中国は日本には攻めてこないのだが……

どういうわけか「中国はなぜ日本に攻めてこないのか」というエントリーが人気である。改憲派の人たちが日本再軍備の理由付けに使われるので逆にこれを否定したい人も多いのだろう。ちなみにエントリーの筋は「自由貿易時代では大きな戦争をおこすのは合理的ではない」という極めて当たり前のことが書かれている。




中国が日本に攻めてくることはないだろうが、覇権化を進めているのもまた確かなことである。特に沖縄にある米軍基地は目障りだろうなあと思う。これは現象だけを見ると否定のしようがない。だがよく考えてみると「覇権化してどうしたいのだろう」という疑問も湧いてくる。

覇権化というのはかつて西洋が目指した支配の方法なのだが、やがては覇権の維持にお金がかかるので持て余して撤退してゆく運命にある。現在はアメリカが撤退フェイズにある。そして撤退した後に生き残るのは国際協調の枠組みである。ということはここから連動した疑問が出てくる。日本はこの中国の「覇権化」の動きにお付き合いすべきかという問題で、その答えはおそらく「否」である。日本は現在の体制を守るために注力したほうが合理的である。それが何であれ日本はその体制を主導する側の国だからだ。そしてその資格を手に入れるためにかなりの犠牲を支払っている。

世界にはすでに覇権国となったアメリカ・自分たちの枠組みを世界に輸出したヨーロッパ・それを受け入れた日本という先行国と、その枠組みに挑戦する中国・ロシアという後行国がある。アメリカが撤退傾向にあるのでその権益を奪いたいというのが後行国の望みである。

最近では銅資源を持つブーゲンビルの独立運動に中国が介入しているのではないかというニュースがあった。さらに見て行くと、ソロモン諸島も最近中華民国(台湾)と断交したことがわかる。ソロモン諸島とブーゲンビルは地理的には一体なのでこの辺りに中国が野望を持っていることがわかる。ソロモン諸島の島を丸ごと租借しようとして騒ぎになっているというニュースも見つかった。地方政府が勝手に了承してしまい、中央政府が慌てて否定したという話だ。

地理的なことがわかると面白くニュースが読める。実はバヌアツにも中国が軍事拠点を作ろうとしている噂がある。ソロモン諸島・バヌアツと結ぶと、その先にはニュージーランドがある。つまり、ニュージーランドから見るとあの辺りはアジアに至る補給路になっているのである。ソロモン諸島から西側に入るとオーストラリアに至る。オーストラリアとニュージーランドが中国の動きにことさら神経質になるのは中国が自らの「補給路」に並々ならぬ関心を持っていることがよくわかっているからであろう。かつて世界貿易のために西欧諸国が拠点づくりを競ったのによく似ている。

じゃあ、他の航路にもそういう国があるんじゃないか?と思って調べてみると、モルジブの事例が出てきた。モルジブは中国と中東を結ぶ通路にある国だ。中国に一体いくら借りたのかわからないそうである。

中国のやり方はあまりにも直裁的でちょっとゾッとする。アメリカのように民主主義を操作しようというようなまどろっこしいことはせずお金で買おうとするのである。

「あれはまさに請求書だった。32億ドルという金額だけが記載されていた。衝撃的だった」とナシード氏。「単なる会話ではなく、文書を突きつけられた。はっきりと、あなた方はわれわれにこれだけ借金があると告げていた」

焦点:中国に一体いくら借りた、小国モルディブの困惑と警戒

モルジブの国民は中国を警戒しはじめており親中派の大統領が2018年に負けたそうだ。逆にスリランカでは親中派の大統領が勝っているという。

この話は中国を核にして書いているので日本人の頭の中には自動的に文脈ができてしまう。保守と呼ばれる権威主義の人たちは現体制=アメリカ友達=中国は敵という図式で見るだろうから、日本は軍事力を強化して中国を制裁すべきだという意見になる。逆に反政権=反軍備の人たちは「これを利用して再軍備を許してはならない」と息巻くので、中国の野心をほのめかしただけで「お前は改憲派だろう!」と攻撃の対象にすることだろう。

中国の野心が何をきっかけに生まれたものかはわからない。アヘン戦争で領土をもぎ取られた経験のある中国はもともと西洋中心の秩序に懐疑的だっただろう。中国人は「それでも商売のためには一旦この秩序を受け入れるしかない」と思っていた可能性が高い。まずは彼らの懐に入って成功し、そこから見返してやろうと考えても不思議ではない。発展途上国が債権国になってゆく過程で通る道と考えても良いかもしれない。

中華人民共和国は国内の市場化に成功したわけだから、次は彼らを支持する国を作って国際的な基盤を確かなものにしようと考えたのだろう。資源確保が楽になれば経済的な戦争に勝つことができる。伝統的には朝貢を受けていた国なので「経済的な見返りを与えて従わせる」というようなことをやりたいのだろうが、やはり劣化版コピーしか作れないようである。急進的な経済援助は軋轢も生み反中国暴動が起きている国もある。皮肉なことに旧列強が各地で経験した暴動をわざわざお金を出して買っているのだ。

この「資源・エネルギーをめぐる国家間競争」という見方はきわめて20世紀的な考え方だ。一国で覇権を取るよりも「一流主権国家」という名誉クラブに入ったほうが有利なはずなのだ。しかし中国はここには入れない。一流クラブの一員になるためには民主主義というバッジを手に入れなければならない。これは、ウィグル人を「同化しよう」とする中華人民共和国には絶対に得られないバッジである。かねがね噂レベルでは広がっていたが、ついにBBCなどがこの件を伝え始めた。これも皮肉なことだが日本が周縁地域を扱いかねて最終的に世界秩序とぶつかったのに似ている。ヨーロッパにイスラム移民が入り込んでいるのをみて共産党上層部が脅威を抱く気持ちはわかる。だが、やり方としてこれが受け入れられることはないだろう。

日本人は物事を分析的に捉えない上に「いいとこ取り」をしようとする傾向がある。そこで「自由貿易的世界」を志向しながら、覇権国家として中国と張り合おうとしており、アメリカを引きとめようとしてアメリカの二国間ディールにはまるというまさに悪循環に陥っている。

憲法第9条の問題も根底にアメリカ依存と中国への対抗心という感情論があるのだが、これは国民をどこにも連れて行かないだろう。国際貢献のために軍事力を整理する必要があるという議論ならまだしも、中国に対抗して韓国の鼻を明かすために自衛隊を軍隊にしたいというのならそれはやめたほうがいい。

特に天賦人権を否定して民主主義を返上したいという人は「あのキラキラ光るバッジ」の意味を考え直したほうがいい。民主主義はたんなるバッジかもしれないのだが、お金では買うことができないバッジである。日本の場合は戦争に負けて手に入れたバッジでもある。

日本はそろそろこの問題を整理した上でしっかりとしたビジョンを提示できるリーダーを新しく決めたほうがいいと思う。ただQuoraでの議論を見ていると国民レベルで整理が進むことはおそらくないだろうと思う。いずれにせよ、お花見の名簿も管理できないのに時代錯誤の憲法改正を熱望する安倍政権の役割はもう終わったと思う。