中国にとって新疆はそれほど価値がある土地なのか?

BBCの特派員がついに北京から脱出して台湾に渡ってきた。取材チームはまだ大陸に残っているそうだ。BBCはビデオを出して早速中国政府を非難している。一方中国側はBBCは負けを認めて逃げたと考えているようだ。西側先進国対中国という図式がより鮮明になった。これは一体何を意味するのだろうか。そして中国はその犠牲を払っても新疆を保持するべきなのだろうか。




この問題を考えると非民主的に国家を統治する人は、豊かさを与え続けるか締め付けるかの二択しかないという問題に行き当たる。いわば帝国型の支配者意識である。共産党というのはある種の特権を持った民族のようなものと考えて良い。イスラム教を信じる代わりに中国式共産主義を崇拝している。

比較的少数者の中国共産党は漢民族と呼ばれる9割に豊かさを与えることを優先している。このためイスラム系ウイグル人が反発する。それを抑えるためには強権を発動するしかない。最終的にはビジネス的にパートナーになりつつあった西側の価値観とぶつかる。伝わらなければ問題はないと考えた共産党は報道機関を抑圧しようとする。こうなると一部の少数民族に地位を与え「みんな仲良しごっこ」を演出してみても西側は信じてくれなくなる。

このもっと下手なバージョンはついに逆ギレクーデータを起こしたミャンマーだが、中国共産党も結局は同じ問題を抱えている。少数者の多数派支配である。

もともとのきっかけは習近平国家主席の新疆視察である。訪問に合わせて分離独立派がテロを仕掛け多くの死傷者が出た。先立って昆明でも無差別殺傷事件があったそうである。メンツを潰された中国共産党はテロ討伐をはじめる。だが外から入ってきた共産党には誰が反乱分子かわからない。

このため民族を根こそぎ変えてしまおうという方針に出たようだ。大人の再教育をしたり、外国に出ているウイグル族の子供を親から引き離したことが知られている。西側のレポートによると「虐殺も行われている」そうだが内情はよくわかっていないようだ。うがった見方をすれば共産党は調査を拒否するに決まっているから「いったものがち」の可能性もある。アメリカのシンクタンクはジェノサイドだといっている。

これについて継続的にレポートしていたのがBBCである。旧英領の香港で民主化抑制があったこともあり政府への批判を強めていたのだろう。中国政府は取材妨害と嫌がらせで応じたようだ。ビデオについで詳細なレポートまで出てきた。

ニューテリトリーという意味の新疆は漢や唐の領土を経て「ウイグル帝国」として独立した。その後モンゴルの支配に入る。女真族の清が全域を支配すると今度は「中国」の定義そのものが変わってくる。漢人社会だった中国が本格的に多民族化するのである。

清帝国女真族は満州人と名前を変え支配者層としての地位を明確なものにした。漢人との通婚は禁止されていたそうだ。だが、数が少ない満州人が清全域の全てを支配することはできない。満州人は文化的に漢化してゆく。また漢人も新しくできた多民族帝国に混じり合ってゆく。こうして中国の定義が入れ替わった。

清の後継を目指した漢人たちは中国を漢化する路線は取らずに清時代の多民族路線を取ることにした。その意味はウイグル人もその一翼を担うことになっていなければならない。

ところが各民族が清に服属していたのは清の軍事力を恐れたからである。漢人は清の髪型を強制されて頭を押さえつけられていたが官吏としては雇ってもらえた。また満州人は純血を守り特権者意識を持ち続けた。これが多民族化した中国式の融和である。

おそらく支配の形態として共産党も結局同じ路線を引き継いだのだろう。共産党には少数民族の代表が多くいるのだが習近平体制の政治局員は漢人ばかりである。内モンゴル出身者はいるがおそらくこの人も漢人だ。少数民族や下働きの人たちにスポットライトが当たることはあるそうだが「お飾り」扱いで実質的には漢人・男性が政治を支配しているのが中国なのだ。

経済的に豊かになれば人々が自由を求めるという西側の幻想も裏切られた。満州人という異民族に頭を押さえられ貧しい国として西洋から蔑まれてきた漢人の民族意識は高揚し帰って西側への反発を強めている。結果的に誕生したのは体制強化を目指す習近平国家主席である。多民族国家の裏には漢人ナショナリズムがあるのかもしれないが「中国式共産主義」というカバーがしてあるので実態がよくわからない。おそらく本人たちも漢人ナショナリズムだとは思っていないだろう。

「漢人中心・共産党中国」の「中国」には揺れがある。領土を維持するためには多民族帝国を中国ということにしたいのだが、実質的には漢人・共産党文化を押し付けている。中国の人たちと政治の話をすると、中国・共産党・憲法の精神などを巧みに使い分けるのだが、実際には揺れがみられる。多民族を尊重しているといい少数民族は大学入試などで優遇されているとはいうのだが、実際には経済のためには中国語(ここでは漢人の言葉という意味だ)を優先するのは仕方がないという。

中国は経済的に世界と結びつくことにより海外から多様な文化や考え方も入ってくるようになった。一方で共産党は「純化」が進んでいる。どういうわけか「漢人化・男性支配」が進んでゆくのである。改革開放路線の中で中国は多様化してゆく。ところが中国を規定するはずの中国共産党はなぜか均質化が進んでいってしまう。そのため問題が扱えなくなり極端な施策に走ったというのがウイグルであり香港であるのだろうと思われる。

BBCの記事を読むと、西側には中国側の情報が入りにくくなってきていることがわかる。また、中国人のSNSもまた西側の情報網とは切り離されていて二つの世界が分離してゆく。アメリカでも同様の情報分断はあったがその気になれば二つの世界を行き来することができた。だが、おそらく中国についてはそれは不可能になるだろう。

中国共産党の失敗の対価は中国の崩壊ではない。中国と西側世界が政治思想的に分断されるということなのだろう。

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