中国が尊敬されない理由

香港の国家安全法が全人代で決められた。香港市民の頭越しだったそうだ。香港市民はこれに反発しアングロサクソンの国を中心に抗議声明も出された。これに対して中国人からは「香港には中国支配を歓迎する人もいる」と反発する声も上がる。確かにそうかもしれない。であればなぜ香港の問題はこれほど世界から反発されるのか。それは中国人が持っている民主主義観によるものだろう。ではそれはどんな特徴を持っていて日本人はそこから何を学べるのだろうか。




おそらく香港市民が反発しているのは中国の一党独裁ではないだろう。香港では低成長が続いており最近ついにマイナス成長(-1.3%)に落ち込んだ。デモで観光客が落ち込み米中で貿易摩擦が起きているという理由もあるだろうが、中国が外からの援助を必要としなくなるにつれて香港の国際的地位は低下している。もともと香港は英米法で会社が起こせるという中華圏では例外的な地域だった。中国が外資を必要としなくなってしまうと香港の優位性は失われてしまうのである。民主主義国の台湾と合わせて「西側への通路」を持っていたことがおそらく中国がインドよりも先に発展できた要因だろう。中国が「大国化」するにつれて西洋に学んで追いつこうという気概は失われている。

アメリカは香港の特権的地位を見直すと表明しておりさらなる落ち込みが予想される。将来不安が政情不安定につながり、それがデモをうみ、さらに貧しくなるという悪循環である。

中国は資本主義社会への窓を開けたがその窓から民主主義という害悪が入ってきては困る。中国は二つの異文化の侵入を警戒している。それがウイグル(イスラム)と香港(資本主義)である。おそらく中国共産党は管理できない異質さが怖いのである。

ではなぜ中国は異質さが管理できないのかという問題が出てくる。

中国は足元では「成長する中国」を押し出して国民の信任を得ようとしている。ヨーロッパに対しては寛容に医療支援をする大国というイメージを押し出して尊敬を得ようとする。またアフリカには「開発援助に熱心な国」というイメージを売り込もうとする。どれも「お金で尊敬を買おうとしている」のだ。中国が「民主的な国である」というイメージもそうした紳士政策の一環であると考えられる。だが、中国人はそうは考えない。おそらく先進国というのは彼らにとっては「体裁」であり「体面」なのだろう。中国人は権威主義的に民主主主義を捉える。権威主義社会では決して失敗は認められない。異質さは失敗を突きつけてくるが権威主義的な中国は決して失敗ができないのだ。

民主主義とは実は失敗の積み重ねである。

民主主義の先進国であるアメリカで最近黒人暴動が起きた。ミネアポリスで警官が黒人の首を折り殺してしまう。これがSNSで拡散され警察への抗議活動が一部暴徒化したのだ。CNNの生放送クルーが一時拘束された。黒人暴動鎮圧のために州兵が送られた。さらにこれに拍車をかけたのがトランプ大統領のTweetだ。トランプ大統領は「略奪が始まれば銃撃が始まる」とTweetした。Twitter社はこれを「暴力を助長するが公的な意味がある」として削除までは行わなかったが非表示処理にした。

トランプ大統領は最近Twitter社と対決し、中国へのあからさまな敵意を見せ、さらに公民権運動時の黒人抑圧を思わせる言葉で暴動を恫喝している。これは明らかに独裁者のやり方でありマスコミでは批判を受けている。しかし外国はこれを「独裁者である」と非難はしていない。

一夜明けて状況はさらにエスカレートしている。白人至上主義者が騒ぎに便乗しておりついにCNNまで襲撃されたようだ。アメリカは失敗したのである。

そもそもアメリカの民主主義は極めて荒っぽい。抗議活動は暴徒化し大統領も口汚ない言葉でそれを罵り暴力までほのめかすという具合だ。トランプ大統領が登場してからそれが表面化してはいるがアメリカに昔からある光景でもある。つまり、アメリカにもヨーロッパにも「民主主義が綺麗事である」という認識はない。その証拠にABCもCNNも淡々と現地の情報を流し続けている。

アメリカ人は暴動を隠蔽をすることもないし暴動と抗議活動(抗議活動は抗議活動で行われているのだ)はしっかりと分けて報道されている。抗議活動は続けられなければならないが暴徒は許されないという線が守られている。

そもそも民主主義というのはこんなものであり他国から褒められるようなものではない。扱いを一歩間違えると暴走しかねない危うさを持っているのである。しかし民主主義社会の住人はそれを十分知っていて自分の選択で行動をしようとする。アメリカはおそらく失敗した。だがその失敗もまたアメリカ人によって指摘され修正が試みられる。

中国が尊敬されないのは民主主義を立派なブランドもののスーツのようにしか思っていないからである。それをちょっとでも笑われると色をなして反論を加える。おそらく権威主義的な体制にいる中国人は決して民主主義を理解できないだろう。

ここまで書くとこの中国のメンタリティは実は日本人にも共有していることがわかる。特に安倍政権時代になってこの傾向が強くなった。安倍総理大臣はことあるごとに「西洋なみである」とか「世界に類を見ない」ということを気にする。日本は社会全体としては国際交流もあり「自己申告の世界一ほどみっともないことはない」ということを知っているのだが、国内事情しか知らない安倍政権の支持者にはそれがわからない。実は日本にもこうした権威主義的な民主主義像がある。

だから安倍政権は議事録を隠し統計をごまかそうとする。失敗すると笑われると勝手に信じ込んでいるのだ。だが、日本人には安倍政権がどれだけ偉いかということなど関係がない。問題があるなら単に修正してほしいと願うだけだ。多くの日本人は民主主義は問題解決の手段であると理解しているのだが、なぜか政権の中枢だけはそれがわからない。

アメリカは香港の特権的地位を奪うことを決めた。香港の国際的地位が低下していたこともありアメリカにはあまり影響はないかもしれない。おそらく英米法的な法律体系を好感していた英米企業の本社はシンガポールや東京に移ってゆくだろう。イギリスは香港の英国旅券保持者に市民権を与えることには慎重な姿勢のようだがこれも緊張関係が続けば見直されるに違いない。香港市民のうち西洋文化に適応できる人たちは海外に流出するだろう。こうして香港は急速に単なる中国の一地方港湾都市になりつつある。中国は一国一制度を維持できる。だが香港は維持できないだろう。

重要なのは中国が香港市民を「納得させること」ができていないという点である。これは香港だけでなく資本主義を知ってしまった全ての地域に言えることだ。つまりいったん甘い蜜を与えたが最後体制を維持するためにはそれを永遠に与え続けなければならない。資本主義には良い時期も悪い時期もあるわけでそんな状態は永遠には続かない。中長期的に見れば共産党政権というのは「繁栄か崩壊か」という極端な二者択一を迫られていると言える。

おそらくこの文章は巷に蔓延する中国崩壊論の一つとして捉えられてしまうのかもしれない。だが、おそらく日本人がここから学ぶことは多い。日本人は長らく民主主義を「他者に尊敬してもらえる立派なお洋服」だとみなしてきた。だが民主主義は課題解決の道具であって、決してそれ自体が目標にはならないのである。

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