平井卓也大臣がNECを干すと宣言したのはなぜ問題なのか

平井卓也デジタル改革担当大臣が職員との会議で「NECを干す」と宣言した。田崎史郎さんの「何が問題なんですかねえ」という発言を聞きつつ「何が問題なのかすらわからないのか」と呆れてしまった。




オリンピックの認証アプリで仕様変更があった。海外から客を入れないため「顔認証システム」を採用しないということになったのだ。プロジェクトは5社共同だったが5億円と言われるNECの顔認証システムはいらないから「NECに金は払えない」と言い出したことになる。さらにもっと値引きしろという話もしたようだ。NECとしてはこれまでの投資が無駄になる。そこで抵抗したのだろうが結果的にNECは一銭ももらわなかったそうである。

コメンテータたちは最終的に税金が節約でき73億円が38億円になったからいいではないかと言っている。会社を直接恫喝したわけでもないので法的にも大した問題ではないというのだ。

田崎史郎さんの取材によると対面では幹部しかいない会合だったのだが、オンラインでシェアされていたそうだ。つまり平井さんはオープンな場なのにクローズな場だと思って話していたのではないかと思う。最初にこの話を聞いた時は「10年も付き合っているスタッフから裏切られたのか?」と思ったのだが、実際には誰でも聞けて誰でも外に流せる仕組みになっていたらしい。

田崎史郎さんは「この話は一体何が問題なのかわからない」と言っている。使わない機能を切るわけだから税金を適正に使うという点から見ればむしろ良いことのように思えるというのだ。野党は73億円について追求をしていたので「野党の言う通りに下げてあげた」ともいえるだろう。めでたしめでたしである。

確かに法的には問題がなさそうである。

最初に思いつく問題は平井さんの適性に関するものである。平井大臣は香川1区選出。電通を経て西日本放送の社長になった。平井家は西日本放送の創業家なのだそうだ。その後衆議院議員になり自民党のネット宣伝を担当した。特に民主党などの野党に対する反宣伝で名前を挙げた。

平井さんを任命したのは菅総理だ。日本のIT戦略はうまく言っておらず「なぜうまくゆかないのだろうか」ということが問題になる。恫喝で費用削減を求めるという稚拙なプロジェクトマネージメントでは「日本のIT戦略をリードすることはできないんだろうな」と思える。

平井さんはIT戦略に強いと言われているのだが、よく話を聞いてみるとITを使った宣伝に強いだけだ。ではその宣伝は何かと問われればTwitterで立憲民主党を攻撃したり安倍総理を持ち上げて見せたりするというようなことである。さらに平井さんは親族にマスメディアの人間がいる。つまり例えて言えばTwitterで煽るのが上手な人であり西日本のマスメディアに影響力がある人だ。つまり、利用者はいてもプロジェクトマネジメントの適格者が自民党にはいないのである。

もちろん、ITプロジェクトが成功した試しがない日本だけを見ていてもこれが実感できない。台湾のオードリー・タン氏のように身近な例があって初めて「日本は遅れている」ということになるのだが、結局は人の問題なので担当者を変えるまで良くならない。実際に平井さんは何が問題なのかが全くわかっていないようで記者会見は単なる開き直にすぎなかった。だが成功したプロジェクトを知らない日本のマスメディアは何が問題なのかが実感できない。

ではなぜ成功するプロジェクトがないのかを考えた。問題は意外と深いんだろうなと思えてきた。そもそもNECの顔認証システムは果たして世界に誇れるものなのだろうか?と思ったのだ。NECが政府に要求した金額が正しかったのか、あるいは「よくわからないが5億円くらいあればなんとか人並みのものが作れるのでは」と思っただけなのかもしれない。例えば中国製の顔認証システムに対抗して「単に国産ですよ」と言いたかっただけという話かもしれないし、こんなの今更作っても売れないから自前では開発できないが「政府が金を出してくれるなら5億円くらいふっかけておけばいいんじゃないのか?」ということだったかもしれないわけである。

かりに5億円が正当な対価だったとすれば「恫喝値引きは問題ですね」と言える。だがそうでなかったとしたら「果たして最初の発注から適切じゃなかったのかもしれないですね」ということになる。ただこれをスマホでワクチン予約をするにも四苦八苦している田崎史郎さんに聞いてもわからないだろうなと思う。

例えばGoogleやAppleといった世界で一流の会社は恐らくこんな乱暴な政府には付き合わないだろう。例えて言えば人権について全く理解せず何かにつけて情報を要求してくる中国共産党みたいなものである。さらに言えば「政府の言うことだからご無理ごもっともでお付き合いしてくれればいいですよ」とか「自前で作ってもおそらく売れないけど政府が金を出してくれるっていうなら付き合ってもいい」くらいのプロジェクトを肯定する株主はいないだろう。こんなことをすれば企業幹部は株主から徹底的に吊るし上げられかねない。

だが日本ではこれが通ってしまう。

仮にベンチャーが大変有用で費用削減できる画期的な技術を持っていたとしよう。おそらく彼らはデジタル庁には付き合わないだろうしNECにも持ってゆかないだろう。技術の旨味だけを持って行かれるだけならまだマシで下請けとして酷使されることになる。だったらアメリカあたりで資金調達して会社を立ち上げて海外で売ったほうがいい。つまり平井さんのデジタル庁からは一流の技術は逃げてゆくという未来が確定している。

テレビが平井大臣を悪く言えなかったのは当然である。日本の技術者は身分社会に生きているからだ。平井さんは電通出身でテレビ局の社長経験がある。ピラミッドの頂点しか体験していない。政府と直接つながっていたり免許を受けているテレビ局は特権階級であり、その下には二次受け三次受けがある。つまりピラミッドの上の方にいる人たちがさらにその上の人たちを眺めているというのがテレビの平井論評だったわけだ。

ピラミッドの上の方からはは逃げ出す奴隷の姿は見えない。

元請けのIT企業は「ご無理ごもっとも」でも儲かる仕組みになっている。政府からのプロジェクトというのは特権階級でないと受注できない。だが実際にその無理を聞かされたりリスクをかぶるのはおそらくその下にいる人たちである。

画期的な技術を持っているベンチャーは恐らくこうした多重請負でプロジェクトを受けることはないだろう。技術は高く買ってくれるところに持ってゆくべきだ。それが最近では中国だったりするということなのだろうと思う。日本の技術者や学者がずいぶん逃避していると聞く。

この話の恐ろしいところは「うまく行っているプロジェクトを見たことがない人は平井さんのようなわがままで乱暴な人がもたらしている機械損出に気がつかない」というところなのだろう。田崎史郎さんのような高齢のジャーナリストにわかるはずはないし、ピラミッドの利益を享受しているテレビ局の人にもよくわからないのではないだろうか。

日本でまともなITプロジェクトができないのは実は当たり前なのだということがわかる。

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