石原証人喚問という猿芝居を見た後の虚しさ

石原元都知事への証人喚問が終わった。「よくわからなかった」という感想が多いみたいだ。最初は細かい経緯をあまり知らずに聞いたのだが、あとで調べてみて「ああこれはひどいな」と思った。で、さらに別の話を聞いてかなり打ちのめされた。この感じはなかなか説明できそうにない。ちょっと長くなるが順を追ってまとめてみたい。

最初の感想

まずは経緯を知らないでNHKの中継を聞いた。感想は「まあこんなもんだろう」というものだった。

第一に石原さんは「海馬異常で記憶が曖昧」と言っていたので「豊洲移転について都合の悪いことがあるが言えない」と告白しているんだと思った。石原さんが海馬に異常を持っているのなら、過去の実績も忘れてしまっていたはずだ。選択的な記憶の分別は海馬にはできないからだ。しかし、自分が何を成し遂げたかということについてはよく覚えており、小池都知事を糾弾するネタも仕込んできたらしかった。

海馬は新しい記憶を収集する役割があり一度獲得した記憶には関係がない。嘘はつけないので記憶にございませんと言うのがお約束なのだが、知っている人が聞いたらすぐに露見するような科学知識のぞんざいな扱いに呆れだ。

自民党の質問は豊洲移転の正当化なので特にコメントする必要はないと思うが、公明党も選挙用に「自分たちは石原さんと対決している」ということを印象付けたいだけという感じだった。面白いのは民進党の質問だ。東京ガスの元社長と会っていたことについては記憶にないという答弁を引き出していた。つまり会っていたので言えなかったのだろう。このことから、東京ガスとの個人的なつながりを勘ぐられることは都合が悪いということも石原さんは理解していたことになる。だが、なぜか追求はそこ止まりだった。

音喜多都議の一連の質問が誘導しているのは、東京ガスが土地汚染に関して免責になることを東京ガスと浜渦さんが知っており、なおかつ都の関係者が知らなかったということだ。つまり「都議会は騙された」と言いたいのだろうということがわかる。

それでも、石原さん怪しいという印象がつけばあとは有権者が判断するだろうから、まあこんなもんでいいんじゃないのかと思った。つまり「豊洲移転は石原さんとお友達がおいしい思いをするために東京ガスと密約し重要な情報を都民に知らせなかった」という印象さえ残ればそれでいいだろうと考えたのだ。

実は民進党も含めて猿芝居だったらしい

さて、ここでちょっとしたバックアップのつもりで過去の経緯について調べてみた。石原さんが繰り返し言っていた「浜渦に任せていた」という浜渦さんだが、民主党(当時)の議員に「やらせ」の質問をさせたことを糾弾されて辞任しているそうだ。当時の浜渦副都知事を追い落としてたのは自民党の内田茂さんだと噂されているという。じゃあどうして浜渦さんと内田さんが対立したのかということはよくわからなかった・

これまでの経緯をおさらいする。かなり観測と類推が混じるすっきりしないストーリーだが一応つじつまの合うお話が作れる。

銀行も頓挫させていた石原都知事は新都心開発が巨額の赤字をなんとかする必要に迫られており(事実)、これを築地の土地売却などで穴埋めしようとしていた(類推)。しかし、めぼしい移転先がなく、多摩地域に移転させるというアイディア(本人証言)も周囲から一蹴される。唯一残っていた土地が東京ガスの工場跡地だった。しかし、東京ガスはここに市場を持ってくることが現実的でないことを知っており、売るのをためらっていた(関係者証言)。そこで「豪腕」浜渦さんが「土地の処理は東京都で行う」という密約を交わした(音喜多質問より類推)。都知事は「なんとしてでもあの土地を買いたかったが東京ガスは売りたくなかったので、豪腕浜渦氏を起用した」と証言している(本人証言)。

一方で、民主党は豊洲移転に反対していた(事実)。こちらの対策は内田茂さんに頼った(「いわゆる事情通」の観測)。内田さんは民主党議員をひとりづつ切り崩して行ったとされている。民主党議員がどうして転向したのかということがわかる資料はない。

土地の処理に東京都の費用が入るのは問題にならなかった。むしろ多ければ多いほどよいとされたのかもしれない。なぜならば石原都知事の関係者が土地処理に関連していたとされているからだ(事情通の類推)。これが「豊洲利権」と呼ばれるようになったようだ。築地を売ることは利権にならないが、土地浄化事業が利権になったということになる。

石原さんのこの完璧な計画には二つの誤算があったようだ。一つは浜渦さんと内田さんが対立してしまったこと。旧東京都庁(大手町)の処理で二人が対立したことが原因だと噂されているようだ。結局、石原さんはこの対立を安定させることができず、子飼いだった浜渦さんを退任させている。もう一つはこれだけの巨費を投じたものの土壌処理がうまくできなかったということである。赤字にまみれた東京都を救おうとして始めた事業なのかもしれないが、結局関係者の食い物にされてしまったのである。

すると共産党と生活者ネット(もしかしたら音喜多さんたちも)以外はこの問題に連座していたことになり、都議会はとても石原さんを追求することはできないだろうことが予想される。石原さんが逆ギレして「お前らもおいしい思いをしただろう」といえば大変な騒ぎになる。だから石原さんは笑っていられたのだなと思った。結局は猿芝居だったようだ。

私たちは何を売り渡してしまったのか

当然、マスコミもこのことを知っていたはずで、お笑いタレントなどに「いやあ真実がわかりませんでしたねえ」と言わせていたことになる。つまりはみんながグルになって、何の意味もないショーを見せられたのかもしれない。だが、まあ世の中ってそういうものだよねと思った。

そこまで考えたところ、Twitterに建築エコノミストの森山さん書いた記事が流れてきた。この対談を読んでまた気持ちが揺れた。日本の魚河岸文化と築地の継承についてストレートに論じている(リンク先はPDF)のだが、猿芝居を見た後では眩しすぎて正視できない感じだった。バブルの失敗を隠蔽するために自民党も民主党も魂を売った上に生活(議席)のために敵味方に分かれて猿芝居を演じているのだが、それが売り渡そうとしたものの正体は我々のおじいさんやおばあさんたちが真面目に積み上げてきた暮らしやなりわいの集積だったということになる。

石原元都知事の薄っぺらい愛国を責めることもできるのだろうけど、あまり意味はないように思えた。表面上の対決を面白がって見ていた自分を含めて、もう本当に大切なものをかなぐり捨ててしまったんだなと思えたからだ。本当に貧乏って辛くて惨めなものだなと思った。

石原さんは周りにいる人たちを抱き込むために巨大なプロジェクトを必要としていたのだろう。このあとオリンピックを言い出して、国を巻き込んだ騒動に発展している。大企業が利権に群がるために、これも巨額の赤字が予想されている。オリンピックは戦後復興を成し遂げた日本人の誇りだったオリンピックだが、今回は「日本人はもう国を挙げて大きなプロジェクトを成し遂げられないほど衰退してしまったんだ」ということを直視する大会になるだろう。でも、お腹が空いた関係者に食べさせるためには、もう「誇り」とか「伝統文化」などは捨ててもいいような取るに足らない存在だったのだ。

森山さんからこのようなツイートをもらったのだが「はいそうですね」などという返事は簡単にできなかった。何かとても情けない気持ちでいっぱいになってしまうのだ。