NHKが日本の労働環境の破壊を試みる

NHKが長時間労働の規制についてプロパガンダ番組を流している。メッセージはあからさまで、正社員の労働時間を減らせば、女性、外国人、高齢者が働きやすくなるというものだ。これは言い換えれば、企業にしがみついている正社員を減らせば非正規雇用の人たちの雇用機会が増えるということだ。企業は、非正規社員を増やせば人件費の大幅な削減もできるし、儲けがないときにはすぐに切ることができるようになる。

加えて、正社員を家庭に返して子育てや介護という無報酬労働に従事させようとしている。確かに政府としてはいろいろな問題が解決する魔法の杖のように見えるのだろう。

これが実現するためには「とりあえず、正社員が家に帰ればいい」と言っている。正社員が嫌な仕事にしがみついて長い時間職場に居座るのは自分の地位が脅かされないように常に見張るためだ。最近ではメールやSNSが発展しており、正社員は休日であっても通勤電車の中でも、顧客からの注文に応えなければならない。それは転落が取り返しのつかない結果を招きかねないからである。

識者たちはきれいごとを並べて、正社員と非正規雇用をスキルで評価されるべきだなどと言っているが、スマホに張り付いて顧客がクレームを言ってくるのかを待っている時間を労働時間として加算するわけには行かない。つまり、長時間労働は生産性とは何も関係がなく、正社員層の安全保障なのだ。

なぜ、このような理由が生まれたのかは明確だ。企業は人件費の抑制を20年近く続けており、非正規雇用に「堕ちて」しまうと生活が成り立たなくなるからだ。そのため労働者は生産性の向上などを考えている余裕はない。単に嫌なことを我慢しながら縄張りを守っているに過ぎない。恐怖心が生産性を向上させることはない。

それどころか散発的にイレギュラーな処理が要求されるので、生産性は著しく阻害される。例えていえば、常にリセットボタンのないテトリスをさせられているのと同じような状況に置かれているわけだ。

ここから解放されるためには、いわゆる「非正規」という人たちに正社員並みの賃金を支払うしかない。恐怖心が非生産性をドライブしていることが予想されるからである。

「格差を埋める」という言葉には高い方に合わせることと、低いところに合わせることの2種類がある。しかし、企業側のトレンドは人件費削減なので、どうしても「低い方に合わせる」ための改革になってしまいがちだ。そもそも生産性が下がっているので、高い賃金を支払うモチベーションは持ちにくいだろう。

企業の労働力削減意欲は強い。外国人の導入も多様性をつける方には向かわず、どうしたら海外に行かないで中国のような安い労働力を導入できるかという話になってしまう。地方の製造業や農村などのように、実質的には奴隷労働だと言われる外国人研修制度に頼らないと維持できない業種さえある。

真面目な話をすると、労働改革は非正規雇用が食べて行けるだけの給与を与えることで簡単に実現できる。そのためには蓄積した資本を労働者に開放すれば良い。実際にはその方向での改革は進まず、したがって労働者は自己防衛のために隠れて長時間労働にしがみつくことになるだろう。

政治がこの問題を解決できるとは思えない。最近では富山県の県議会議員が「老後に不安がある」という理由で領収書の捏造をしたのが発覚したばかりだ。こうした慣行は党派を超えて蔓延していた。他人の問題を解決できないばかりではなく、自らも同じような不安を抱えているのだから、問題を解決できるはずなどない。

政治のリーダーシップに期待できない以上、自発的に動くのは損だ。働き方改革はそのまま収入の減少に直結する。

NHKがなぜこのようなプロパガンダに邁進するのかはよくわからない。一部の正規職員が非正規プロダクションを搾取するような構造を狙っているのかもしれない。立派な放送センターの建設を画策する一方で、将来のテレビ離れを心配しており、PCやスマホへの課金を狙っている。実は将来不安に苛まれているのかもしれない。

もし、安倍政権の労働市場改革が成功すれば、正社員賃金は非正規雇用並みに抑えられ、非正規ばかりになった企業の生産性もマクドナルド化するのではないだろうか。生活を維持するためには、スキルが蓄積しないことがわかっていながら複数の仕事を掛け持ちせざるを得なくなるかもしれない。これは現在アメリカで起きていることなので想像するのはそれほど難しくないだろう。

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