武装難民

武装難民という言葉が一人歩きしている。参加している人たちは見たくない現実を見ないために、相手を非難している。見たくない現実は2つある。日本が核兵器で攻撃されるというシナリオと日本に難民が押し寄せてきてその中に武装した人たちが含まれているというシナリオである。だが、北朝鮮を刺激するということはこのシナリオの現実性が高まるということでもある。

いわゆる右派と呼ばれる人たちは序列にこだわる人ので「優れた集団である我々」が「弱くあるべき人たちを支配する」図式については語りたがるが、その結果として社会に悪い影響があるかもしれないという点については語りたがらない。一方、お花畑系左派はすべての「かわいそうな人たち」は保護されるべきであって、その中に悪意を持った人たちがいるという可能性を排除したがる。だが、どちらも間違っていて危険な考え方である。

麻生副総理の言及するように武装難民はあり得ることである。だが、こうした人たちが生まれるから北朝鮮を刺激すべきではないとの結論にすべきで、撃退できるか議論しなければならないと話を進めるのはどう考えても間違っている。この類のことは政府内部で極秘に検討すべきことで、茶飲話で済む問題ではない。安倍首相は想定していると語ったようだが、この人は福島第一原発はアンダーコントロールだと言い放った人なので、全く信用はできない。

いわゆる難民と呼ばれる人たちには保護を与えなければならないのだが、日本は無条件に難民を受け入れた経験が少ない。新羅からの難民を受け入れたのを除けば、米軍占領時に朝鮮半島から流れてきた人たちを受け入れたのが多分最大の難民経験ではないだろうか。彼らは「不法に」海峡を渡ってきて、そのまま日本に住み着いた。1951年以前の当時はまだ難民という法的枠組みはなかった。

ベトナムからのボートピープルは主に中国の海岸に流れ着いたようだ。最終的には香港が受け入れたようで、その大部分はアメリカに流れた。アメリカはいわば当事国であり、受け入れは自然な流れだったのだろう。同じように今回日本は北朝鮮を追い詰める以上、難民を受け入れる必要が出てくるだろう。

ベトナムの場合逃れてくるのは一般の人たちだった。主に華僑が多かったようだ。しかし、北朝鮮にはこれとは違った現実がある。これは軍事組織の統制が取れている平和な国日本に住む私たちにはなかなか想像が難しい現実だ。つまり、北朝鮮が組織的な意図を持って便衣兵的に日本に人を送り込むというのとは全く違ったシナリオが予想できるのである。

北朝鮮の軍隊はすでに飢餓が進んでいると言われている。ゆえに軍隊の人たちが難民化する可能性がある。加えて北朝鮮は兵隊の割合の高い国だ。人口は2400万人程度だそうだが、兵士は120万人もいるという試算があるという。つまり、北朝鮮は一般の人たちに近い人たちが武器の扱いを知っているという国だと言える。こうした人たちは移動用の船と武器を持っている可能性が高く、普通の人たちよりも早く日本海沿岸に流れ込むかもしれない。しかし、軍として統制されている可能性は低い。この人たちを軍人として扱うのか、それとも難民として扱うのかというところから意思決定が必要となるのだが、悠長に議論をしている暇はない。また現在日本海の不法漁船を取り締まることができないことからわかるように日本海を監視して船を追い払うことも不可能だろう。

右派の人たちがこういう話を持ち出すと、やれ関東大震災の朝鮮人虐殺だというような話になってしまうので、ここはあえてリベラルな人たちが議論しなければならないように思える。つまり、彼らを人道的に取り扱いつつ、危険を取り除いて受け入れる側の人権にも配慮しなければならないのだ。

軍としての統制がないにしても、攻撃する意思がないとは言い切れない。これを軍事行動だと言いつのることはできるだろうが、日本には交戦権がない(正確には交戦権のある軍人がいない)ので、彼らと戦闘はできない。攻撃の意思を示す前に撃ち殺してしまえば明らかに過剰防衛になってしまう。かといって何もしないわけにはいかない。難民審査官と呼ばれるようになるだろう人たちは「丸腰」だろう。日本海にこうした人たちが流れ込んでくれば、海岸警備はとても厳重なものになるだろう。

この人たちが「いい人なのか」「悪い人なのか」という議論にはあまり意味がない。もしかしたら親孝行な兵士も多いかもしれないのだが、現実は日本人が想像するよりはるかに過酷なようだ。実際に中国領内に北朝鮮の兵士が侵入したという事例があるそうだ。デイリーNKのリンク先を見るともの乞いまがいの行為を働いたりしている人たちもいるという。しかし、こうした人たちを一概に責めることもできない。食べるものもなく、上納金を払えなどと言われて追い詰められている人たちなのである。環球時報は北朝鮮の兵士が現地の中国人4人を殺したという事件を伝えている。中国や韓国が一方的な軍事行動に慎重な姿勢を示すのはこのためもあるだろう。

この麻生さんの「武装難民」の話を聞いた時にまず考えたのは、北朝鮮が内戦化し、周辺に流れ込んだ武器が陸地伝いに周辺国に伝播するというシナリオだった。北朝鮮と日本は陸続きではないので、このシナリオを真剣に検討する必要はないのかもしれない。だが、ボートピープルの中に武装して武器が扱える人が乗っている可能性は排除できないし、お腹をすかせた彼らが何をしでかすかはわからない。

安倍首相が「北朝鮮を追いつめろ」といい河野外務大臣が「北朝鮮と断交しろ」といったとき、日本にも武装してなおかつ追い詰められた人たちが日本にやってくるだろうという現実を踏まえたものなのであれば、それはそれで立派な態度だと言える。だが、その場合は「国連で戦争を覚悟する発言をしてきました。ぜひ応援してください」と訴える必要がある。だが、安倍政権は国民に「いちいち」そんな「些細なこと」を説明するつもりはないようなので、誰か他の人が考えてやる必要があるのではないだろうか。

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