上げさせてくれ」ということになり、国民の信任を失った。民主党は国民の「正解を与えてくれ」という期待に応え損なった。

安倍首相は「もはや経済は回復しないがこれが当たり前の状態なのだ」という宣言をした。そもそも経済は成長し昨日より明日がよくなければならないというのは思い込みなのだから、その思い込みをやめてしまえば犯人探しはしなくてすむ。これがもはやデフレではないの正体だ。もともと人々が言っていたデフレは経済用語ではないので、それを解けるのも経済や政治を理解しないリーダーだけだったのだ。

ところが安倍首相はここで大きな間違いを犯している。それは、この新しい定常を「経済成長」としてしまった。つまり坂道ではないのに、坂道は続いていると言ってしまい、今では「坂道でなくてはならない」ということになっている。単に坂がなくなった状態を「下り坂だ」と言っていた人たちを黙らせることには成功したのだが、今度は「これは実は上り坂なんですよ」と言い出した。平らな道を上り坂だと言ってしまったことにより、いろいろな統計を操作する必要が出てきた。

だから冒頭のような疑問を持つ人たちが出てくる。平らな道を下り坂だと感じている人は「今は不景気なのではないか」と考えている。が、一方で政府は今は上り坂なのだと言っている。が、実感としては上りも下りもしていないだらだらとした日常が続いているという感覚を持っている人が多いはずだ。

こうしたことが中高年に問題にならないのは、好景気を体験してきており「坂道の状態」を肌感覚で覚えているからだろう。一方若年の人たちは、地面が傾いているのか平らなのかがわからないままで二極化した「上り坂だ下り坂だ」というメッセージを聞かされ続けてきた。ある意味空中を浮遊しているような状態になっている。彼らが何が好景気かなのかを実感するためには中国やアメリカに出稼ぎに出る必要があるだろう。

安倍政権は平らな道を上り坂だといい続けなければならない事情がある。国民は政府が正解を提示してくれるまでいつまでも犯人探しの議論をするだけだろう。しかし政府は国民が経済を成長させてくれるまで自分たちで何かをすることはできない。国がビジネスをしているわけではないからだ。このため経済は絶対に成長しない。しかしこれを認めると日本の財政は破綻する。国が借金を返済するためには経済が上り坂でなければならないという前提があるのだ。もし国がこれを諦めてしまうと「政府に借金返済の意思はない」と認めたことになり、円建て資産が売られはじめる。これだけは絶対に避けなければならないのである。