なぜ地方の観光産業は煩悶するのか

本日は何故地方の観光産業は煩悶するのかというテーマでお送りする。煩悶というのは悶えて苦しむという意味である。その地域に独特の魅力があり「お金を払ってでも見に行きたいという人がいるのだから精一杯もてなしてあげよう」という誇りが観光業を支えている。つまりそれは単なる産業ではなく生業である。だが、その誇りが揺れている。だから煩悶するのだ。

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問題を複雑に考えたがる人たちとベーシックインカム

新型コロナでアメリカの新規失業者数が4,200万人になったそうである。その一方でアメリカの富裕者の元に62兆円がなだれ込んでいるそうだ。これをみて資本主義は終わったなあと思った。「終わった理由」は極めてシンプルなのだが、これがそのままでは受け入れてもらえない。イデオロギーが入りこみ人々は話を複雑にしてしまうのである。

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マスクはなぜ値崩れを起こしたのか

本日はマスクはなぜ値崩れを起こしたのかということを考える。これが重要だと思うのは日本ではなぜハイパーインフレが起きないのかということを考えるきっかけになると思うからである。背景には二つの事情がある。裁定取引だけを狙う中間業社と消費者の防衛意識だ。おそらく二つがあってはじめてこの現象が起こるのだろう。

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資本主義社会というカジノでデモは伝染する

香港でデモが暴徒化してからしばらく経った。このデモはいいデモなのか単なる暴徒なのか、中国の影響があるのでは、いや資本主義社会が先導しているのではないかと、様々な議論が生まれた。だがその憶測は急速に無意味化しつつある。デモや暴動が広がり続けているからである。




香港の手法の一部はカタルーニャ地方に飛び火した。独立派の禁固刑に反対した人たちが道路を封鎖して火炎瓶を投げたりしている。空港に行く道や観光名所が封鎖されたとも伝えられている。香港のデモを快く思わない人たちは「香港がデモを輸出した」と揶揄した。つまりインフラを封鎖して外国に影響を知らしめようとした手段が似ているというのである。お気に入りの観光地を失うまで世界は振り向いてくれない。暴動の担い手たちにはそんな気持ちがあるのかもしれない。カタルーニャの民族主義者たちに司法の光は差さないからだ。

香港のデモに対する感情はうっすらと日本の政治事情を反映している。自民党支持者たちは中華人民共和国を嫌っているので香港のデモを応援したりしていた。普段は野党のデモをバカにしているのだからこれは奇妙なことである。自分が守りたい立場がありそのために意見が変わってゆくのである。

ところが、カタルーニャに飛び火するとこれがわからなくなる。香港のデモを応援するならカタルーニャのデモも支持しなければならないが中国という敵はいない。これが政治的な主張に支えられているならそこで煩悶する人がでてきてもよさそうだが、そうはならない。所詮はバラエティ番組を見るようなノリでしかないのだろう。彼らは沈黙してしまった。

ところが今度はまた別の展開があった。

チリの首都サンチアゴで非常事態宣言が出された。地下鉄の運賃値上げに反対したのだという。1月に3円値上げした後今回は5円上がったそうだ。「消費税が上がっても文句を言わない日本人」から見ると「たったこれだけ?」と思うのだがこれが暴徒化した。チリはもともと安定した政治状況で知られるだけに驚きも大きい。さらに経済が極端に悪いというわけでもない。太平洋向けの貿易を頑張ってきた国だからである。OECDの中では先進国に分類される。

面白いことにTwitterでは暴徒を応援するつぶやきが見られた。高校生が運賃ゲートをこじ開けて中に入ったらしい。これが好ましいという人が出てきたのだ。心情的には香港のデモに学生が参加しているのを見て応援を始め、それがサンチアゴの高校生への心情と接続しているのであろう。若い人たちが社会改革をしようとしているということなのだが、やっていることは犯罪である。ここまでくるともう何が正しいのか何が間違っているのかがわからなくなるが、日本にもこうしたラディカルな社会改革にためらいなくシンパシーを表明する人が出始めているというのは確かである。つまりこれまで既存政党のデモの担い手たちの一部が「これは生ぬるいのでは?」と感じ始めている。参議院選挙の時にれいわ新選組を応援していたような人たちも混じっているのかもしれない。

