アメリカに蔓延する政治家不信とクリントン元国務長官のメールサーバー事件

トランプ大統領の弾劾問題について観察しているうちに「そもそものきっかけは何だったのだろうか」と思った。それはヒラリー・クリントン元国務長官(のちに民主党の大統領候補)のメール漏洩問題である。では、なぜあのときメール問題で大騒ぎしたのかと思い返してみたのだがよく覚えていない。記憶とは曖昧なものだなと思った。




結局たどり着いたのは前嶋和弘さんの文章なのだが、要するに自宅にメールサーバーを置いていたのが怪しいというだけの話だったようである。「自宅にメールサーバーを置くとは何か隠し事をしているのでは?」ということがヒラリー・クリントン凋落の主要因になったようだ。そして、私的に管理されていたメールサーバーの脆弱性が外国に狙われた。

つまり、もともと「国家文章はちゃんと扱わねばならない」という常識があり、その常識を守らなかったクリントン元国務長官がけしからんという話になった。背景にあるのは既存のエリート政治家に対するうっすらとした不信感である。クリントン元国務長官の夫は大統領であり「ヒラリー・クリントンを選んだ民主党はもう庶民のことを相手のことを真剣に考えてくれないのではないか」という不信感があった。これがトランプ大統領を活気づけたばかりか、今でも民主党に暗い影を落としている。

現在の民主党の筆頭候補はジョー・バイデン元副大統領だが、彼にも疑惑がある。前のウクライナ政権(現ゼレンスキー政権から見ると敵に当たる)と組んでいたのではないかという話である。BBCはやや否定的に伝えているが、こういう話を持ち出すだけで人々は勝手に語りだす。つまりこの話はバイデン候補にとっても不利に働く可能性がある。今もそうなのだが、彼が最終的に民主党候補になればロシア対ウクライナという泥沼の選挙戦になるだろう。

もともとは共和党は金持ち・大企業優遇の政権という批判があった。だが「親しみやすく」「政治とは無縁の」トランプ大統領が出てきたことでその疑問は払拭されてしまった。面白いことに支持者たちはトランプ大統領も金持ちの実業家だという事実には目をつぶっている。人はみたいものしかみないのだ。

民主党にも金持ちのための政権になってしまったのではないかという疑惑があるのだが、共和党ほどめちゃくちゃにはなれない。だから民主党には支持が集まらない。だから、バイデン候補にこうした疑惑があると騒ぎ立てるだけで民主党支持者を動揺させることができるのだ。

ペロシ下院議長が始めたこの戦争をもちろんトランプ大統領の人格否定につなげることはできるのだが、同時にバイデン候補を傷つけかねない。つまり、泥沼の中傷合戦になる可能性が高いのである。背景にあるのは職業政治家への根強い不信感とポピュリズムだ。

面白いことにアメリカのポピュリズムは中南米のポピュリズムとは違っている。中南米では「みんな平等に分かちあおう」というのがポピュリズムの源泉になっているのだが、アメリカは個人競争社会なので「あなたが個人として勝てるために公平な競争環境を作ってあげよう」というのがポピュリズムの源泉になっている。ポピュリズムとは社会にある道徳を基に有権者の支持を得ようという行動だ。

いずれにせよ、このクリントンメール問題そのものは忘れ去られており、今の焦点はトランプ大統領の新しい弾劾調査を始めるべきなのかという点に移っている。CBSが調査したところ55%/45%という僅差の結果になったようだがCNNは多数のアメリカ人が調査を進めるべきだと言っているいう伝え方をしている。

アメリカが大きく分断されているのがわかるのだが、そのきっかけになったのは、職業政治家への不信感に根ざしたクリントン元国務長官のプライベートメール問題だったのである。