穏やかな政治報道が求められているの……だが

最近、丁寧にに共同通信と時事通信の報道を読むことが増えた。通信社の報道がTwitter化しているからだ。どうもタイトルで煽ってクリック数を稼ごうという投稿が多いのだ。このことから逆に「穏やかな報道」が求められているのだなと思った。そうは思うのだがこれを実現するのがなかなか難しい。




最初にこれに気がついたのは、習近平国家主席の訪日阻止を自民党が決めたという報道だった。外交部会で異論が噴出して紛糾したというのである。これについて青山繁晴議員のブログを紹介した人がいる。二階派が勝手に言っているだけで「記者が問題を作り出そうとしている」という主張である。親中国の流れを阻止したい青山さんたちが言っているのだろうなあとは思ったのだがそれだけでは割り切れないものがあった。

新聞記者はニュースを伝えるだけで世論誘導を行うことはないはずだ。だが政治記者を志すような人はおそらく政治に興味があった人たちだろうから、中には取材先に取り込まれてしまう人もいるだろうし、逆に反政権的な意見形成をする人も出てくるだろうと思う。個人の考えを集団の考えの中に練りこんでしまう。つまり、現場の人はどうしても自分たちの正義感なりを文章中に滲ませようとするのである。

かつてはデスクがこれをフィルターする役割を果たしていた。できるだけ色がつかない情報を求めているはずだし反証も求めさせているはずだ。「判断するのはあくまでも受け手である国民」だという原則があるからだ。

ところが最近はキュレーターにお金を払ってトラフィック誘導するようなサービスもできている。新聞も通信社もクリック数を稼ぎ閲覧数を増やす必要に迫られているわけだ。

「ちょっと注意して読んだほうがいいかもな」と記事を読むようになったところこんな記事を見つけた。これはダメだなと思った。

中国政府が今月、日本政府に対して沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張し、周辺海域での日本漁船の操業は「領海侵入」だとして立ち入らせないよう外交ルートを通じて要求していたことが19日、分かった。沖縄県石垣市議会が議決した尖閣の住所地の字名を10月から変更する措置の中止を求めたことも判明。日本は即座に拒否した。日中外交筋が明らかにした。 中国が日本政府に同海域での漁船管理を要求するのは異例。尖閣に対する日本の実効支配を弱め、領有権主張を強める狙いがある。中国公船の周辺海域での活動も活発化しており、日本は現状変更を試みる動きと判断し、警戒している。

中国政府が「漁船侵入」阻止要求 尖閣巡り、地名変更中止も

日本は尖閣問題はないという立場なので外務省としては表立った反応は示さないのだろうというコメントや尖閣諸島問題には日中密約があるから表立って抗議できないのだなど様々な意見があった。だがそれにしても気になる書き方である。

実際に尖閣沖での漁は難しくなっているようだ。政府としては「ありもしない問題を作るな」という意思を鮮明にした方がいい。しかし、そういってしまえば「では具体的に尖閣沖の漁船をどう守るのだ」と記者から質問を受けるだろう。どういうわけか、政府は具体的な対策を答えられない。

実際に八重山諸島には中国公船が出入りしており漁が難しくなっている。八重山日報の2019年6月の記事が伝えている。玉城デニー知事は「問題が起こるから近づくな」と言っており現場の漁師が反発しているそうだ。おそらく日本政府も内心では「中国とは問題を起こしたくないなあ」と思っているのだろう。中国が反発すれば中国とビジネスをしたがっている支持者や二階幹事長を刺激しかねない。だがこれとは逆にアメリカの意向を受けて状況をエスカレートしたい人たちもいるだろう。状況がエスカレートすれば武器が買ってもらえる上に、選挙で後がないトランプ政権は反中国的な外国の政権が何か問題を起こしてくれることを期待している。

