健全な日米同盟のためにはもはや有害な「識者」たち

オスプレイが墜落した事故を受けて、小川和久という「軍事の識者」の人が「ある論理」を展開している。オスプレイは、クラッシュではなく、ハードランディングだというのだ。小川さんの定義によれば、ハードランディングとはパイロットがコントロールした上でオスプレイを着陸させたという意味でクラッシュではないと言っている。故にクラッシュハードランディングはミューチュアリエクスクルーシブだということになる。

日本語で問題になったのは、不時着か墜落かということだった。だが実際には「墜落であり、もしパイロットの意思が働いていたとすれば、その墜落は不時着だった」ということになりそうで、あまり意味のな議論だ。まだ調査結果が出ていないのだから、不時着だったとは言えないがその可能性は排除されない。墜落という言葉に「コントロールがない」という含みがあるから避けたいのなら単に「落ちた」というべきだった。

この言葉を最初に使ったのは防衛省だったようでアメリカ軍の報告をそのまま引用したようである。あとになってあるテレビ局は「不時着後に大破」と言い換えていた。ちょっとした騒ぎになったので情報ソース(多分防衛省だろう)が言い換えたのではないか。

ご存知のようにその後さらなる炎上事件が起きた。四軍統合官という人がててきて「パイロットが陸地の被害を避けるために海に誘導した」と「机を叩きながら」まくしたてたのである。正式な調査は行われておらず、日本人は調査には加われないので、高官の予断どうりの発表がされることは明白だ。すると、反対派は「どうせ嘘に決まっている」と騒ぎ続けるだろう。

この四軍統合官の外交スキルのなさは呆れるばかりだが、もともと駐留沖縄軍は一度沖縄経営に失敗している。政治・外交スキルは期待できないのかもしれない。本土の私たちは忘れているが、沖縄の人たちはアメリカ軍政(つまり本当に植民地だった)を経験しており、これに激しく反発するであろうことは間違いがない。

さて、小川さんの問題に戻ろう。「あれは墜落ではなかった」と言いたい気持ちはわかるし、状況的にはパイロットが海に誘導した可能性は高い。パイロット個人の判断としてはむしろ「美談」と言っても良い。しかし、調査が出ていないことには変わりがなく「なぜ、小川さんがパイロットの意思を確認できたのか」ということがわからない。単に憶測で物を言っているか、アメリカ軍のいうことを鵜呑みにしているとしか考えられなくなる。生活のために植民地経営に加担する現地人みたいなもので、本人の正義感や糸とは裏腹に「愛国的観点から見ると裏切り者」ということになってしまうのだ。

さらに新しい用語を導入したことも混乱に拍車をかけかねない。ハードランディングという言葉を画像検索すと、タイヤが出さずに着陸して煙を吐いている飛行機の絵が大量に出てくる。英語ではあれがハードランディングなのだろう。日本語のwikipediaには項目があるものの、英語版にはないので一般的な用語でもなさそうだ。その他、金融・経営用語として使うようだ。経済が悪化するのを覚悟で金融政策を変えることも「ハードランディング」と呼ばれる。例えばハイパーインフレで政府が国債を償還できればそれはハードランディングだ。いずれにせよもともとは着陸形態を指す言葉で、墜落の対概念ではない。

新たな概念を持ち出すと、余計話がややこしくなる。識者は狭い自分たちの領域のことしか考えないので、これが「正しい」と主張する。そして、それに追随する人たちが出てくる。

なぜ、小川さんの発言は問題なのだろうか。それは、安保法制が成立する上で彼らが果たした役割が大きいからだ。いろいろな概念が持ち出され、挙げ句の果てには「集団的自衛」「自衛」「他衛」などの言葉が乱立し「自衛と集団的自衛はミューチュアリエクスクルーシブではなく重なるところが出てくる」などと言い出す人まで出てきた。自衛の中に一国で行う自衛と集団的自衛が含まれているので、どちらの意味で自衛を使っているとしても「一部が重なる」ということはない。

この弊害は大きかった。反対派は最後まで納得しなかったし今でも納得していない。何か事故が起これば彼らは再び騒ぎ出すだろう。さらにこの手の議論は「あれは危険ではない」と言い張る政府が考えることを放棄させる一因になった。南スーダンは内戦状態(エスニッククレンジングが始まっているという報道がある)なのだが、政府は今でも局地的な衝突に過ぎいないと言い張っている。結果的に現地の自衛隊は法整備が十分ではない中で戦うことになる。

そもそもオスプレイ墜落事故の背景には米軍のメンテナンスのまずさがありそうだが、加えて、現地軍の高官に外交と統治のスキルがないことが露呈している。それを言いくるめるために言葉を弄ぶのは、風邪をひいて熱が出ているのに「これは準高熱状態であるから病気ではない」などと言い張っているようなもので「早く薬を飲んで寝なさい」としか言いようがない。

健全な同盟を維持するための議論の素地を作るのが識者の役割であるべきなのだが、状況を混乱させるだけなら、むしろいなくなってくれた方がよいのではないか。

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