おそらく日本で医療崩壊より先にくるもの

TBSテレビで新型コロナウイルスに感染した人の話をやっていた。検査で陽性がわかると保健所が完全防備で迎えに来て、専用の病棟に入れられて、食事なども使い捨ての容器になるそうである。一ヶ月以上拘束されたそうだ。「感染者が気の毒だなあ」とも思ったのだが、これを見て国が検査をしたがらない理由がわかったような気がした。対策が念入りなぶんだけ保健所に過度の負担がかかるのだ。対策を念入りにしたのは厚生労働省が国会で突かれるのを恐れているからだろう。




当初、「オリンピックをやりたいから国が検査数を抑えているのではないか」などという疑惑があった。今でもTwitterではそのような話がくすぶっている。実際には厚生労働省が「必要な人は検査を受けさせるように」という通達を出しても、田村元厚生労働大臣が「一川(ひとかわ)越えた」と表現される保健所側で検査をしないところもあるという話でていた。ところが陰謀論に夢中な人たちは「国が隠しているからだ」というストーリーに貼り付けられその背景にある理由を考えて来なかった。

保健所というのは国の組織ではない。Wikipediaは「保健所(ほけんしょ、ほけんじょとも言う)とは地域住民の健康衛生を支える公的機関の一つであり、地域保健法に基づき都道府県政令指定都市中核市施行時特例市、その他指定された市(保健所設置市)、特別区が設置する。」と定義している。

「保健所の予算不足」で検索したところ大牟田市の事情が出てきた。大牟田市では予算が足りなくなり「もう保健所を維持できない」という理由で県に業務を返上してしまったそうだ。記事は「来年4月」しているので2020年の4月(つまり来月)から返上するのだろう。大牟田市のようなところはそれほど出ていないようだが逆に言えば「ギリギリでやっている」ところも多いのかもしれない。

国が保健所に厳しいルールを課しているのはおそらく「防衛線が突破されて」大変なことになるのを恐れているからだろう。厚生労働省は自分たちが処理をするわけではないので厳しめの対応を依頼する。ギリギリでやっている保健所は真面目にやっていては回らなくなってしまう。かといってルールは破れない。だから「検査が増えて陽性者が出たら大変だ」という気持ちになって検査を抑えてしまっていたのかもしれない。

このブログでは概念論として「検査をやるやらない」というのが神学論争になり人々は元々の動機を忘れてしまうというようなことを書いた。検査はイノベーションが起きているのだから広く検査することができるようになるだろうという予測を立てた。

ところが今回のこの話は少し厄介そうである。予算不足の問題だけでなく「これまで予算を抑えて省みてこなかった」という経緯があるからである。我々は国政の話には一生懸命になるのだが、地方行政に関してはそれほど関心を持たない。孤立無援だと感じている地方の保健行政が自己防衛に走ってもあまり責められない。

ポストセブンは別のことを書いている。厚生労働省が天下り先を優遇するために業務を独占しているというのである。しかし、これも「予算削減にさらされた感染研が自己防衛に走っている」と考えたほうがわかりやすい。結局はみな自己防衛なのである。自分たちの権益確保に頭がいっぱいになっている厚生労働省が地方に対して公平にやりなさいなどと言えるはずもない。

しかし、厚労省は民間のクリニックや検査機関を、事実上、締め出しました。感染研は感染症の拡大防止ではなく、感染症の調査や研究を行う組織です。彼らにとって、PCR検査で得られるデータは非常に重要で民間には渡したくないので、衛生研に一元的に検査を請け負わせる仕組みを構築しました。しかし衛生研主体で検査するには圧倒的に人数が足りず、検査できる件数に限りがありました」(全国紙社会部記者)

新型コロナ、ワクチン製造は厚労省天下り先 海外製は無視

この「独占」疑惑が語られるのはワクチンが利権になってしまうからである。

「日本にはワクチンを製造するための財団法人があり、そこに国が予算をつけます。その財団法人は厚労省の天下り先であり、ワクチン製造を独占的に引き受けています。

新型コロナ、ワクチン製造は厚労省天下り先 海外製は無視

実はこの利権争いは国際的にも問題になりそうだ。トランプ大統領がワクチン利権を買い占めようとしてドイツの反発を招いているという記事が出た。AFPが伝えている。

ドイツのバイオ技術企業が開発した新型コロナウイルスへの効果が期待できるワクチンをめぐり、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が独占権を購入したいと提案したとの報道を受け、ハイコ・マース(Heiko Maas)独外相は16日、ワクチン研究に関する利権は非売品だと述べた。

独企業の新型ワクチン、トランプ氏が独占権購入もくろむ? ドイツ政界に怒り

こうした国際的な利権争いに巻き込まれる恐れが強い感染研に新型インフル対策を任せるのは危険である。だが厚生労働省はおそらく自分たちの植民地を手放したくないのだろう。実に危険なことが起きている。

よく「日本には強力なリーダーシップはない」というようなことを書く。日本は実質的には小さなコミュニティの塊である。これをよく「ムラ」と表現する。今回は、感染研究村、厚生労働村、各地方の保健衛生村という集団があって、それぞれ公的な利益ではなく「村の利益」を優先する。つまり、日本には「公」というものはなく実質的に江戸時代のような藩の単位で考えてしまうのである。

日照りが続くと各村は水門を閉じてしまう。すると渇水が起こり人々の気持ちはバラバラになる。だが一揆を起こすところまではいかない。疫病というのはそういう隠れた敵意をむき出しにしてしまうのである。

こんな中で総理大臣に大きな権限をもたせても(あるいは持たせなくても)それほど大きな違いはない。そもそも総理大臣という役職をリーダーとしていただいている人など誰もいないからだ。さらに国会が承認しようが報告だろうがこれも実はあまり関係がない。実際には「村の保証」がないと国会も官邸も動けない。

だが、状況がここまでエスカレートすると、この辺りの概念的な話はもはやあまり重要ではないのだろう。

現在、新型コロナウイルスの封じ込めにはある程度成功している。検査数の母数はよくわからないものの、全体として死者数は増えていない。だが、このラインが突破されてしまえばおそらく医療崩壊が起こる前に「厳しめの基準について行けない地域の保健所」から地域ごとで保健所の崩壊が起こるはずだ。

おそらく崩壊した保健所は上に報告もあげず「なすすべもなく状況を見守る」ことになるだろう。そして厚生労働省は報告が上がってくるまで見て見ぬ振りをするだろうし、気がついて慌てた国会議員が厚生労働省を追求すれば今まで通りの隠蔽に走るはずだ。怒った国会は安倍首相を責め立てるのだが、おそらく首相は情報を持っていない。

つまり、日本も風向き次第でイタリアやスペインのような医療崩壊が起こり得るのである。

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