結局のところ具体的な政策を示したくないから「記事としてほのめかしている」のである。そして、おそらくこの記事を仕掛けた人と通信社の人はグルなんだろうなと思う。残念ながらこれは広報であって(あるいは誰か特定の人の広報かもしれないが)通信社の記事ではない。安倍政権が曖昧であればあるほどこういう記事が増えるのだ。

特に怖いのが「中国が日本政府に同海域での漁船管理を要求するのは異例。尖閣に対する日本の実効支配を弱め、領有権主張を強める狙いがある」と決めてかかっている点だ。通信社の意見なのかそれともこれを書かせている政府関係者の意見なのかがわからない。主語を気にして読むと時事も共同もまともに読めなくなる。

さらに畳み掛けるように「日本は現状変更を試みる動きと判断し、警戒している」と書いている。おそらく日本政府はなのだが安倍総理がそう考えているのか外務省か防衛省が警戒しているのかがわからない。さらにどれくらい緊急度が高いと考えているのかもわからないので具体的に何をすべきなのか(つまり今すぐ領土を保全するために自衛隊を派遣すべきなのか、それとも単に警戒するだけなのか)ということもわからない。

くわしく読むと何も書いていないのが日本の報道なのである。特に外交防衛問題はそれが顕著だ。

産経新聞でも同じような記事を見た。こちらは対ロシアである。

コロナ後に日露首脳会談を 首相、領土問題解決へ意欲」という記事なのだがタイトルだけ読むと首相がまだ諦めていないように読める。だが主語を追うと前のめりになっているのは鈴木宗男さんであって、総理大臣は「(元島民が)元気なうちに領土問題を解決して、平和条約締結に向けて全力を尽くしたい」と希望的観測を語っているだけである。つまりそうなるといいなあと言っているだけであって具体的に何かを検討しているわけではないのかもしれない。

少なくともこの記事だけを読むと総理大臣は現状認識すらできない相当おかしな人だが、あるいは「単に周りに流されていっているだけ」かもしれないのである。本当のところは誰にもわからないし誰も気にしない。Twitterでは「総理大臣は全く状況がわかっていない」と非難されていた。

よく、日本の報道の自由が失われているというようなことが問題になるが、実は取材が制限されているということはそれほど大きな問題ではないのではないかと思う。日本の報道は扇情的なタイトルと主体が曖昧な情報に溢れているのだが誰もそれを気にしないのだ。議論ができず相手の考えていることを確認しない。単にそれぞれがまとまりなく「自分の思い込みをいい合う」のが日本の政治報道の現在地なのである。

では「事実だけに特化した報道をすればいいのではないか?」と思う人もいるだろうが、問題はそれほど単純ではない。このブログですら時々煽るような書き方をしないとページビューが維持できない。人々はそれくらい煽り系の報道を求めているのだろうと思う。と同時にそうした報道が多すぎるせいで「どうやって報道を切り分けていいのかがわからない」という人も多いようだ。つまり、穏やかな報道はコマーシャル的には成り立たないがとても需要が高くなっているという現実もある。政治報道に対する需要はおそらく二極化している。

こうした報道リテラシーを保持できるのはおそらく公共によって支えられたNHKのようなところなのだろうが、NHKは政治の影響を強く受けるようになってしまった。

さらに現場の人はそれに反発しているようで、時々カウンター的な動きもある。このためそもそもNHKが全体として政府広報に徹しているのか、政府批判をしているのか、それとも距離をとって中立な報道をしているのかということがわからない。さらにNHKは他社メディアの批判のようなことはやらない。このためNHKで解説員になれなかった池上彰さんが一生懸命メディアリテラシ教育のようなことをやっていたが、これも局側の要求でなかなか難しいようだ。最近は「炎上した」という話も聞く。

政治報道を丹念に読むというコンテンツには需要があるがなかなか担い手が出てこれない。YouTubeにも扇情的な政治コンテンツがあるが中には政治経済についてお勉強しましょうというようなコンテンツも出始めている。おそらくは個人ブログかYouTubeのようなオウンドメディアでないと担えないというようなコンテンツになっているのである。

Google Recommendation Advertisement