プーチン大統領に学ぶフットインザドアテクニック

プーチン大統領が「北方領土にはアメリカ軍の基地ができるかもしれないから返還は難しいかも」と主張して話題になっている。日本人は「やはりロシア人は信頼できない」などと思ったかもしれないが、プーチン大統領ってすごいと思った。セールスの古典的なテクニックである「フットインザドア」と「ドアインザフェイス」を巧みに使っているからだ。

プーチン大統領のテクニックとはどんなものだろうか。彼のプロジェクトは何かを欲しがっている無能な人間を見つけるところから始まる。この場合は安倍首相である。しかし、相手にもプライドというものがあるので、相手に「俺はやってやっている」という気分を与えるために、協力金を「払ってもらい」共同事業を進めることにした。

実は金額の多寡ではなく、毎年自発的にコミットさせるというのが肝になっている。ある事業に自分から投資してしまうと「元を取らなければ」と考えるようになるのだ。安倍首相は3000億円を投資するのだから領土問題に進展があって当然と考えるに違いない。「自発的に行動している」という意識によってコミットメントが強まる。

次に、「欲しいものを得るためにはこういうことをしなければなりませんよ」と相手を誘導する。答えがあると人は行動がしやすくなる。プーチン大統領は安倍首相に個人的な関係構築が重要だとほのめかした。面白いなと思うのは、これが安倍首相の「身内をかばい、敵に居丈高に出る」という特徴をよくついているという点である。偶然なのか、研究したのかはわからない。かなり効果的で、安倍首相はG7サミットで空気を読まずに、ロシアの協力が欠かせないと説いて回った。ロシアはクリミア半島問題などでヨーロッパと対立をしているので、この発言は日本の国益を損なうものだが、そんなことはわからなくなっているに違いない。安倍首相にとって、プーチン大統領はお友達なのだ。

こうして徐々にコミットメントを強めて、今度はいきなりハードルをあげて絶対にできないことを言ってみる。今回の発言をNHKは次のようにまとめている。

また、プーチン大統領は「島々が日本の主権下に入れば、アメリカ軍が展開する可能性がある。島々に軍事基地やミサイル防衛システムが配備されることはロシアにとって全く受け入れられないことだ」と述べ、北方領土を引き渡した場合、アメリカ軍が展開すると懸念を示しました。

さらに、将来的に、北方領土の非武装化は実現できるかどうか尋ねられたのに対し、プーチン大統領は「もちろん可能だ。しかし、島々だけでは不十分だ。地域全体の緊張緩和を考えなければならない」と述べ、北東アジアでアメリカが軍事力の強化をやめるなど緊張緩和に努めなければ軍の撤収はできないという立場を強調しました。

北方領土が沖縄化することなどありえないが、日本はアメリカに心理的に(軍事的にではない)依存しているので、関係を全く断ち切ることもできない。特に安倍首相は依存心が強いので、心理的に日米同盟に頼りきっている。アメリカの後ろ盾があると感じているからこそ、中国や北朝鮮に強く出るのである。安倍首相がアメリカから距離をおけないだろうなというのも実は彼の心理状態をよく知っているからできることなのではないかと思う。

さて、いったん作られた期待値が「自分が断ること」によって0になると考えた時、人はどうするだろうか。勝手に煩悶して「この関係をなんとかして維持したい」と考えるようになるに違いない。そこで「同盟関係を解消しないでなんとかなる方法」を提示するか、これまで以上に「誠意を見せるように」とほのめかすだろう。指示もしていないのにあれこれ忖度を始めるのである。

もし、直接的に何かを頼んで「そんなことはできない」と突っぱねられていたことでも、普通でない心理状態に陥れば通る可能性が高い。あとは安保法施の時のように、国内の法律や理屈を曲げて、統治機構をめちゃくちゃにしてでも、それをやり遂げるだろう。それを「強いリーダーシップだ」と褒めてやればよい。

このようなことができるリーダーはあまり多くない。オバマ前大統領は理想主義すぎてあまり取引を好まなかったし、トランプ大統領の「ディール」は恫喝と懐柔の単純な組み合わせで見破るのが簡単だ。中国は民主主義国ではないため「当選したから数年間は盤石」ということにはならない。韓国は国内問題の目をそらすために日本に依存しているので交渉などできない。プーチン大統領は民主的に選ばれており(本当に民主的かどうかは怪しいものだが、選挙によって独裁権が与えられるという点は重要だ)このようなことができてしまうのである。

プーチン大統領にとって安倍首相は好ましいパートナーだろう。彼が首相であり続ける限り様々な取引を成立させることができるからだ。

一時期「アメリカなどから経済制裁を仕掛けれている今がチャンスだ」などと言っていた人がいた。実は「弱気になっているから付け込まれるかも」と相手が考えている時というのは取引を仕掛ける好機なのである。そもそも北方領土が帰ってくるかもしれないと考えたときに期待が生まれ、相手に付け込まれる隙が生まれる。北方領土返還に携わった政治家の中には、こうして貴重な政治的リソースを消尽してしまった人もいるのではないだろうか。

 

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