当たり前のことがとても画期的に見えてしまう千葉市長選挙

千葉市長選挙が盛り上がっていない。現職に対抗する候補がいないのだ。一応、選挙期間中なので公平性のために書いておくと、共産党が擁立した候補と現職の一騎打ちということになっている。この様子を見て、もし自民党がまともだったら革新系の政党はなくなってしまうんだなあと思った。中央で共産党などの革新系がある程度の勢いを持っているのは、実は自民党のおかげなのだ。

千葉市の共産党側は、争点を「学校にクーラーを入れる」ことと「カジノをやめさせる」の2つに絞ったようだ。が、正直「なんでそれなの?」という思いはある。

一方で現職側は市民と一定のつながりをもっていて、いくつかのプロジェクトを走らせたい模様だ。主なプロジェクトには、市中心部の再開発、市役所の建て替え、海岸沿いのまちづくりなどがある。政治家としてまちづくりみたいな大きなことをやってみたくなったのかなあという懸念はある。二期目までの主な仕事は財政の立て直しだったからである。

千葉市長は選挙のたびに約束を立ち上げ、任期中に検証し、一応選挙期間中にチェックして、新しい約束を作るというようなサイクルになっている。この約束をマニフェストと呼んでいる。中央民主党が失敗した手法なのだが、政令市レベルだと一人で組み立てることができるので、これがうまく機能するのだろう。

このことから、共産党というのは今や自民党のおかげで成立している政党なのだということがよくわかる。つまりそれほど現在の政権政党の政府運営はひどい状態になっていると言える。だが政府叩きには2つの欠点がある。

一つ目の欠点は、あまり勉強しなくても政府を叩くのは簡単だということだ。財政の仕組みを勉強しなくても「福祉予算がないのは政府が無駄遣いをしているからだ」といえば、なんとなく立派なことを言ったような気になってしまう。共産党の候補の方は「市長と話をして大規模プロジェクトはよくないという思いを新たにした」と言っているのだが、思い込みが確信に変わってしまうのだろう。

だが、支持者にとってもっと深刻なのは「叩くこと」がもたらす一体感と陶酔感ではないだろうか。共産党をはじめとした野党4党は自民党の悪政を追求するのに夢中になっている。この運動には麻薬のような効果があるように思える。

共産党はモデルにする社会像を持たない。これは東側陣営が崩壊してしまったからだ。ドイツのような社会民主主義も根付かなかったので、核心陣営には政策立案能力がないのだ。それが露呈しないのは、実は自民党を否定さえしていればまともに見えてしまうからである。もし自民党が憲法を遵守しつつ都合の悪いところを変えてゆこうなどと考えれば、共産党はたちどころに崩壊してしまうかもしれない。

実際に自民党政権が安定したのは、憲法や国防といった問題を棚上げにして経済に集中したからだと考えられる。憲法や国防という大きな問題は陶酔感を伴った反対運動にとって「飴」になっているので、これを扱わないことで、若者たちは却って政治に興味を持たなくなっていったのだ。いったん陶酔したからこそ冷めるのも早かったということになる。

その他の革新系の団体も実はあまり選挙には乗り気でなくなっているようだ。原発をなくせなどいう運動は誰も興味を持たないので運動の中心にいられるのだが、市長が積極的にマニフェスト作りを呼びかけると「その他大勢」になってしまうのだ。

千葉市がこういう状態でまとまったのは、財政がかなりひどい状態に陥った上に自民党型の金権政治が「逮捕」という最悪の形で終焉したからである。その後バブルの処理を経て今の状態になった。

現在、国政ではかなりひどいことがまかり通っているのだが、このまま安倍政権が何年か続いた方がよいのかもしれないと思うことがある。やはり「あれはひどかったね」というのが浸透しないと状況は変わって行かないのではないだろうか。

現職の支持者の中には「マニフェストまで作って素晴らしい」などというつぶやきをする人がいるわけだが、実は当たり前のことをやっているだけのようにも思える。これが素晴らしく見えるのはある意味では自民党のおかげであると言える。つまり、自民党が内部から改革してしまうと、多分民進党を含めた革新系は総崩れし「安倍政権はいらない」と言っていた人たちも政治から「手を引く」ことが考えられる。

つまり、中央には自民党があるから革新政党がなくならず、革新政党が政策立案能力を持たないので、自民党が支持を集めるという奇妙な相互依存関係があるのだ。

国政に比べるとまともに見える千葉市政だが、当然問題もある。共産党がプロジェクト管理をまともに学んでいるとは思えないので、例えば市役所の建て替えが見積もり通りに行われているのかをチェックする人たちが誰もいないのだ。

なお自民党側は今回現職を応援しないが独自候補も立てないという方針で臨むようである。基本的に中央の勢いを地方に取り込むという形式の政党なので、中央がガタガタになると地方支部が衰退してしまうのかもしれない。もともと逮捕されてしまった前職を担いでいたという「前科」もあり、独自候補が立てられなかった可能性もある。

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