日本の流通経路が複雑な理由

日本の流通経路は西洋先進国と比べて複雑だと言われる。消費者の性向、長年に渡って積み重ねられた商習慣、価格情報の情報撹乱など、複雑な理由は多岐に渡る。

消費者の性向

日本の消費者は小さな店で頻繁に新鮮なものを買いたがる。痛みやすい魚が主菜だったからなのだという説があるそうだ。このため、小売り業者が寡占化しなかった。零細な小売業に対応するために、中間業者の寡占化も実現しなかった。

歴史的経緯と商習慣

一方で、流通経路の複雑さを歴史的経緯から説明しようとする人もいる。一般的に、日本の産業は多階層化することが多い。江戸時代より労働力が過剰な状態が常態化し、どうにかして隙間に潜りこまなければならなかったからだという人がいる。これが品質の高さ、徹底したアフターサービスなどのきめ細かさを生んだのだという。

この説明が妥当なのかは分からないが、日本の産業が多階層化することが多いのは確かだ。建設、IT、エンターティンメント産業など二回層化している業界は多い。大手メーカーは大手卸としか仕事をしないが、大手卸はきめ細かいフォローができないので、フォローを下請け(二次業者)に委託する傾向がある。流通業は3階層程度になることが一般的だそうだ。

多階層化を給与配分の面から説明することもできる。大手企業は年功序列制の同一賃金制だが、子会社や受注企業の給与は低く抑えられている。同一企業内で職能別の給与体系が導入されていれば、このような細分化は起こらなかったかもしれない。給与の振り分けは大卒時に決まり、一生変わらない身分制だ。最初に入った企業を脱落すると低賃金を甘受しなければならなくなるため労働力の移動が起きない。

建設・IT・コンテンツ産業では、実務を行う末端に利益が配分されない構造がある。末端事業者は「IT土方」と呼ばれたりする。アニメ産業では末端作業員は個人事業主になっており、労働基準法すら適用されないこともある。IT産業はプログラマが競争力の源泉なので、アメリカとの競争に勝つ事ができなかった。優秀な人がすべてプログラマではなく調整者になってしまうからだ。

情報撹乱

合理的に考えれば、流通経路を合理化すれば価格の自動調整が行われて消費者の便益が増すはずだ。しかし実際には複雑なリベート制度により価格情報の透明化は妨げられている。一種の情報撹乱が起こっている可能性がある。

メーカーはリベートを通じて卸を系列化している。いっけん、メーカーが卸を支配しているように見えるが実際には相互依存関係にあるそうだ。

リベートで思い起こされるのが携帯電話の複雑な料金体系だ。携帯電話会社は複雑なリベート制度で代理店を誘導している。同一企業体ではないので、その他の手段が取りにくいという事情もあるのだろう。代理店は消費者にもキャッシュバックによる価格政策を提供しているので、消費者は単純な価格比較ができなくなる。頻繁に携帯電話を買い替えて安い価格を享受する人がでる一方で、長い間同じ携帯電話を使う人が高い携帯電話料金を負担させられている。情報撹乱によって品質・性能=価格という図式が崩れるのだ。

こうした情報撹乱がメーカーやサービス提供者の便益になっているかは誰にも分からない。いったん情報撹乱が始まると、誰にも正確なことが分からなくなってしまう。だから、プレイヤーは情報撹乱をやめる事ができなくなってしまうのだ。個々の企業が作り出した空気が全体を覆うと、一人ひとりの努力で空気を変えることができなくなるのだ。

情報撹乱は参入障壁としては有効だが、様々な合理化が遅れる原因となるだろう。例えば、携帯電話メーカーはサービスによる競争を行わなくなる(そもそも顧客がどんな品質の携帯電話を欲しがっているのかが分からない)ので、結果的にイノベーションが促進されなかった。キャリアの仕様に従ったガラパゴス携帯が温存される原因となり、スマートフォンに取って代わられてしまった。情報撹乱の結果、メーカーはユーザーのニーズを汲み取って「よりよい」製品を作る機会を奪われたことになる。

消費性向

きめ細かな小売り制度があるおかげで、日本人は買いだめの習慣を身に付けなかった。細かい頻度で少量づつ多品目買う傾向がある。冷凍食品ですら製造年月日をチェックするほど新しいもの好きで、野菜のきれいさにもこだわりがある。日本人の消費傾向と流通経路の複雑さはスパイラルを形成しており、外資スーパーの参入障壁にもなっている。

こうした多品目購買傾向は例えばお弁当作りにも見られる。多品目を少しずつ詰め合わせるのが良いとされており、手間がかかる。しかし誰も「弁当を合理化しよう」とは言い出さない。冷凍食品を詰めると怒られる保育園があるという話すらある。新鮮なものほど良いという思い込みが根強いのだ。

新鮮なものを食べさせたいという「お母さんの愛情」が美しいことは確かだ。しかし、その裏には高率の廃棄食材があるのも事実だ。食料廃棄率は50%に昇るという統計もある。

複雑な流通経路の負の側面

複雑な流通経路には負の側面が多い。

卸の支配力が大きく、メーカーが小売りとの直接販売に踏み切れない。小売りの力が強くなれば、卸の営業力に頼っているメーカーはシェア維持戦略を取れなくなる可能性がある。このため、不効率な流通経路が温存される。

消費者が新鮮さにこだわるあまり、食品の廃棄ロスが多い。間に複数の中間業者が入り廃棄分が価格に乗るので、日本人は結果的に高いものを食べさせられている。

流通御者は規模が小さく、リベート制度も複雑なので業務の標準化が起こらず、IT化ができない。このため、日本の流通小売り業(またはサービス産業は一般的に)は生産性が上がらないままである。

また、小売りの現場からメーカーに情報が上がらない仕組みになっている。消費者が本当は何を欲しがっているのか、誰にも正確なことは分からないのだ。

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