そこに重ねてレバノンのデモの動きが入ってきた。こちらもタイヤを幹線道路で燃やしたりして街を麻痺状態にしようとしたようである。数千人が参加しており負傷者も出ているという。デモ参加者はアラブの春のスローガンなどを叫んでいるとAFPは伝えている。

どうやら、香港の「交通インフラに影響を与える」という手法がSNSなどにのって拡散しているのは間違いがないらしい。原因は表向きはバラバラである。香港は中国本土の政治的影響を懸念しているようだしカタルーニャは独立したがっている。チリとレバノンでは経済的な不安がデモを過激化させているようだが民族問題は関係がなさそうだ。しかしそこには未来への漠然とした不安という共通の問題意識がある。こうしたバラバラの動きがSNSによって結びつけられているという意味では実は日本も例外ではない。

1989年以降共産主義が倒れた時には独裁者という明確な敵がおり政治が民主化することがソリューションだった。ところが30年後の我々の目の前には明確な敵がいない。だから暴動には終わりがない。

考えてみれば資本主義はカジノのようなところである。資本主義社会に生きるということはこのカジノに賭け続けるということである。だが、その勝負は賭ける前からついている。お金のない人や後から勝負に参加する人(つまり若い人たち)ほど巻き上げられる可能性が高まる。

政府は彼らに賭け金を提供し続けなければならないのが、提供すればするほどお金持ちの取り分が増え政府には借金が残る。欧米ではこれが持続可能な領域を超えつつある。日本は破綻を先延ばしにしているが共通の仕組みに乗っているのだからやがては同じような未来が待っている。

共産主義崩壊の30年後である2019年に始まった形のない崩壊は今後しばらくは続くだろう。基本的に資本主義カジノ問題を解決する策はないからである。もうこうなってしまうと「良いデモ・悪いデモ」というような区別は意味を失ってしまう。

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人民元が安いのか、ドルが高いのか?

お盆休みに入った。テレビからも政治関連ニュースが消え、政治ネタのブログなどを見る人が減る時期である。今回はよくわからない為替関連の基礎知識の整理をしたい。よ結論も洞察もない。単に混乱した情報を整理しているだけである。




トランプ大統領がFRBを恫喝したとして話題になっている。「ドルが高いのはFRBのせいだ」というのだ。別の場面では人民元が為替操作で安くなっていると言っていた。一体どちらが正しいのか。

先日、アメリカは中国を為替操作国に指定した。中国は為替を不当に操作しているというのである。だが、実際には中国はアメリカの言いがかりとは逆のことをやっている。つまり、人民元の価格を高めに設定している可能性が高いのだという。そうしないと人民元で投資している資産をドルに変えて資産流出が起きる懸念があるそうだ。実際に今回も人民元を下げた結果資金流出が起きているという。

概念上の観測と実際に起きたことが合致しているので何か起きているのだろう。ただ中国人が資金を逃しているのか、あるいは海外投資家が新興国から資金を引き上げているのかはわからない。そもそもそれを問題にする人はあまりいないようだ。

IMFは元の価値は適正だがドルは6-12%過大評価されているとしている。この状態でトランプ大統領がIMFに裁定を求めてもIMFは中国に是正勧告しないだろうというのだ。するとトランプ大統領の中国への圧力は単なる言いがかりということになる。単なる言いがかりで株価が下がったり経済が急速に悪化するわけだから、世界経済というのは恐ろしい。

実はアメリカは追い込まれている。他国を名指しして通貨安競争をやっていると言ってしまったために自分たちが為替介入ができない。実際にはドルが高いのだからなんらかの措置を取らなければならないのだが、それができないのだ。

さらにコラムトランプ氏の「ドル安誘導術」、それぞれに相応の代償には面白いことが書かれている。ドルは基軸通貨として世界中にばらまかれているため中央銀行が介入しても動かすのが難しいのだという。トランプ大統領はアメリカの投資環境を悪化させて(すなわち経営者をいじめて)ドルの価値を毀損することはできるが代償があると書かれている。

そうなるとトランプ大統領は誰かを指差して声高に叫ぶしかなくなる。「誰かなんとかしろ」というわけだ。

FRBは春先には金利を下げる必要はないと主張していた。にもかかわらず金利を下げたのはトランプ大統領の批判をかわす政治的な意味合いがあるのだという。効果がない政策でありながらも「やらざるをえない」というところにFRBの苦悩が見て取れる。

