佐賀のAH64D墜落事故は起こるべくして起きたようだ

佐賀県で自衛隊のAH64Dが墜落した。このニュースを見ていて違和感を感じた人も多かったのではないかと思う。ジャーナリストの初動は芳しくなく当初は「ジャーナリズムはこの件を重要視していないのではないか」と書いたのだが、徐々に事件の原因が明らかになりつある。この件は政権の新たな火種になるのかもしれない。(2018/2/11改定)

このヘリコプターの件については不具合がよく知られているようだ。

これまでにわかっているのは、墜落したAH64Dは「こなれたタイプ」のヘリコプターであり、最近メンテナンスを終えたばかりだったということだ。亡くなったパイロットはアメリカに留学経験もあるこの機種のエキスパートで経歴上の問題はなさそうだった。

AH64Dはマクダネルダグラス社(現在はボーイング)が開発しており、いくつかのバージョンがある。今回墜落したものがどのバージョンに当たるのかはわからない。この記事では一機の価格は80億円だそうだ。もし報道されていることが確かなら、メンテナンスをした人たちはその失敗ゆえに80億円を一瞬にしてスクラップ化したことになる。自衛隊だけでメンテナンスしたとは考えにくいので協力会社や部品提供会社の問題も追求されるべきだろう。

自衛隊の装備は割高であることが多いのだが、なぜ国会はそれを黙認するのか。記事は次のように説明している。

陸自は2005年になってAH-1S約80機の後継としてAH-64D(アパッチ・ロングボウ)を62機導入することを決定した。むろん、これは慣例通り、国会で承認されてはいない。日本では多くの場合、議会も納税者も何のために何機がいつまでに、総額いくらの予算がかかるかも知らされず、初年度の調達がなし崩し的に始まるのが慣例だ。これが装備の高騰化の一因となっている。先に上げた陸自のAH-64Dの調達数である62機も、単に陸自内部の目論見であり、国会で承認された計画ではない。

さらに気になる記述もある。ヘリコプターは調達したら終わりではなく、あとメンテナンスが必要であり、メンテナンスには当然ながら部品が必要になる。どうやら、その部品が十分に調達できない状態になっているようである。

その理由については、米陸軍のアパッチがセンサーやネットワーク力を強化した最新型のブロックⅢ(現AH-64E)に改修されるのに伴い、陸自が導入するブロックⅡの生産が終わり、部品などの調達が不可能になるため、などと説明している。

最初にこのニュースを見た時には「メンテナンスをアメリカに委託しており、安倍首相はアメリカに何も言えないのではないか」と推論した。事故が起こったとしてもアメリカに補償してくれとはいえなさそうだから、国会で圧力をかけてアメリカとの契約を見直すべきだと考えたのだ。補償さえしっかりしていれば部品メーカーもそれなりに気を引き締めるだろう。全ての事故は防げないまでも、ある程度の抑止効果は得られる。

しかしながら、この記事が書いてあることを信頼すると、事情はもっと複雑である。類推も含めて整理すると次のようになる。

  • 防衛省は国会承認を得ずに勝手に杜撰な計画を立てた。
  • 防衛省はアメリカからライセンスを受けて日本のメーカー(富士重工)にライセンス生産させている。メンテナンスも富士重工にやらせているのではないかと思われるのだが、そのことは書いていない。また部品供給先も書かれていないのだが、部品調達は輸入に頼っているようである。自家調達ができないので部品調達が止まれば不安定な運用をせざるをえない。
  • 防衛省は、当初の調達数は口約束で正式な書類によるものではないと言っているようだ。富士重工は当初の計画に従って設備投資などをしているのだろう。このため訴訟が起きている。
  • 訴訟にもかかわらずメンテナンスは富士重工が行っているのではないかと思う。自衛隊で全てやっているとしてもある程度の智恵は富士重工に借りる必要がる。仮に富士重工が真面目に整備点検をやっていたとしても、アメリカでの生産が終わっており部品が手に入らない可能性がある。つまりやる気がない人に無理な運営をさせていることになる。

この調子だと富士重工に「メンテナンスに失敗したら補償をするように」などとは言えそうにない。富士重工はむしろ被害者だ。

しかも、同じ機種で同じような事故が数件あったらしい。こちらはのちに朝日新聞社が「専門家も「ありえない」 陸自ヘリ墜落事故の異例さ」として伝えている。

「事故を起こした機体は事故の50時間前にローター部の部品を交換した際に正しく組み付けられず、部品に負荷がかかった結果としてメインローターが空中で分解しました」

与野党はこの件に関する集中審議をやるそうだが、野党は「ちゃんとやっていないのでは」と追求し、与党側は「ちゃんとやっている」と応じて終わりになるのかもしれない。ここに山本太郎参議院議員や福島瑞穂参議院議員のような人が加わると「ヘリコプターみたいな鉄の塊が空を浮くはずはないから全部飛行停止にして、オスプレイも導入するな」などという極論になり「いやヘリコプターは必要である」とネトウヨが応じて大騒ぎになって終わりということになりかねない。最終的には自民党が数で押し切って、有権者は「ああ、またもめているよ」と思って終わりになるだろう。

一方で、この件に関して防衛省の杜撰な導入計画についてメスを入れることができれば、政権の当事者能力に大きな疑問符がつくことは間違いがないだろう。どうして場当たり的な調達が繰り返されたのかという問題もあるだろうし、同種の事故を見逃していたという可能性も高い。

安倍総理が反省しているような顔で「お詫び」をして済むような問題ではない上に、専門家が書いた記事があるということはその界隈では知られた話である可能性が高い。

沖縄でもヘリコプターの墜落や緊急着陸事故が多く起きているが、部品の調達などに構造的な問題があったとしてもその内実を日本人が知るのは難しそうである。日本の場合は幸いなことに構造がどうなっているのかをある程度知ることができる。野党はこの件を単なる政局的に扱わない努力が必要であり、心ある与党の人も本当に日本を守りたいのなら調査に協力すべきだろう。日本人の安全がかかっているのである。

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