なぜモテない人はトランプ大統領支持なのか

ペンス副大統領とカマラ・ハリスカリフォルニア州選出上院議員の討論が終わった。カマラ・ハリスさんはカリフォルニア州検事総長として活躍していた前歴からペンス副大統領を追い詰めることが期待されていた。だが今回は安全運転につとめペンス副大統領ではなくカメラの向こうの支持者たちに訴えかけていた。これについてQuoraで感想を聞いたところ面白いコメントをもらった。カマラ・ハリスの笑い顔が我慢できないというのだ。ちいさく「あっ」と思った。




「あっ」と思った理由はこれが世間の風評と全く真逆だからだ。

BBCが「「副大統領、私が話しているんです」 繰り返される割り込み……ジェンダーが関係?」と書いているように、世間ではペンス副大統領の行為が叩かれている。女性たちが普段感じている「男の俺が仕切る」というわかりやすいマンスプレイニングの典型だとみなされているからである。マンスプレイとは男性の説明という意味で「女性を下に見て講釈を垂れる行為」を指している。

実はカマラ・ハリス上院議員はこの評価を引き出したかったのものと思われる。最後まで態度を決めかねている郊外に住んでいる女性に働きかけて選挙戦を有利に進めたかったからである。

まず、全体を見てゆこう。最後まで分からないとされていた大統領選挙だったがトランプ大統領側の選挙スタッフたちが新型コロナで総崩れになったことで形成が見えてきた。ペンス副大統領も感染が疑われているそうだ。このため、バイデン陣営は逃げ切ればいいというような状態になっている。

大統領討論はあと二回行われる予定だ。バイデン陣営は新型コロナウイルスに感染することを恐れオンライン討論会を要求しているそうだがトランプ陣営はこれに反対している。聴衆もおらずマイクも切られるような状態ではトランプ大統領が得意とするリアリティーショー型の演出ができない。

最初から議論をめちゃくちゃにすることが彼の作戦なのだから、それができないのなら討論など意味がないのである。

ペンス副大統領とカマラ・ハリス上院議員の討論は司会者も女性だった。このため、ペンス副大統領はうわべでは対立候補に敬意を払っているようにみえた。しかし、質問にはまともに答えず、女性司会者が話を前に進めようとしても「ハリス上院議員に反論をさせてくれ」といって話題を引き戻そうとしていた。つまり本音では「女たちに好きにされてはたまらない」という態度を示しているように見えた。女性や有色人種にルール設定されたくない支配されたくないというマジョリティー側の抵抗心を感じる。

もちろんトランプ支持者には受けるのだが、最後まで態度を決めかねている郊外の女性には響かないだろう。

アメリカはポリティカルコレクトネスの強い社会であり差別主義者と見られることで批判に晒されることが多い。トランプ大統領支援運動というのはこのポリティカルコレクトネスに対する抵抗運動なのである。そのゴールは議論そのものを破壊することである。

これを示す端的な例があった。ミシガン州の民主党女性知事の襲撃計画が未然に防がれた。ウルヴァリン・ウォッチメンというヒーロー映画にインスパイアされていると見られる白人組織が関与していたと言われておりウルヴァリンの作者の未亡人も戸惑っているそうだ。

女性の民主党州知事などあってはならないと考える人がアメリカにはいるのである。

個人的に感じた範囲では日本人男性もアメリカでは潜在的な抑圧者として扱われている。日本人男性は渋谷で女性を買い、お見合い結婚で一生服従する女性をよりどりみどりで選べるのではないかと思われることがある。ハリウッド映画のステレオタイプを信じている人もいるが、よく知っている人も小津安二郎などを見てそう思い込んでいる人もいた。このような質問は審問のような形で行われるため日本人男性は自らもアメリカで差別を受ける可能性があるにもかからわず自分が差別主義者ではないことも証明し続けなければならない。アメリカのポリティカルコレクトネスはかなり重苦しい。

だがこの重苦しさを普通の日本人が感じるはずはない。日本は女性や少数民族に対する差別を道徳という形で当事者たちにかなりおおっぴらに押し付けても非難されない社会だからである。下手をしたら女性が自分より「下位の」女性を抑圧するということさえ平気で行われる。

女性は男性から押し付けられた価値観に抑圧されるだけでなく、同性である女性からのプレッシャーにさらされる。さらに自分自身が持っている価値観も罪悪感の原因になる。これは日本だけではなくアメリカやイギリスでも見られるようである。

「女性が男性と同じくらい話すと、男性より多くしゃべったと受け止められる」というのは、よくある現象なのだとタネン教授は言う。これはそもそも、女性は発言を控え目にするものだという思い込みがあるからだという。

「副大統領、私が話しているんです」 繰り返される割り込み……ジェンダーが関係?

ところが副大統領候補の演説会を聞いた日本人男性はカマラ・ハリスの笑い顔が我慢できないと言っていた。世間の評価とは全く真逆だが「ああ、そういうことだったのか」と思った。

カマラ・ハリスは女性は選択肢を持てるべきだし既往症のある人たちが自分の体を守るために中絶を選ぶ権利があると言っている。ペンス副大統領のような高齢の白人男性が自分たちの価値観を元に女性の身の安全を脅かそうとしていると見せたいからだ。そこで目線をカメラに向けて「この人は何を言っているのかしら」という嘲笑的な表情をして見せるのである。あれは抗議の笑いだし見た人はおそらくそう思って見たはずである。だが実生活であの笑いを浮かべられた人もいるんだろうなあと思った。

日本でも流行に疎い男性が空気を読まない発言をして「この人はおかしい」と笑われることはよくある。選別される立場にいる男性ほどこの笑いには敏感なのだろうなと思った。つまりモテない人ほど「女にあれこれ指図されたくない」と感じてしまうのである。討論会を見ているときには全くそれは気にならなかった。ただ「そういう目線」で見てみると確かにそういう気持ちはわからないでもない。

結局、この討論会で一番話題になったのはペンス副大統領の頭に止まったハエだった。グレイヘアなので結構目立ってしまうのだがやはり写真をみるとなんとなく笑ってしまう。さすがにちょっとかわいそうだなという気がした。これもオヤジいじりの一種であり男性としてはあまりいい気持ちにならない。

おそらく日本でトランプ大統領を応援している人というのは普段から嘲笑を受けているのだろう。となると本来アメリカ政治とは全く関係がない人がトランプ政権にしがみつく理由もよくわかる。

彼らは実生活の中で自分たちを嘲笑した女性を見返すことはできない。だからこそトランプ大統領が議論全体をめちゃくちゃにして「うるさい女子供を黙らせる」ところが見たいと思ってしまうのだ。それに対抗するのも実は簡単で粛々とルールに沿って行動すればいいのである。

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