金融緩和策はその場しのぎであり早い時期に出口を見つけなければならない。そこでFRBは「金利を維持しますよ」というメッセージを発信してきたのだろう。ロイターによると、アメリカは2008年の出口を見つけようとしていたようだ。

FRBが前回利下げしたのは、金融危機が深刻化した2008年だった。それから7年間、政策金利はゼロ近辺で推移した後、イエレン前議長が15年終盤に利上げを開始。昨年12月に25bp幅で最後の利上げが実施されてからは、政策金利は2.25─2.5%に維持されていた。

ラム:市場も大統領も喜ばせないFRBの10年半ぶり利下げ

多分2008年の金融思市場混乱回復のコストは誰かが支払っているはずだ。これを調べればなぜFRBがここから抜け出したがっているのかがわかるのかもしれない。

だが、その動きに世界は追随せず物価が上がってくれない。さらにトランプ大統領が「FRBを名指しで攻撃し」はじめ、さらに中国経済を悪化させる動きに転じた。こうなるとアメリカだけが利下げをしないというわけには行かなくなる。

2019年6月頃の記事では「FRBも利下げやむなし」という議論になっている。そして、実際に「予防的」と称してちょっとだけ利下げをしてみたのだろう。ロイターの記事によると「予防的に利下げしてみてもいいことがなかった」ことがわかればトランプ大統領の攻撃も無効化できるということだ。もっともトランプ大統領は「やり方が生ぬるいからだ」と攻撃するだけなのではないかと思う。

トランプ大統領が暴れれば暴れる程世界経済は減速する。その先に何が待っているのかは誰にもわからない。

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現場に権限を渡さないことで崩壊しつつあるセブンイレブン

セブンイレブンが24時間営業の件に続いて7payで大炎上した。不正の原因はまだわかっていないらしいが、現在までの被害額は5500万円ということである。中国人が何人か捕まっているが犯人の全容もよくわかっていない。NHKニュースはひたすら「自分の身は自分で守るように」と言っていた。




24時間営業の件と共通しているのは「帝国の崩壊」である。24時間営業問題ではオーナーを締め付けて近隣に店を作り本社の利益を優先した政策を実行してきた。これは店舗を植民地とみなして搾り取る方策であり、オーナーとは名ばかりの小作である。セブンイレブン側が小作問題を鎮圧できたのは、セブンイレブン側の方が知識量が上だったからである。

一方で今回の場合はIT知識のなさが深刻な打撃を与えた。IT産業では現場エンジニアが知識を持っており経営者に知識がないということが実は珍しくない。Twitterでは日本オラクル、NEC、NTTデータ、NRIなどという名前も言及されており、これが本当であれば日本は「総力戦」で負けつつあるということになる。どのコンサルティングも元請SIerも現場のエンジニアを粗末にしてきたのだろうと思える。

セブンイレブン側は銀行との入り口を遮断したので被害は止まったのだが、Twitterにはタレコミ情報が溢れている。どうやらセブンイレブンアプリの脆弱性は知られていたようだが「ハックしてもクーポンくらいしか盗めない」ということだったようである。つまり現場は知っていて黙っていた(あるいは言ったが取り合ってもらえなかった)可能性が高い。

セキュリティテストへの疑念もあった。これが形式的にしか運営されていないのだそうだ。どういう人たちがテストを運営しているのかはわからないのだが、現実には即していないようである。セキュリティテストは想定していない脆弱性は見つけてくれない。そんなことをしても余計な仕事が増えるだけだからだ。

ITバブルから10年以上現場を粗末にし続けた日本のIT産業は成長どころか深刻な機能不全に陥ろうとしているように見える。

それを念頭会見についての報道を見直すと「二段階認証が必要なアプリと比較される理由がわからない」というような発言をしており戦慄する。このちぐはぐなやり取りは「この会社大丈夫か?」と思わせるのに十分なインパクトがあったが、技術担当の重役がいればこんなことにはならなかっただろう。セブンイレブンでの技術担当者の地位の低さがわかる。

