マスクはなぜ値崩れを起こしたのか

本日はマスクはなぜ値崩れを起こしたのかということを考える。これが重要だと思うのは日本ではなぜハイパーインフレが起きないのかということを考えるきっかけになると思うからである。背景には二つの事情がある。裁定取引だけを狙う中間業社と消費者の防衛意識だ。おそらく二つがあってはじめてこの現象が起こるのだろう。

まずインフレが起こる理由を考える。ものの供給量が少なくなると価格が上がるという定説がある。価格均衡理論という。




図を作ってから思ったのだが、経済学の教科書と縦軸・横軸が逆になっている。ということでこの図をコピペして使うと常識がない人扱いされると思うのでやめたほうがいいと思う。

この図が言っていることは極めて単純だ。供給量が少なくなると価格均衡点がAからBに変化する。だから価格が上がる。ちなみに価格が均衡するまでには「一定の時間がかかるもの」とされている。

ところがマスクの値段は上がらなかった。そればかりか数ヶ月経ってみると値崩れを起こしているという。日本は価格均衡理論が成り立たない国なのか……ということになる。

朝日新聞の記事にはマスクを扱っていたのはなんでも流行り物を扱う業者であると書かれている。流行り物とは例えばタピオカである。つまりイノベーションや企業努力を起こさないか起こしたくても起こせない人たちが担い手になっていることがわかる。終身雇用が崩れ日本の産業構造が砂漠化しているのだろう。砂漠に生物が育たないのと同じように産業の森が崩れているのだ。これが一方の極である。

実際に観察してみると面白いことが起きている。おそらく中国との貿易が途絶したことで日本にマスクの供給が滞った。テレビも医療用のマスクが足りないと騒ぎ始めた。そのことで店頭からマスクが消えた。マスクがないと騒ぐお客も多かった。では残りのマスクが高値で売れたかというとそうではなかった。人々はいつもの値段でマスクが買えないことに不満を述べただけだったのである。

  • 第一にマスクがない。ないのだから価格が上がらなかった。
  • 次に通常の販売ルートではマスクの価格は一定に抑えられており少量のマスクを高値で売るという行動も起こらなかった。もしそんなことをすればおそらく店頭でクレームを入れられネットでも叩かれていただろう。店もマスクを「お一人さま1パックまで」などと制限した。自主的防衛網が「お店が勝つ」ことを許さなかった。
  • どうやら「マスクを買い占めている」とされた高齢者はもともとマスクを溜め込んでいた。高齢者はなんでも溜めこむ習性がある。だから、マスクがないことに焦った人がいても店にマスクがないからといって買い占める人はそれほど多くなかった。
  • 次第に高値のマスクが通常とは違うルートで流れ始めた。だが高すぎるので誰も手を出さなかった。
  • マスクが足りない状態が続いたのは確かだが、そのうち布製のマスクの作り方が出回り始めた。今では3Dマスクとか立体マスクという名前でもっと「格好のいいもの」が売られている。SNSと口コミが裁定取引で「不当な儲け」を許さなかったのである。
通常のルートからはマスクが消えた。
この状態は今でも続いている。

第一に言えることは店側も客側も「マスクといえば大体これくらいの価格であろう」という一般常識ができているという点である。それ以上の値段で取引が成立しないどころか「不当な儲け」として糾弾される可能性すらある。

さらにマスクが通常と違うルートで高値で売られていることはわかっているので実は「品薄でない」ということを多くの人が知っている。つまり、ある程度の時間が経てばマスクが戻ってくることは誰の目にも明らかなのである。

さらにある程度価格が上昇すると代替の商品が提案されてマスクの需要が消失する。つまり冒頭のグラフはそもそも途中で途切れてしまっている。価格が上に伸びにくい「弾力性が小さい」状態になっているといえるだろう。

一方、普段はマスクを置かないところにもマスクが並んだ。

例えば米などの生活必需人は価格弾力性が大きいことになっている。ところが最近では米がなければ小麦を食べればいいということになってしまう。おそらく生活防衛意識もあり「ある程度まで下がるまで我慢しよう」という人も多いのだろう。そもそも「高い価格=不当な儲け」だという認識もある。

大正時代の米騒動では暴動が起きた。この時は米の価格は一部の米問屋に支配されていた。だが、現代ではそんなことはできない。

代替品がないとなると社会規範まで変えてフェイスシールドというものが作られた。暑苦しい上に異様な光景だが「これが新しい社会常識だ」と言わんばかりの勢いで広がっている。3Dマスクだけでなくフェイスシールドができたことでいよいよマスクの需要は少なくなった。

もともと「マスクがないと予防意識の低い人だと見られたり店に入れてもらえない」という社会規範的な意味合いが強かった。需要が社会的に作られているのだから社会規範を変えてしまえばいいわけである。「フェイスシールドがなぜ効果的か」という議論はなかった。とりあえずみんながやっているのだからそれをするのが当たり前だということなっている。おそらくフェイスシールドは医療従事者用に100円均一の素材で作れますよというところから始まったのだろう。

よくデフレの克服などというのだが、現在の日本人は「自分が許容できる以上に価格が上がる」ことを絶対に許さない。ありとあらゆる手段を使って価格の引き上げを阻止しようとするのである。高いマスクを買うことは安いマスクを買った人に負けたことになる。それは絶対に許せないのだろう。現在社会で物価を上げるのはそれほどまでに難しいことなのだ。

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