アメリカ大統領の弾劾プロセスにはどのような法的根拠が必要なのか

アメリカで大統領弾劾のプロセスが始まった。これについて日本ではあまり報道されていないのだが、アメリカでは連日政治ショーが繰り広げられている。これについてQuoraでは「どういう規定で弾劾が行われるのか」というかなり鋭い質問があった。実はそんな話は読んだことがなかったのだ。




アメリカではトランプ大統領が選挙のために自分の権力を使おうとしたと問題視されている。具体的にはウクライナへの支援を止めた上で「バイデン民主党大統領候補とその息子が何かやってないか調べてくれ」と頼んだのではないかという疑惑が持たれているのである。この件についてはなぜかBBCがよくまとまっている。

もともと内部告発から始まったこの話だが、やりとりがあったことはすでにわかっていて、トランプ大統領も認めており、結果的に電話の内容も公開された。

ただその前に隠蔽が起きたようだということもわかっている。日本でも加計学園問題でたびたび問題になった記録隠しだが同じようなことがアメリカでも起きていたことになる。

電話協議から数日後、複数のホワイトハウス高官は政府関係者による電話記録へのアクセスを大幅に制限する措置を施した。ホワイトハウスの法律顧問は文書を広く閲覧できる電子システムから米ウクライナ首脳の電話記録を削除するよう関係者に指示した。電話記録は機密性が非常に高い文書を扱うはずの別の電子システムに移された。

米ホワイトハウス高官、電話記録を隠蔽か 内部告発状

日本では曖昧に終わってしまった公的記録の問題だが、アメリカには「国に忠実な」高官がいて内部告発者になった。ここが大きな違いである。元当局者たち300名も捜査に協力すると言っている。アメリカは元当局者が新しく仕事を見つけることができるので自由な立場で愛国心を発揮することができるということなんだろうなあと思った。コミュニティの狭い日本で愛国心を発揮すればその人は裏切り者として集団から罰せられてしまうだろう。だから日本からは全体の利益に奉仕する愛国者は出てこない。

外国の介入をアメリカ人が嫌っていることはわかる。ただ、どの記事を読んでも「民主党が何をもってして」これを弾劾相当であると見なしているのかという答えがない。アメリカ人は外国の干渉を嫌っており、民主党はバイデン候補が狙い撃ちにされたことを怒っていることしかわからないのだ。

まず、議会は上院であっても下院であっても弾劾プロセスを始めることができる。BBCは要するにきっかけはなんでもいいという言い方をしている。

違法かつ(または)非倫理的な行為を犯した大統領に対して憲法が定める対応は、下院の多数による弾劾と、上院の3分の2以上による有罪認定と罷免だ。

米憲法は弾劾の理由を「反逆罪、収賄罪またはその他の重犯罪や微罪」と規定している。詰まるところ、下院がそうだと言えば、何であろうと「弾劾相当の違反」となる。

【解説】 トランプ氏とウクライナの電話に何が? ウクライナ疑惑とは

議会の権限の強力さと大統領との対決というのが立憲君主制の国と決定的に違っているところである。韓国にも同じような構図がある。共和制民主主義の国は主権者と国家権力を調停する人(君主)がいないので「ガチンコ対決」になる。

同時に、弾劾は権力闘争に使われる可能性をはらんでいる。元当局者たちが「どちらかの政党に肩入れするものではない」と言っていることからもわかるように、党派同士の争いだという印象がついてしまうと弾劾劇は失敗に終わるだろう。

また、憲法には、大統領などの地位にある人が勝手に議会の承認なしに外国から栄典を受けたり報酬をもらったり便宜供与を受けてはいけないという規定もある。ここからもアメリカが外国からの介入を極端に嫌う国であるということがわかる。外国生まれで帰化した人が大統領になれないのもその一つの表れなのかもしれない。そこはやはり植民地が独立した国なのである。

弾劾を始めるのは簡単なのだが、それを証明するのは簡単ではない。ニクソン大統領が弾劾裁判を受けかけたがその前に止めているという。なの弾劾が完了したという先例はないようだ。また上院が大統領弾劾に賛成する見込みは今のところそれほど高くない。

さらに民主党の中にも大統領の弾劾まで行くのはやりすぎなのではないかと考える人がいるようだ。つまり民主党の中にも「民主党が権力闘争をはじめた」と見られることを恐れている人たちがいるのだ。

民主党のディベートを見ていると急進的な社会主義者と穏健な民主党の人たちの間に溝ができておりお互いに内部分裂しているというような印象がある。外に敵を作って選挙を有利に進めたいという思惑は垣間見えるので、この下院の動きが国民の支持を得られるかどうかはまだわからない。

早速、ウクライナの大統領がトランプ大統領に機嫌を取ろうとしてお世辞を言ったという話も出てきている。トランプ大統領側は疑惑を晴らそうとして「この程度のことは大丈夫だろう」というつもりで会話を出しているのだろが、あまりにもあけすけであからさまなので呆れてしまう。そしてこれにへつらうようなウクライナの大統領も政治的に厄介な問題を抱えることになってしまった。

これを見て余計なことだが「安倍さんもたくさん武器を買っているから聞かれたくない話はたくさんあるだろうなあ」などと考えてしまった。トランプ大統領と関わることにはリスクしかないということをもう多くの人が気づいているのではないだろうか。