小林強社長は2004年に入社したようだがそれ以前の経歴が全くわからない。7payの準備期間は1年程度だったようなのでやる気になればちゃんとしたサービスが作れたはずなのだ。さらに彼らはNanacoという比較的堅牢な決済手段も持っていてQRコード決済にこだわる必要は実はなかった。だが、NanacoはカードごとのIDなので顧客情報を分析できない。

日本人には「横断歩道根性」がある。日本人は決して先頭に立って何かはやりたがらないが、一旦村落内で方向性が決まると我先に同じ方向に走り出す。怖くて一人では横断歩道を渡れなかった人がみんなで一斉に渡りだすのに似ている。今回は「購買履歴を取って客を囲い込みたい」という気持ちがあったのではないだろうか。他者に客を取られるかもしれないと考えた時、左右を見ないで横断歩道を渡ってしまったのだろう。だとすれば他の会社の決済システムも実は怪しいのかもしれないという気持ちになる。多分ベンダーやコンサルは同じ人たちかもしれないのである。

日本人経営者は仲間内でかばい合い根拠のない万能感に浸ってきた。その間現場の技術者を軽視し十分な予算と人を補充してこなかった。実際に手を動かす人たちは小作オーナーでありIT土方扱いされた。それが今回の惨状を作っている。

今後さらに消費税増税をめぐって「軽減税率対応」という難敵が待ち構えている。ギリギリまで仕様が決まらない「デスマーチ確定プロジェクト」である。ここで間違いが起これば「納税の公平性透明性」に大きな傷がつくだろう。小売大手のITプロジェクト管理能力がこの程度であれば10月に大混乱が起こるのではと思ってしまった。この心配が杞憂に終わることを望みたい。

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立憲民主党の最低賃金政策と砂漠化しかねない日本経済

立憲民主党が参議院選挙を前に「最低賃金を全国一律1300円にあげるべき」という政策を打ち出したそうだ。これを「韓国のように失敗する」と指摘する識者がいる。本当にそうなのだろうか。




まず反対派の声を見て行こう。呆れるしかない最大野党の参院選公約という経済学者の議論だ。全国一律で最低賃金をあげると「韓国のように失敗する」と言っている。理由は小売業・飲食業が伸びているからだという。確かにこの産業は生産性の上げようがない。

実際に韓国では就職活動生を含んだ若者の4人に1人が失業状態にありアルバイトすら見つけられていないという。日本もそうなったら大変だという気持ちはわかる。韓国、最低賃金の衝撃でバイト19万件減少…青年失業率が通貨危機後初の10%台という記事で中央日報が詳しく書いている。

ではなぜ韓国では最低賃金の引き上げが失業率を押し上げたのだろうか。それは韓国の経済が単純だからだろう。就職できない人たちが周囲からお金をかき集めて「とりあえずできる」事業を開始することが多いのだという。レコードチャイナが韓国のチキン屋は世界のマクドナルド店舗より多い?韓国自営業の問題点に、ネットも共感という記事を書いている。

韓国では外食産業が簡単に始める人が多いが、生き残るのは30%程度だという。実際に韓国のバラエティ番組などを見ていると、お兄さん(ヒョン)に投資してもらって店でも出そうかという話が頻繁に出てくるし、実際に店を始めるリアリティショーなども放送されている。単純な経済で働いて生きて行こうと思えばとりあえず始められることをやるしかない。ちょっと料理が得意な人がいれば「店でも出せるのではないか?」ということになるのだろう。背景には選択肢の少なさという問題がある。つまり産業が単純化し「一歩間違えば砂漠になる」というところまで来ているのだ。

では最低賃金の引き上げは必ず失敗するのだろうか。デービッド・アトキンソンが全く違うことを言っている。イギリスでは成功したというのである。最低賃金の引き上げが「世界の常識」な理由を読んでみよう。

デービッド・アトキンソンは生産性と最低賃金には正の相関関係があるという。ただ、この記事では「最低賃金をあげたから生産性が上がった」というロジックは書かれていない。つまり、生産性が上がったから最低賃金が上げられたのだということも考えられるし、もともと生産性が高い労働が準備されていて人がそこに移ることができたということなのかもしれない。この文章は途中の議論がスキップされていて(続きは本を読めということなのかもしれないが)問題が多い。

