電通過労死問題 – 何が問題なのか

電通に新卒で入った女性、高橋まつりさん(Twitterアカウントはこちら)が自殺した。東京大学卒業だったそうである。Twitterのアカウントが残っていて、徐々に追い詰められてゆく様子がわかる。世間の反応は概ね女性に同情的で、電通や残業100時間くらいで死ぬような労働者はいらないといった大学教授などへ避難の声があがっている。

電通の過労死事件は、一般的に人手不足による過労死問題と考えられているようだが、これは診立てが違っているのではないか。彼女のTwitterを見ると、仕事はなんらかの資料作りだったようだ。詳しい説明はないが、クライアントへの「ご説明資料」と次の打ち手対策ではないか。

ちょうどインターネット広告の成果をごまかして報告していた時期と部署がダブって見える。すると、成果が出ないキャンペーンについて「次こそなんとかなるように読める資料」を作らされていた可能性もある。

もちろん、成果が出る残業ならある程度は正当化も可能かもしれないが、最初からこれは「インパール作戦」だった疑いもある。作戦自体が無謀ではいくら時間をかけても「満足がゆく」アウトプットは作れない。目の前で崩れてゆく石塔を延々と積み上げるような作業になるだろう。

生産性の向上に寄与する優秀な人材を雇用して使い捨てていたというとになれば、特攻部員のような意味合いが出てくる。成功の見込みがない作戦に優秀なメンバーを使い捨て覚悟で「動員」する。撤退してしまえば敗戦だが、戦線を維持しているうちは失敗は問われない。

広告代理店の企業文化はさておき、クライアント企業の予算が先細る中、成果の出ない特攻作戦にリソースをつぎ込み続けるのは背任に近いのではないだろうか。対価を支払うのは結局消費者なのだ。

電通の基本モデルはテレビ局などの広告枠を買い占めてそれをナショナルブランドに売りさばくことだった。規模の経済で市場を独占していたわけだ。しかし、不況が長引き、企業は結果を求めるようになった。結果とは数字である。企業の広告の担当者は、上層部に責任を問われる。そこで資料が必要になるのだ。

電通はそのような資料を作らせるために東大生を使っていたことになる。東大生なので地頭(嫌な言葉だが)は悪くなかったはずだし、要領も悪くないだろう。その彼女が(もしくは彼女の陰にいる人たちも)解けない問題を解かされていたことになる。正解がないから上司も指導ができなかったのだろう。その結果が「土日や朝方までの」残業なのではないだろうか。

つまり、この残業は世間一般の人たちが考えるような「人手が足りないゆえの」残業ではなさそうだ。初めから無理なことをやらされているから、時間当たりの生産性が下がるわけである。しかも、それを極めて生産性の向上につながりそうな人材にやらせていたのだ。

インターネットにせよITにせよ生産性をあげるための道具だと考えられている。しかし、日本の企業は優秀な人を使っても生産性はあげられない。そればかりか、文字どおりに使い潰してしまった。つまり、日本の大企業は優秀な人材を使う能力を失っているということになる。

そればかりか周りには女性であることを理由に近寄っていた人もいたようだ。電通は新しい技術について行けないばかりではなく、人権感覚まで失っていたことになる。年次にもこだわっていたようだ。優秀な女性は外国人社員はこのような会社を就職先には選ばないだろう。このようにして日本の企業はガラパゴス化してゆく。

このことが示すメッセージは簡単だ。もし本当に優秀なら電通のような企業には行かないことだ。この過労死した新卒社員の専門が何だったのかはわからないが「クライアントの説得学」という生産性には何も関係がない学問であったとは考えにくいし、仮に生き残っていたとしても、全く使い物にならない技術を身につけるだけである。世界的な潮流からは取り残されてしまうだろう。

このことを考え合わせると、炎上しかけている長谷川某という教授の思慮のなさがわかる。分析すべきは企業の競争力の低下だ。例えば第二次世界大戦の戦況を分析するのに、兵站もないままで餓死しかけている現場の兵士に「もっと頑張るべきだ」といったところで、状況はなにも改善しない。

こういう人たちが寄ってたかって日本をダメにしているのである。

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