フランスとイギリスの劇場型外交

フランスとイギリスの関係が緊迫している。ジョンソン首相が軍艦を派遣する騒ぎになった。騒ぎがあった場所は英領のジャージー島である。連合王国の一部ではなく王領ということになっていて自治政府がある。正式名称はジャージー代官管轄区(Bailiwick of Jersey)である。人口は10万人弱だ。ジャージー島はEUには加盟していなかった。




きっかけになったのは漁業権問題だ。イギリスがEUから離脱した時に問題になっていた。ジョンソン首相はEUとの離脱交渉が難航すると漁業権で大幅に譲歩し「漁業を犠牲にして大きな権益を守った」と説明してみせたそうだ。イギリスはEUの漁船を締め出してもいいが報復関税などがかけられるという取り決めになったと当時の記事は書いている。マクロン大統領は国内の漁業関係者の権利を保持したという実績で2022年の大統領選挙に勝利したい。

今回のBBCの記事を読むと「イギリス政府」とは関係がない「ジャージー政府」が出てくる。ジャージー政府はこれまで漁をやってきた実績がない漁船には操業許可は出せないとしている。フランスはこれが不当だと言っている。つまり彼らの交渉相手はイギリス政府ではない。ただし外交と防衛はイギリスの管轄である。

ジャージー島とガーンジー島は1204年にイギリスがノルマンディー地方を失ったときにイギリス側に残ったそうだ。日本でいうと鎌倉時代の話である。イギリスがEUから離脱した時に一緒に離脱したわけではなく「もともとEUに加盟していない」地域だった。つまり、イギリスにとっては漁業問題と漁業者の保護は象徴的な意味合いしかない。

ジョンソン首相は大きく出るが結局何もしないことが多い。これも「単にお芝居なのかもしれない」と思う。まあ、これくらいやっておけば弱腰には見られないだろうということだ。

ではフランス政府側の言い分の方が正しいのか。冷静になって記事を読むとフランス側の漁師が許可を得ないままジャージー島で漁をしているというわけではない。単にデモをしようとしているだけである。デモをやろうとしているだけなのに中央政府が乗り出してきて「島の電気を止めるぞ」というのはいかにも乱暴な気がする。

このに出てくるアニク・ジラルダン海洋相について調べてみたが日本語で調べても記事がない。英語の記事を読むと二つのことがわかる。

まず彼女(女性だ)はサンピエール島・ミクロン島選出の議員だったそうだ。サンピエール島・ミクロン島はカナダが仏領北アメリカだった時代の生き残りである。現在ではフランスの海外準県のあつかいなのだそうだ。人口は6000人程度で州になるほどの地位はない。EUの一部でもないそうだがフランスの国民議会と元老院に議員を送っている。

さらに彼女は左派急進党という政党のメンバーである。現在の第二次フィリップ内閣で左翼急進党からの代表として入っていてのちに急進運動に参加した。電気を止めるぞ!というのもあるいはフランス流のパフォーマンスに過ぎないのかもしれない。

おそらくイギリスもフランスも国内の政治状況を背景に大げさなことを言わなければならない空気になっているのではないかと思う。これが「いや電気を止めるぞ」「軍艦を出すぞ」という騒ぎに発展している。劇場型外交と言って良い。

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