労働政策研究・研修機構がイギリスの最低賃金制度について詳しく分析(PDF)しているのだが、これを展開したウェブ記事は見つからなかった。イギリスではどうやら職種や年齢ごとに細かく最低賃金が規定されているようだ。

つまり、最低賃金保証制度の肝はばらつきを抑えることにあるような印象を受ける。こうすれば日本にあるような歪な二極化はなくなる。一部の終身雇用正社員が非正規雇用を「搾取」するような低賃金労働に依存するというようなことはやりにくくなるだろう。さらに最低賃金は政府保証から企業負担(つまり福祉から就職)という流れに位置付けられているらしい。自立更生を促しているのである。

国は面倒見切れないから自分たちでなんとかやっていって欲しいという方針には反対もあるようだ。最低賃金を引き上げて福祉を削るというような記事もでていて当事者たちが必ずしもこの「福祉切り捨て」に賛同しているわけでもなさそうだということはわかる。

これを踏まえて、アトキンソンの別の記事「企業に「社員教育を強制」するイギリスの思惑」を読んでみる。日本政府は職業教育を国がやりたがるが、これを企業にやらせようとしていると言っている。これらを総合すると、つまりゲームのルールを厳しくして企業を誘導するのがイギリス式で、今の企業(つまり低生産性)を温存しようとしているのが日本式ということになる。

イギリスは産業を一つのアリーナと見立てて企業同士を競わせている。一方日本では護送船団方式方式で一番弱い企業に合わせて生産性の高い企業に競争をさせないというようなことが起こる。そして日本ではそれでも面倒を見切れなくなると「合併」させて大きくして温存しようとするのだ。

労働政策研究・研修機構の資料に戻ると、イギリスがこのような方式を打ち出した背景には保守党と労働等の競い合いがあるようだ。労働党政権は最低賃金を提案して一度負けているので「アイディアのブラッシュアップ」を迫られた結果として、きめ細やかな最低賃金決定の仕組を創案することができたのである。

労働党は当初、最低賃金額を「所得の中央値の 5割」で固定する方式を採用、92 年の総選挙でもこれを主張したが、失業状況が悪化する中で、保守党の「最賃制度の導入は、雇用に対する悪影響を及ぼす」との主張や、広範な企業からの反対に効果的な反駁ができず、選挙にも敗北を喫した。当時、労働党の雇用担当広報官だったトニー・ブレア(94年に党首に選出)はこの結果をうけて、労使などのソーシャル・パートナーで構成される低賃金委員会の提案に基づいて最賃額の決定を行うシステムへの方針転換を決めた。

第 4 章 イギリスの最低賃金制度

最初にこの記事を書いた時「立憲民主党には新しい産業のビジョンがないことが問題だ」という結論で文章を書き終えた。しかし、労働政策研究・研修機構の資料を読んだあとでは「そもそも政府にそんなことがわかるはずはないので、自助努力を促すようにゲームのルールを変える方が実用的である」という感想になった。

「最低賃金1300円」という言葉が一人歩きしているのは大問題だ。年金問題から通しで見るとこれが日本の政策議論の特徴らしいことはわかる。2000万円足りないなどという数字だけが単体で語られてしまい総合政策が作れないのと同じように最低賃金は1300円だいや1500円だという議論がいつまでも続いていて結局誰も何もしない。

その背景にあるのは対論のなさだろう。つまり一度批判され「言い返せないな」と思った時に諦めずに次の案を作れるかが重要なのだ。さらにそのためには「意味のある反論をしてくれる人」を探さなければならない。党首討論のあり方を見ていると、日本の政治家は単に甘えているのかそれとも資質がないのかはわからないが、いずれにせよ対論というものが存在しないということだけはわかる。

もっとも、政権を取るつもりのない立憲民主党が真剣に最低賃金を議論しているとは思えない。彼らは「最低賃金を1300円に上げたいが自民党が邪魔をしている」と言い続けるだけで一定の得票ができるからだ。れいわ新撰組はさらに過激で「政府保証により1500円を目指す」と言っている。つまり賃金を国が保証しろと言っている。つまり、イギリスと違ってすべて国がまる抱えしろと言っていることになる。ただ日本には政治的対論者はいないので、彼らがここから脱却することは多分できないのだろう。

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