おっさんの失われた怒りが日本を没落させる

先日来、アメリカがイランに対して緊張感を高めている様子を観察している。もともとの関心は憲法第9条問題だった。




内政の不満を外国に結びつけるトランプ政権を見ていると「日本もアメリカとの同盟を解消する方向に進んだ方がいいのでは」と思える。いちいち付き合っていられないからである。ところが、そうもいきそうにない。意外と自主独立を目指して却ってアメリカに巻き込まれるリスクが増えるという選択肢が選好されるかもしれない。民主主義にはこうした不合理な側面がある。集団は得てして感情に彩られた判断をしてしまうからである。

Quoraを見ていると「韓国が北朝鮮と組んで日本を攻撃してくるかもしれない」などと言い出す人がいる。中国が敵だと継続して叫び続けている人たちもいる。共通するのは彼らが年配の男性であるという点である。もっと尊敬されてもよかったのに自己肯定感を得られなかった人たちである。自己肯定感は企業が収益をあげるために彼らに与えたかりそめの勲章だった。そこを離れた時彼らには何も残っていないのだ。

アメリカの事例を見ていても、外国や移民に不満をぶつけているのは「Relative deprivation」を持った白人である。相対的剥奪と訳せるが「あいつらが自分たちの正当な分け前を奪っていった」という被害感情であり、日本の失われた怒りと共通するものがある。

しかしこうした怒りを持っている人たちは表向きにはそれを認めない。それどころか話してみるととても物分りの良い人であることが多い。日本では個人が願望を表面化させることは幾重にも禁止されており、抑圧が強ければ強いほど「ある正解」を示された時に化け物のような表情をみせる。厳重に抑圧された欲求を客体視してもらうということはできそうにない。

ただ、この極めて偏ったものの見方には別の側面もありそうだ。それが文化接触である。別の質問に答えていて理由がわかったような気がした。昔は映画といえば洋画だったし音楽もMTVの方が本格的という印象だった。つまり、アメリカ文化は圧倒的に華やかで良いものというイメージがあったのだ。

YouTubeやストリーミングメディアで韓国文化にどっぷり浸かり週末に新大久保に繰り出す人たちには想像ができないかもしれないが、昔は韓国については情報がほとんどなかった。韓国は1988年まで軍事政権が続いており「遅れて抑圧された国家」であるという印象が強かったのだ。

最初に韓国に行った時のことを思い出した。パスポートを見ると1992年で、民主化から4年後のことである。まだビザが必要で大韓旅行社にビザの取得を依頼しに行った記憶がある。ただ日韓共同きっぷというものがあり、ソウルから列車と船を乗り継いで下関に帰ってくることができた。切符は1988年から2015年まであったそうだ。

ビデオレコーダーを持って行ったのだが「港を撮影して逮捕されたらどうしよう」と思った記憶もある。戒厳令の知識もあったし民間防衛訓練で街の機能がストップするというような情報もあった。行ってみて「意外と普通の国だな」と思った。つまり、情報と現実がかなりずれていたのだ。

世界観は若い頃にだいたい固まってしまうので、このころの印象で固まってしまった人も多いのかもしれない。そう考えると「ソフトパワー」というのはバカにしたものではないなと思う。

そんな中、気になるニュースもある。TWICEの日本人メンバーがワールドツアーに参加しないという話があった。健康上の都合としか書いていないのであまり大げさに騒ぐような話ではないのかもしれない。ただ、別のニュースでは日本人メンバーに対するバッシングが広がっているという話もあり「もしかするとリンクしているのかもしれないなあ」などと思ってしまう。

一部の人たちが特定の国に対して特定の意見を持つことはまあ仕方がないのかなと思うのだが、現在の状況を見ていると、今まで築き上げてきた良い雰囲気を一瞬にして破壊してしまうということもあり得ると感じる。テレビでは連日日本と韓国が対立しているというようなニュースをやっていて、これが失われた怒りを持った人たちを刺激するかもしれない。長年かけて築き上げてきた信頼を崩すのにそう時間はかからないだろう。

さらにデモを見て憤る若者を見ておじさんたちは「韓国文化にキャーキャーいっているお前たちが不謹慎なのだ」と喜びを募らせるだろう。彼らが理解できるのは昔の日本の歌だけなので「それを時代遅れと笑うお前らがいけないのだ」といえるからだ。むしろ「K-POPに自分たちの注目を取られた」と感じている人すらいるかもしれない。非モテの嫉妬心ほど強力な炎はないのである。

日本人は長い間「自分たちは政治を変えられない」と思っていた。しかし、敵を見つけて叩くことは簡単にできる。さらに政府も自分たちの矛盾を追及されるよりはこうした騒ぎに便乗したほうが良いと感じるだろう。アメリカでもイランを指差して「戦争だ!」と叫んでいる人たちがいる。民主主義というものは本当に壊れやすいものだと思う。

日本は世界経済が安定する中で成功を手にした国である。だが、自分たちから進んでこの環境を作ってきたわけではない。そう考えると世界経済が不安定になったときに真っ先に没落してしまうのかもしれない。一部の人たちはその没落に喜んで手を貸してしまうのだろう。