有能感に苛まれる人たちと意味の盗人

江川紹子さんが池田信夫さんに反論しているのを見つけてかなり気分が悪くなった。池田さんは獣医師さんについて書いているのだが、これはいったい何のための議論なのだろう。ひどい言葉が並んでいるが、中でも衝撃を受けたのは「ペットは単なる愛玩品だ」という発言である。

池田さんはネットで挑みかかってくる人たちを論破して有能感に浸っているようだ。たしかに筋は通っているように思える。が、そこには実感がない。

個人的なことになるが、最近犬が倒れた。池田さんに言わせれば単なる愛玩品でお人形などと変わりはないのだろう。つまり捨てるか安楽死させてしまうのが「合理的」なのかもしれない。しかし、家族の悲嘆は大変なものだった。倒れて食事ができなくなった犬にスプーンで砕いた餌を与え、倒れるのは痛かろうと周りにカーペットを敷き詰めた。散歩に行けなくなると糞尿の世話もしなければならない。

好きで犬を飼ったわけだから自己責任だし、人間より寿命が短いのでやがてはこういうことになるのはわかっている。が、動物はやはり単なる愛玩品ではない。それが理屈で説明できるかと言われるとできないし、その検診や犠牲が何か合理的な役に立つかと言われればそれも疑問だ。例えば牛や豚は食べるのに犬は救いたいと思うのかと言われると合理的には対応できない。実際に餌は食べなかったが、牛の缶詰などは喜んで食べていた。食べるということで「動きたい」という意思が生まれ少しばかりよくなったりするのだが、やはり他の動物を犠牲にしているという見方はできるだろう。

さらに獣医師さんはお休みの日にも診察をしてくれた。「金をとっているから当然だろう」という考え方もできるわけだが、1日病気の犬に付き添ってくれたようで本来ならそれなりの対価を支払わなければならない。休診日にも見てもらったが、猫の薬を求めてくる別の人にも親切に対応していた。経営の能力は必要だと思うが、それだけではやって行けない仕事だと思った。動物が好きなんだろうなとも思うが、好きだけでも続かないだろう。

確かに、獣医の供給に関して利権があることは認めるし、それは「抵抗勢力」だということはわかる。獣医と言っても畜産関係が多く、ペットドクターが全てではないということも学んだ。だが、それは集団としての獣医学会と業界の構造的な問題であって、個人の問題ではない。つまり、獣医学会のあり方を批判するのは良いのだが、それを一人ひとりの獣医の否定に繋げるのはとても乱暴な考え方だ。

議論が複雑なのは命を扱っているからである。政治は単なる理論家のお遊びではなく、生活につながっており、人はそれを合理性だけで判断ことはできない。問題解決のために、努めて理性的になる必要はあるだろうが、人々の暮らしは理性の奴隷ではない。それは問題を解決するための手段に鹿すぎない。

多分池田さんの過激な発言の裏には2つの動機があるのだろう。1つは安倍政権の擁護である。政権を擁護することでさまざまな優遇が期待でき、ついでに自分の有能さをひけらかすことができる。そのためのポジションをとって議論を楽しんでいるのだろう。本来は倫理的に許されない行為だが、日本のトップリーダーが進んで意味を破壊しているのでこうした行為が可能になる。ものを盗めば犯罪だが、意味を盗んでも犯罪にはならない。

もう1つの動機は少し複雑だ。安倍首相を擁護する立場の人たちは単に利権を求めているわけではなく、言葉にできない感情のはけ口として安倍政権を支持しているようだ。例えば、動機の一つには女性蔑視があるようで、小池百合子都知事や蓮舫民進党代表などはかなり嫌われている。女が自分たちの両部を侵犯することに反発心を持っているが、それを主張する力がない。だから、池田さんが女性を蔑視しているというわけではなく、そういう満たされない人たちの代弁をすることに需要があるのではないだろうか。が、彼らのルサンチマンを満たしてやったところで、彼らの境遇が改善することはない。

結局、商売と利得のためにやっていてついでに有能感を満たしていることになる。コミュニティについて特に貢献しているわけではないし、他人の問題を一緒になって解決しようという気持ちもない。

これは、本来問題を解決し人々を救うはずだった議論の空間に入り込んで、盗みを繰り広げているようなものだ。法律と違って、問題を解決しようという人々の了解だけが空間を支えているので、いったんそれが崩れてしまうと元に戻すのは容易ではない。

こうした議論のための議論が行われる背景には安倍首相の抗弁がある。もはや問題を解決することには興味はなく、理屈を弄び、言葉の解釈を無効化して、議論の空間を無茶苦茶にしている。こういう政権は今すぐ消え去るべきだと思う。

安倍政権が破壊しているのは、人々が助け合って解決策を見出して行こうという人々の熱意と意思なのだ。

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