トウモロコシで安倍政権はまた一つ嘘を重ねる

日本がアメリカからコーンをたくさん買うことにしたという。ところが日本側の報道をみてもどんな合意があったのかさっぱりわからない。やっとAERAの電子版が「あの説明は嘘だろう」という記事を出してジャーナリズムを批判した。新聞の政治部は安倍政権から人事関係の情報をもらいたいので政権が嫌がることは書けないのだろう。だから週刊誌の電子版という離れから批判するしかないのだ。




アメリカ側のニーズは明確である。トランプ大統領の関税戦争に報復するために中国は支持基盤である農家を狙い撃ちにしているらしい。ロイターによると大豆・豚肉などの被害が大きいようだ。しかし、被害がどれくらい出るかはよくわからない。それくらいアメリカは揺れている。トランプ大統領は補償を打ち出したが、6月にすでに多くを使い果たしているという報道もある。つまり今回のトランプー安倍ディールはアメリカ政府の補償の肩代わりの役割を果たすことになる。

To compensate for lost sales to China, the U.S. government has offered $28 billion in aid to U.S. farmers, of which about $8.6 billion had been doled out as of the end of June.

Factbox: From phone makers to farmers, the toll of Trump’s trade wars

Quoraで聞いてみたがやはり安全保障上アメリカがパートナーであり中国とは敵対しているという安全保障に関連する見方がでた。つまり、安倍政権は安全保障上トランプ大統領の支持者を支えているのだろうという説である。日本から見ると出てこない姿勢だなあとなんだか感心させられた。

しかし、そもそもこの話題に興味を持った人は少数派だ。英語版ではトランプ大統領がアメリカの農業を破壊するという質問には関心が集まっていた。しかも向こうで勝手に文脈が作られた説も流布している。全てロシアが関与しているのだという説にたくさんの高評価が付いていた。

日本のトウモロコシはほとんどが輸入されているそうだ。65%は家畜用の飼料で20%はコーンスターチとして加工されているという。もともと9割はアメリカから買っている。しかし、このコーンは穀物としてのトウモロコシだ。野菜としてのトウモロコシは別扱いだ。こちらは意外なことに自給率が99%もあるそうである。さらには今回病害虫の被害が出ているという葉っぱや茎を食べさせるトウモロコシもあるそうだ。整理するとこうなる。

  • 野菜としてのトウモロコシ:(遺伝子組み換えだと騒ぎになっている。どうせ飼料用のトウモロコシに混ぜて使うんだろうという強者までいた)
  • 飼料用穀物トウモロコシ:(すでにアメリカから買っていて今後追加で買う)
  • 飼料用の葉と茎を利用するトウモロコシ:(軽微であるが病気が南九州で見つかっている)

飼料穀物としてのコーンを追加輸入する可能性が高いのだがそもそもアメリカから買っているため「単に数百億円の余剰のコーンが増えるだけ」ということになる。ブタが突然二倍のトウモロコシを食べるようになるとは思えないから余剰在庫になるのだろうし、そもそもいつまでも買い続けるわけにはいかない。

一方でTwitterで出ているように日本人の食用のトウモロコシが遺伝子組み換えに侵されて健康被害が増えるということもなさそうだ。遺伝子組み換えトウモロコシが栽培されれば生態系には影響は与えそうだが、今回は輸入種が入ってくるだけである。そもそも家畜の餌になっておりそれが二次的に我々の口に入るに過ぎない。

新聞はあてにできない。アメリカの世論も混乱しているし日本でも環境派が騒ぎ出している。そして日本政府の説明もデタラメである。こんな時は原典を当たってみるに限る。きっと有益な情報が見つかるのではないのだろうか。

トランプ大統領の発言がホワイトハウスにあったので読んでみたのだが。ほとんど何も言っていない。全てが感覚的な言葉で彩られ「何を大筋合意(agreed in principle)したのか」がさっぱりわからない。言っているのは「全ては自分たちの思い通りに行った」ということと「国連総会(UNGA)の時に合意することができるだろう」ということだけである。曖昧なのに最後に全部で合意したとまとめている。

PRESIDENT TRUMP:  So, thank you very much.  We’ve been working on a deal with Japan for a long time.  It involves agricultural and it involves e-commerce and many other things.  It’s a very big transaction, and we’ve agreed in principle.  It’s billions and billions of dollars.  Tremendous for the farmers.
And one of the things that Prime Minister Abe has also agreed to is we have excess corn in various parts of our country, with our farmers, because China did not do what they said they were going to do.  And Prime Minister Abe, on behalf of Japan, they’re going to be buying all of that corn.  And that’s a very big transaction.  They’re going to be buying it from our farmers.
So the deal is done in principle.  We probably will be signing it around UNGA.  It will be around the date of UNGA, which we all look forward to.  And we’re very far down the line.  We’ve agreed to every point, and now we’re papering it and we’ll be signing it at a formal ceremony.

Remarks by President Trump and Prime Minister Abe of Japan After Meeting on Trade | Biarritz, France

終わりの方でも念押しをするようにコーンについて安倍首相に語らせようとしている。選挙キャンペーンに協力するような画を撮らせたかったのだろう。安全保障の問題で「北朝鮮の短距離ミサイルは日本の問題だから」と言って何も語らせなかったのとは全く人が変わったようである。

表向きは病害虫の件を持ち出したようだが、先に調べたように日本のトウモロコシはアメリカの飼料用コーンとは関係がなさそうだ。安倍首相がよくわかっていなかったのか、あるいは事務方がごまかしたのかはわからない。国会運営でおなじみの不用意なことをいって後の対応を菅官房長官に丸投げするという構図である。この後野党が嘘だ嘘だと騒ぎ立て国民が疲れて終わりになるのだろう。

トランプ大統領にとってはそもそも記者会見が大切だったのだし、日本も当座のメンツは立つことになる。ただ、後の説明はいつものようにおざなりである。安倍首相は国民への説明などどうでもいいと思っているのだろうなあと改めて思わされる。

冒頭に述べたように、日本のメディアはほとんどこの件について触れていない。取材が難しいのか何かに遠慮しているのかはわからない。日本政府がメディアを検閲しているとは思えないのでメディアがなんらかの事情で自粛しているのだろう。

そこで自分で調べてみるとSNSでは様々な情報が飛び交っている。その意味では新聞の政治報道は自殺を図っているのだろうなあと思う。人事という情報を「自分たちがいち早く知る」ためのゲームに奔走し、国民にとって何が一番重要かを考えることを忘れ、必要な情報を正確に早く伝えることを放棄しているのだ。