西浦発言「クーデター」発言の本当の危険性と大本営発表のメカニズム

厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授がメディアへの露出を増やしている。危険だなあと思った。それについてQuoraで質問をしてみようと思ったのだが、危険性の認識につながる議論はリードできないだろうなと考えた。おそらくこのクーデター発言が危険だと考える人はそれほど多くないだろう。「政府や専門家は絶対」という権威主義的な正常性バイアスが強く働いているからである。




西浦博教授には成功体験がある。自身の提言が北海道の感染拡大危機を防いだのである。西浦さんは統計から「どれくらいの感染者がいるか」を予想した。日本は今でも政策的にPCR検査を絞っているので統計による推定は有効な手法である。この提言から鈴木直道知事は独自に緊急事態宣言を出し第一波拡大を防ぐことができた。この独自の緊急事態宣言はその後の国のモデルになった。というより、鈴木知事の英断を成功体験だと考えた国民が安倍総理にプレッシャーをかけはじめたのであった。

のちに西浦教授はこれが「唯一の正解事例だ」と自己評価している。このやり方が上手く行ったのは北海道がマネージメント可能な単位だったからだろう。

現在西浦さんは厚生労働省クラスター対策班の一員である。このクラスター対策班は2月25日に作られた。第一に国は未だにクラスター封じ込めという対策を諦めていない。次にこれは政府の意思決定のために設置した感染症対策専門家会議とは別の組織である。実際は市中感染が始まっておりクラスター対策の優先順位は下がっている。つまり西浦さんはどんどん自分の範疇でない役割を荷い始めている。

感染症対策専門家会議が何をしているのかはよくわからない。脇田会長は感染症研究所よりの発言しかしないようだ。尾身副座長は独自にNOTEを立ち上げて情報発信をはじめてしまった。おそらく政府の発信に疑問を持っているのではないかと思える。西浦教授は専門会員ではないのだが有志の会には加わっている。厚生労働省の無策の裏側で非公式な会議が公的な役割を荷い始めている。

背景には政権側の無関心と空白があるのは間違いがない。政治家はイニシアチブをとって対策を取ろうという気持ちにならなかったようだ。経済に打撃があることがわかっているので、麻生財務大臣や菅官房長官は緊急事態宣言には後ろ向きであったと言われているそうである。麻生財務大臣の態度を見ていると新型コロナは他人事だ。あれが政権の本音の部分を顕著に表している。そして安倍総理大臣は自宅で犬とくつろぎ自分のイメージを守ることにしか興味がないということを全国民に宣伝してしまった。

日本の新型コロナ対策は中心核を失ったまま非公式の組織が勝手に情報発信を始めてしまったことになる。

こうした環境の中、西浦教授は北海道と同じ手に出た。理論的な死傷者数を打ち出して「政治の背中を押そうとした」のである。それを「クーデター」といったそうである。厚生労働省や官邸に抵抗勢力がいたことをうかがわせる。

そしてこの「クーデター」は結果的に政府の政策判断に影響を与えてしまった。

普段冷静な人は「説明責任が大切だ」などという。だが、日本人は空気によって流されるのは日本人の宿痾と言って良い。有事になるとその場の雰囲気で作られた方向に一斉に走り出してしまうのである。鴨の群れが驚いて一斉に同じ方向に逃げるのと同じことである。

もともと研究者だった人がいきなり脚光を浴びてマスコミに登場するのだから、その人は自分の立場の正当化を図るようになる。これが集団でしか動かない日本人の対極にある危険性である。つまり、西浦発言から見えるのは「たまたま鴨の群れの先端になってしまった人」がどうなるのかということである。自己正当化が始まってしまうのである。

日経新聞のこの記事は西浦教授の評価から始まる。

新型コロナウイルスの感染者数について、政府の専門家会議に試算を提示している北海道大学の西浦博教授(理論疫学)は25日までに、「現在確認されている感染者数は氷山の一角。実際は10倍以上かもしれない」との見解を示した。東京都については「10日ごろから増加が鈍化し、外出自粛要請の効果とみられる」としている。

実際の感染者数は「現在の10倍以上」 北大教授見解

北海道について高い評価をしたのと同じように、対策に影響を与える発言した人がその対策について評価する状態になっている。自分の提案に問題があったとしても言いにくいだろう。

しかし、東京都は検査数を絞っている。本当に感染者数は減っているのだろうか。

非当事者である山中伸弥教授はこう言っているとされている。

「検査件数を見ると愕然とします。検査件数も同じように減っているのです。つまり感染者数が横ばいや減少しているように見えるのは、単に検査をしていないからだけなのです」

東京都内の「PCR検査数」減少が話題に 潜在的な感染者は増えているのか

こうしたニュースを評価するにあたって一次資料を当たるのは大切なことである。このニュースは実は引用元では訂正されている。

しかし、図2の検査件数を見ると4月に入って伸び悩んでいます。16日以降のデータには未確定ですが、検査数が増えないと、感染者の増加を見逃す可能性があります。愕然とします。検査件数も同じように減っているのです。つまり感染者数が横ばいや減少しているように見えるのは、単に検査をしていないからだけなのです。

東京の感染者数は減少しているのか?

つまり、まだわからないと言っている。この訂正発言からわかるのは山中さんが一定の攻撃を受けたということだ。つまり、一旦逃げ出した鴨の群れは「この方向ではないのではないか」と異議申し立てをした人を攻撃するのである。非当事者でもそうなるのだから群れの先頭は「間違いました」とは言えない。

おそらく公平でニュートラルな意見では「まだよくわからない」のだろう。だがこれを検証しようと言い出す人はいない。よく大本営発表というが実は背景にそれを支える構造があることがわかる。

  1. 意思決定すべきリーダーシップの欠如
  2. 実質的な意思決定者の自己正当化
  3. 正常化欲求を持ったフォロワーの攻撃

1については語られることが多いが、実は2と3については意外と見落とされてしまうことが多いのではないかと思った。意思決定しないはずの日本人が一斉に大胆な意思決定に追い込まれる瞬間を我々は見ている

お西浦教授のクーデター発言は「検証者がいない」という意味で危険である。大手のマスコミも専門会員や有志の提言を無批判で垂れ流し続けていて危険である。日本人は集団でなんとなく判断する裏側で、個人の意見を正しく保護しそれをチェックしあうという習慣がない。そして見事な組織力で一定の方向に暴走してしまうのである。

日本人は緊急事態宣言という方向に走り出してしまった。おそらく科学的な根拠でこれを解除するのは不可能だろう。完全に安心安全になるまで学校は再開できないだろうが、おそらくワクチンなどができて安心安全が確保されるまで1年以上はかかるはずである。日本は気がつかないままで長い夏休みに入ってしまったのである。

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