雑誌のフォントについて考える

さて、ファッション雑誌について考えている。手持ちの雑誌から要素を取り出す。主にモデル写真、アイテム、ヘッダー、記事本文を準備する。その他に特集のロゴを作って「適当に」並べると…

雑誌は作れない。代わりにできるのはシロウトが作ったチラシみたいなものになる。特に難しいのはフォントの選び方だ。パソコンにはたくさんのフォントがインストールされており、何を選んでよいか分からない。

20131014_font日本語のフォントには「明朝体」と「ゴシック体」と呼ばれるものがある。基本になっているのは明朝体である。もともと漢字には秦の時代に完成した隷書体と呼ばれる書体があった。そのあと筆で書かれるようになり、行書・草書と呼ばれる書体ができた。さらに、一文字づつ独立するようになり楷書が成立する。この楷書を単純化したのが明朝体だ。

楷書を木に彫って活字が作る。最初は職人が彫っていたが、やがて線が単純化された。明朝の時代に完成する。このように中国では古くから活字が使われていたことになる。現在の系譜につながる活字は中国で布教していた外国人が長崎に持ち込んだ。1869年のことだ。そのまま「明朝体」として定着する。

マッキントッシュにはヒラギノ明朝と呼ばれる書体が付属している。雑誌向けに縦でも横でも組めるように作られたのだそうだ。すこし「モダン目」な見た目がするらしい。だから、この書体だけを使って雑誌を作る事ができる。一口に明朝体と言っても、その見た目はかなり進化している。プロとスタンダードという2つのセットがある。プロがプロフェッショナル用というわけではなく、文字の数の違いだそうである。だから、日本語の場合「ヒラギノ系」だけを使っていれば間違いがないのではないかと思える。

日本語の活字はひらがな、カタカナ、漢字まじりになっている。ひらがなはもともと連続して書かれることが前提でデザインされているのでコンピュータでそのまま使うとバランスが悪くなる。このためデザイナは一文字づつ調整するか(デザインの世界ではこれが正当とされている)すべてツメてしまう。これをそのまま放置すると「シロウトのチラシっぽい」印象がうまれる。ヒラギノは、ツメなくてもそれなりの印象になるようにデザインされているとのことだが、見出しに使う場合には調整する人が多い。明確なルールはなく「長年デザイナーをやっているが、どう調整するのかいつも悩む」という人もいる。

デザインの学校では、「本文は明朝体でタイトルはゴシック体」と教わる。もともと欧文フォントにはサンセリフしかなかった。まずはGaramondのようなオールドフェイスと呼ばれる書体がうまれる。その後印刷技術が発展し、トランジショナルと呼ばれるフォントが発展した。Baskervilleなどが有名だ。そして、装飾性が高いモダンと呼ばれる字体が作られた。DidotやBodoniなどが知られている。モダンフォントはファッション雑誌などでよく使われている。ArmaniやVogueなどはDidotだ。

そのうちインパクトがあるエジプシャンと呼ばれる字体が作られた。さらにそこからヒゲ(これをセリフと呼ぶ)が除かれてサンセリフと呼ばれる書体が作られた。これがアメリカ合衆国でゴシックやグロテスクなどと呼ばれた。日本ではこの呼び方が定着し、欧文フォントのサンセリフに対応する「ゴシック体」と呼ばれるフォントができた。つまり、ゴシック体はもともと東洋系の字体にはなかったことになる。

学校通りの「本文は明朝体でヘッダーにのみゴシック体」を使うというやり方は中高年が読む週刊誌以外では見られなくなっている。新聞系のAERAでは明朝体の太いものを見出しに使ったりしているが、ファッション雑誌の中には明朝体が絶滅しているものもある。

フォントやタイポグラフィーの本を読むと、ゴシック体を毛嫌いする人たちも多いらしい。なんとなく「叫んでいる」感じがするのだという。もともと、線が細い明朝体と比較して、太い線が使われていたからだ。しかし、それがマーケティングで多用されるようになる。新しい感じがしたからではないかと思われる。また、携帯端末では識字性を考慮してゴシック体が使われるので、ゴシック体こそが日本語フォントの基本なのだと感じる人たちがあらわれても不思議ではない。書文字からも筆跡が消えていて丸文字と呼ばれている。一方、活字であるはずの明朝体も書文字のお手本になっている。このように、口語だけでなく、書文字も徐々に変化しているのだ。

実際に雑誌を見ると「細い線のゴシック体」に「太い線(ウェイトが太いと言う)の明朝体」という組み合わせも見られる。ちょっとした混乱状態である。チラシや店頭のポップなどを見ると、さらに混乱していて多様なフォントが使われていることが分かる。DTPが発達しているので特に意識しなくても多様なフォントが使えるようになっているからではないかと思われる。

20131014_chap古い書体である隷書体は「伝統的で東洋的」なニオイがするらしい。活字に起されて牛丼店のチャプチェ牛丼ののぼりに使われていた。

しかし、こうした様々な印刷物を観察したあとで、中高年向けの雑誌を読むと「とても退屈な」気持ちになる。英語版のVogueにもセリフやサンセリフのフォントが混在している。教科書的な使い方をふまえた上で時々冒険しないと退屈な紙面になってしまうのだろう。ただし、やりすぎるとアマチュアがつくったチラシみたいなものができてしまう。なかなかバランスが難しいところではある。

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