山本五十六殺害以来の行動と評論されたトランプ大統領

アメリカがイラクでイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した。ソレイマニ司令官はアメリカによれば「テロ活動」の首謀者である。ところがテロ集団とソレイマニ司令官には大きな違いがある。イランはテロ集団ではなく主権国家なのだ。ただ、調べてみるとアメリカ人の感覚は日本人のそれとはちょっと違っているようである。

第一に革命防衛隊は国軍とは別の組織だそうだ。国軍がイラン帝国から存在する組織であるのに比べて、革命防衛隊は宗教指導者の指示を受けて動くという違いがある。このようにイランは国と宗教が二重構造になっていて、宗教が国を指導するという体制になっている。その二重構造が軍事組織にも反映されているのである。中南米のように軍隊がクーデターを起こして革命勢力を鎮圧するということもあり得るので、宗教側もこういう軍事組織を持っているのだろうという点は理解できる。コスタリカのように軍隊が廃止され政府が強大な警察力を持っているという国もある。




第二にイランは主権国家である。アメリカはイランに利権を持っていたのだが革命によってその利権を失った。その後大使館の占拠事件などがあり、イランは常に「悪の枢軸」として扱われている。比喩としてテロ集団のような印象になっていて「何をしてもいいのだ」という感じになっている。だが国際的にはイランは主権国家である。主権国家は特別な権利を認められた名誉クラブの一員であり、その権利はかなり高度に保障されているはずである。

例えばイスラム国はどんなに頑張っても主権国家格は与えられないのだが、イランにはその必要がない。すでに主権国家だからである。その国家の司令官を他国領土(形式的には独立している)で殺害してしまったのだから、これは宣戦布告なき戦争の開始であると言っても良い。

ところがこの後の感覚が日本人とアメリカ人では違うようだ。「山本五十六殺害以来の行動」であるというコメントを読んだ。ワシントンポストのコラムである。山本五十六以来と書いてあったので、最初は「パールハーバー以来の暴挙という意味なんだろうな」と思った。つまりトランプ大統領が戦前の日本と重ねられていると理解したのだ。だがそうではなさそうだ。

山本五十六が乗った飛行機はアメリカ軍に追撃されている。海軍甲事件というそうだ。これは真珠湾攻撃への報復という意味合いがあるのだろう。つまり、この例えで言うとイランがかつての日本のような扱いを受けていることになる。トランプ大統領はアメリカへの攻撃への報復として相手国のリーダー(国家でありテロリスト)を殺したと理解しなければならないことになる。

Soleimani was not the leader of a stateless terrorist organization. He was one of the most powerful figures in the Iranian government.

His death makes him the highest-ranking foreign military commander assassinated by the United States since the shoot-down in 1943 of an airplane carrying Adm. Isoroku Yamamoto, the architect of the Pearl Harbor attack.

https://www.washingtonpost.com/opinions/2020/01/03/trump-just-upped-ante-middle-east-is-he-ready-what-comes-next/

このワシントンポストのコラムは主権国家とstateless terrorist organizationを分けている。まあ、当たり前といえば当たり前であるが、その前提を置いた上で「山本五十六とソレイマニ司令官」を重ねているのである。

おそらくワシントンポストはアメリカが負けるとは思っていないだろうが、コラムに「やってやった」という高揚感はない。

コラムは冷静に続いている。上院でトランプ大統領の弾劾裁判が始まるのだが、そこから目をそらす効果があるだろうといっている。実際にFox Newsは「アメリカの敵をトランプ大統領がやっつけた」という筋でこの話を伝えている。この熱狂はトランプ大統領への疑いを「アメリカへの攻撃」という極めて単純な方向に向かわせる可能性が高い。国中を巻き込む必要はない。トランプ支持層に「夢を与えられれば」それでいいのだ。トランプ大統領の経済対策には実効性がなく足元では離反も始まっている。福音派やラストベルトの労働組合などが離反している。大統領には起死回生の策が必要だったが、これはおそらく無謀で不必要なギャンブルだろう。

おそらく国内情勢で説明するのが一番簡単なのだろうが、アメリカは国際常識を無視したうえにアラブ世界に強烈なリアクションを引き起こすだろう。すでに反トランプ系のCNNなどのメディアは「アメリカ人が中東で危険にさらされる」と言っている。

日本の対応だが二つ気になることがある。イランと北朝鮮だ。日本はイランの大統領にきてもらい「説明」をしている。また、その後トランプ大統領と電話して「説明」をしたようだ。日本のマスコミは主に北朝鮮のことを話したなどと言っているのだが、実際にトランプ大統領の関心はイランだったはずだ。この時にはすでに今回の攻撃のことを考えていた可能性もある。

日本の海軍力は限られているという。そもそも自衛隊の派遣は調査目的であり、本国に了承を取らないと防衛措置は取れない。それでも派遣を決めたのは「アメリカが対応をここまでエスカレートさせる」などということは考えていなかったからだろう。安倍首相はトランプ大統領と話をしながら「緊迫した空気」を全く読めなかったのだ。

また、海上自衛隊が保有する護衛艦のうち、遠洋航海に適した艦艇は30隻にも満たないとされる。海自は近年、北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応や尖閣諸島の領有権問題、中国軍の南シナ海での活動対処などで、猛烈に忙しい状態が続いている。

米国とイランから「余計なお世話」と言われた日本

トランプ大統領は選挙で使える材料をふらふらと探している状態だ。北朝鮮に手をつけたものの成果がないので関心を失ってしまっている。日本はアメリカも怒らせないように、かといってイランも刺激しないように、国内世論と憲法にも抵触しないようにと「調整」を続けた結果として危険な状況に突入し、なおかつ北朝鮮対策も手薄になるという状態になっている。

よく安倍外交は「思いつき外交」と言われる。次第に状況だけがエスカレートし「誰も怒らせない」つもりが「誰も満足させない」状態になってしまった。日本はとても危険な場所に危険な状態で自衛隊を向かわせることになる。