小池百合子東京都知事と懇意の高島豊島区長が話をずらす

新型コロナウイルスがまた東京で広がりを見せている。「医療体制が逼迫していないから大丈夫だ」という声がある一方で市中感染が広がっているのではないかという意見もある。「国民が騒ぐまで政治は動いてくれないのではないか」という不安がある。中でも大きいのが選挙の存在だ。選挙を先延ばしした方が国民にはトクである。一方選挙が終わった東京都ではこれからいろいろな問題が解決しなくなるだろう。思えば築地の問題もそうだった。いろいろ派手なアイディアは出たが何が実現しただろうか。




東京都の医療体制は充実してきているので当初より多くの感染者に対処できるという声がある。また感染源の「夜の街」を封じ込めればいいのだという意識も見られる。東京都は新宿区と豊島区の区長を交え意見交換する予定にしているそうだ。ここが病原になっているのであればそれを封じ込めればいい。合理性はある。東京の対策と国の緊急事態宣言が奇妙にリンクしている。

一方、政治側には緊急事態宣言を出したくない事情がある。赤羽国土交通大臣は7月22日からのGoToキャンペーン開始を宣言した。

麻生財務大臣・副総理が公明党に対して「秋に選挙をやりたい」と打診したことも知られている。公明党は一応反発したようだが準備を始めたという報道も出ている。

野党がまとまっておらず「今なら勝てる」という勝算もあるのだろうし、災害対策には失点がつきものなので今のうちに選挙をやっておきたいという打算もあるだろう。

緊急事態宣言が出ればGoToキャンペーンができなくなる。当然選挙区からは補償の話しか出てこなくなるだろう。井戸知事がいうように(のちに撤回)そもそも東京が「諸悪の根源」なので永田町の先生たちが選挙区に帰ることもできない。おそらく選挙対策のためにも緊急事態宣言や移動自粛要請ができないのだ。

そんな中で東京都では別の怪しい動きが出ている。新宿区では独自に生活補償金を支払う対応を検討しているようだ。生活のために無理して働く人を減らそうという意図だそうだが、マスコミは「ネットで感染して10万円もらおうという人がいる」などとセンセーショナルに伝え始めた。

そんな中で不思議なニュースを耳にした。東京都豊島区が独自で補償制度を作るというのである。これ自体は新宿区と同じであって特に不思議はないように思える。だがこの区長さんがテレビに出ていて「あれ?」と思った。

同じ番組に前の日に出ていた新宿区長は批判もあるが生活補償金制度をやらせて欲しいというような説明をしていた。つまり自分に考えがありそれを伝えようとしているわけである。

だが豊島区長は「人当たりはいいが人の話を全く聞いていない」という感じである。「はいはい」と返事はいいのだが恵俊彰とのトークがどこか噛み合わない。どうも形ばかりの代理人(プロキシー)のようだ。パペット感を隠すつもりがないのである。

この人の経歴が面白い。もともと自民党の都議だったのだが無所属で1999年に豊島区長になった。一方、小池百合子東京都知事は郵政民営化の刺客として自ら立候補し2005年に東京10区を勝ち取る。豊島区はかつて全域が東京10区だったようだ。このため高野区長もマリオ姿で仲良く小池都知事とコスプレをしたりしているそうである。この二人は懇意なのだ。

23区の中には先進的な考えを持つ区長と古くからの区長がいる。このうち先進的な考えを持つ区長があるモデルを作ってしまいそれが広がると「大変なことになる」という危惧があるのではないかと思った。

ただし小池知事は先頭に立ってこの問題を解決することはないだろう。例によってフェイドアウトが始まっている。東京新聞の記事の中で小池都知事はこのように語っている。

都は週内に新型コロナ対応の新たな補正予算案を公表する方針。小池氏は「夜の街対策は喫緊の課題。豊島区を一つのモデルケースとし、他の自治体への補助制度を構築したい」と語り、効果などを見ながら他の市区町村にも対象を広げていく考えを示した。協力金の全額を都が支援する方向で具体的な金額を検討する。

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その背景事情には何があるのか。もちろん選挙が終わったからパフォーマンスは必要ないという事情はあるだろう。だがそれだけではない。日経新聞に次のような記事がある。

20年度だけでも新型コロナ対策に5度の補正予算を編成、総額1兆円以上を投じた。主な財源は大規模災害や景気悪化に備える財政調整基金だ。小池氏が知事に就任した16年度の基金残高は6274億円。法人税の伸びとともに2019年度に9345億円と過去最高額まで積み増したが、20年度の残高は807億円と、多くを使う見込み。この水準は青島幸男知事が都幹部職員を前に「財政危機」を宣言した1998年度に近い。

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おそらく選挙前に重点的に財政調整基金を使ってきたのだろう。メディアの露出も増え(逆に他の候補には注目が集まらなかった)たので選挙対策としては生き金だった。また都政にさほど関心のない有権者も「テレビに出ている人=好ましい人」とばかりに小池都知事を再選させてしまう。視聴者選挙民は最初のインプレッションで意見を決めてしまいそのあとでニュースを読むことはない。築地がそうだった。選挙のために騒ぎは利用されたが、そのあと市場会計や築地豊洲の問題を機にする人はいなくなった。新型コロナもそうしようとしているのだろう。

別の記事も見てみよう。日経新聞の記事はこんな書き出しになっている。

東京都の小池百合子知事は6日、再選後初の記者会見に臨み、新型コロナウイルス対策などの財源確保に向け「財政運営には色々なカードを持っている」と強調した。税収減が予想される中「削れるところは削っていく」と言及、事業見直しにも引き続き注力する。2期目は成長と健全な財政維持を両立させる難しいかじ取りが求められる。

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都知事は歯切れのいい発言で知られている。ただその裏にはたくさんの歯切れの悪いコメントがある。これもその一つだ。

高野区長はテレビのインタビューの中で適当な対応をしていたが「区の制度なのか都の制度なのか」と聞かれた時に言葉をずらしていた。印象としては凡庸な人なのだが1999年から区長をやっているわけで腹の中を見せない「プロのたぬき型政治家」なのだろう。また古臭い自民党政治と対決している闘士のように見える小池さんも実はこうした「プロの政治家」と協力している。

東京都が補償のスキームを都中心から区中心に置き換える本当の動機はわからないのだが、今後「補償が不十分である」という批判が殺到するのを見越しているのではないかと思った。ここで「実施するのは各区なんですよ」と説明すれば小池都知事は矢面に立たないですむ。あとは広告代理店と協力して作った見栄えのいいビデオのプロデューサとして振る舞えばいい。よく考えてみればいつものやり方なのだが意外とこのやり方がうまくいってしまう。

このように細かく観察してみると「政治家が自分たちのことを考えていろいろ発言を訂正し始めている」ことがわかる。それに連動して他の人の発言も変わる。そして彼らが考えていることは質疑を細かく聞いていると意外この変節がよくわかる。

ただ、有権者もこうしたやり方に慣れている。政治家の発言は選挙目当てだと知っていて「せいぜいそれを利用してやろう」と考えるのだ。

おそらく国政でも秋に選挙をやればそのあとの自民党は補償の話をしなくなるだろう。有権者としてはレームダックのままで選挙をずるずる先延ばしにした方がいろいろな妥協を引き出せて「トク」なのである。国内政治はまさにたぬきときつねの騙し合いのような様相を見せている。

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