アメリカの大統領選挙には誰でもエントリーできるらしい

Quoraで面白い回答を見つけた。アメリカの大統領選挙に関するものである。アメリカの大統領選挙予備選は公開されていて有資格者(アメリカ生まれのアメリカ市民)であれば誰でも参加できるというのである。公開で候補者を募る予備選に二つのコンテストがありそれを勝ち抜けば誰でも大統領候補として認められるという感じらしい。最後に両者が激突して最終勝者が決まる。日本人はこんなところまでは知らない。だから知らず知らずのうちに想像で埋めている部分が多いんだなと思った。




自民党には世襲政治家を中心とした「政治家」と呼ばれる人たちがいる。この政治が党員を集める。当然党員は政治家のポリシーに従うことになり最終的には世襲政治家が敷いた路線に従う。公明党や共産党のように最初から「教義」が決まった集団もあるが自民党の場合派閥の論理でなんとなく流れがきまる。我々はこれが政党だと思っていて、だから政党には興味を持たない。

だがアメリカの場合は誰でもコンテストに応募ができるそうだ。つまり全く共和党や民主党に参加したことがないような人でも支持さえ得られば共和党や民主党の総合政策に大きな影響を与えることができる。

コンテストは共和党と民主党が行なっており、各州ごとに予備選挙と党員集会という二種類から選択することができる。これ以外で出てもいいのだが独立系が大統領になった事例はないようだ。

ちなみに予備選挙といえども主催者は州なのだそうだ。誰でも予備選挙に参加できる州もあれば党員としての登録が必要なところもある。このため冒頭で引用した回答は主語が曖昧になっている。党の予備選挙だから党が主語になりそうなものだが、州に対して「自分は共和党の支持者ですよ」と登録しなければならない州があるということになる。一方で党員集会は党が主催する。

このやり方では有権者が大きな影響を与えることができる。例えば橋下徹がYouTubeで支持者を増やして自民党に乗り込み、自民党の首班候補者選挙に出馬するという例を考えて見る。橋下徹さんの主張は自民党の伝統的なものとは違っているはずだ。だが、たくさんの有権者を「外から連れて来れば」それを自民党の党是にできるのである。実質的な首相公選は日本でも可能なのである。自分も首相が選べるとなればおそらく自民党員の数は爆増するだろう。

ちなみにこの回答を書いた人はこの制度が「欠陥だ」と言っている。外から人がきて党を乗っ取ることができるからである。トランプ大統領もそうだし民主党の候補者になりかけたサンダースさんも伝統的な民主党支持者から見ると極めて異端の候補者だった。

確かに制度上の問題点は多い。共和党も民主党も党員の数を把握できないという欠点がある。自分で申告して投票用紙をもらわないと予備選の投票権がもらえない。また住民票制度もないようで、地方自治体に自分で登録する必要があるそうだ。名簿に載っていない時には投票を受け付けてあとで資格を審査するのだという。日本のように国が決めた住民登録制度がないことから起こる弊害である。ちなみに住民登録制度と有権者名簿は別のものだ。日本は常に選挙名簿が整理されているが韓国では適時編成するのだという。おそらく日本の制度は選挙管理上はかなりよくできている。

この投稿には「この制度は欠陥ではない」と指摘する人もいた。政党に対して市民が関与する余地が大きいからである。例えば自民党の政策が気に入らないと思えば、人を集めてきて党のあり方自体を変えてしまえばいい。

おそらくこれは利点にも欠点にもなり得るのだろう。例えば橋下徹のように発信力がある人には応援したい人がたくさんいるのだろう。こういう人を集めてきて自民党の支持者を増やすことができる。単に世襲だからといって自動的に押し上げてもらえる制度ではない。有権者に対するコミュニケーション能力が重要である。

近年の共和党と民主党の混乱をみていると必ずしも利点ばかりではないのだろうなと思える。民主党の「黒人」大統領オバマの出現に苛立ったマジョリティたちはオバマ攻撃に向けて入り混じった感情を持つようになる。ただそのままでは攻撃できないので表向きは「オバマはマイノリティ救済を訴えて我々の富を奪おうとしている」というような形で政治運動化した。しかし、すぐにオバマは攻撃できないので攻撃対象はまず党内のエスタブリッシュメントに向かう。まずは党内でプレゼンスを得なければならないからである。この一連の動きはティーパーティー運動として知られている。エスタブリッシュメントから見ると共和党は内部から破壊されかけた。

ここまでは日本の民主党が政権を取ったことで自民党が急進・反人権の党になった経緯に似ている。あれもサイレントマジョリティ「お前らに人権などあるから民主党のような生意気な政党が政権とった」という被害者意識はおそらく今でも残っているだろう。自民党とサイレントマジョリティたちはこれを「悪夢」と言っている。実際には国民に「俺たち」も「お前ら」もないので等しく政治的権利が低下してしまう。対決で頭に血が上った結果、理性が働かなくなっているのだろう。

ところがこの後の経緯は違っている。ティーパーティー運動はオバマが嫌いだという人たちのバラバラな反抗心にすぎなかった。これに形を与えたのがトランプ大統領だ。トランプ大統領はまず共和党のエスタブリッシュが我々を騙そうとしていると訴え、さらに陰謀論を織り交ぜつつ共和党を乗っ取った。つまり外から人が党内にあったルサンチマンを背景に政党を乗っ取ってしまったのである。

政党の支持者が先導して党の雰囲気を作っているわけではない。候補者と支持者が呼応することによって新しい運動が起きていると考えたほうがいい。コンサートには歌い手と観客が必要なのである。トランプ大統領は今や権力者だ。彼がこのルサンチマンを利用して大勝すればいよいよ大統領独裁ということになるのだろう。独裁まではいかないかもしれないのだが、おそらくSNSを背景としてアメリカの政治議論が元のような落ち着きを取り戻すことはないだろう。

日本の政党は閉鎖的な村落共同体の集まりなのでアメリカのようになることはなさそうだ。だから逆に日本ではアンダーコミットメントが問題になる。災害や有名芸能人の大麻騒ぎがあった影響で総裁選挙の扱いは小さくなってしまった。テレビ的には二番目以降の話題であって、それすらもネタ探しが大変という状態である。

両極端を比べているようで「どこか中間の程よい制度はないものか」と思えてしまうのだが、おそらく理想的な制度はなくその都度微調整が必要なのだろう。

Google Recommendation Advertisement