横浜市長選挙 – 菅政権の終わりの始まり

横浜市長選挙が終わった。投票率は50%に届かなかったが、それでも野党側が推した山中竹春さんが圧勝した。終わってみると国政に翻弄された感じがする。中でも印象深かったのが菅総理の市長選挙への介入だった。




新型コロナ対策では一向に名前が出てこない菅総理だが横浜市長選挙にはちょくちょく名前が出ていた。それを書かなかったのは小此木さんの落選運動につながりかねないからである。つまり菅総理は自分の仕事はコロナ対策ではなく選挙だと誤認しているのだ。

だが有権者が求めていたのはコロナ対策である。つまりコロナ対策こそが最大の選挙支援だった。総理は本来の仕事を忘れ、横浜市長選挙を複雑化させた。結果的に恩人の息子である小此木八郎氏は議席と最大の支援者を失い政界を引退するそうである。恩人の息子の政治生命を菅総理が奪う形になった。

もともとはIRの誘致が争点になるはずだった。だがそれが「横浜の実力者」の怒りを買った。おそらくIR誘致に執心したのはトランプ大統領の頼みごとだったからであろうが地方政治の感覚が抜けない菅総理は「地方に利権を持ってくれば喜ばれる」と思ったのかもしれない。自分がこうと決めたらその方向に向かって突っ走る姿勢が最大支援者の怒りを買い、亀裂は最後まで埋まらなかった。

日本の政治は戦後アメリカが持ち込んだ民主主義が旧来の泥臭いムラ政治をコーティングしてできたいわば金メッキだ。民主主義がよく理解できない日本人はこの金メッキが大好きだった。国政ではキレイゴトと裏のムラ政治がうまく分離している。世襲政治家がキレイゴトを担当し裏で世襲でない人たちがムラ政治を担当していた。例えば野中広務さんなどは「一貫して裏を担当した」人だった。

有権者からさほど注目されない地方政治にはムラの政治が残った。菅総理は自民党代議士秘書から横浜市議会議員になり「影の市長」として「裏」を担当していた。この影の横浜市長が横浜のIR誘致に動きハマのドンと対立してゆく様子を産経新聞が「菅義偉の原点「影の横浜市長」と呼ばれて」にまとめている。

おそらく菅総理の「意味」はこのムラ政治を国政に持ち込み官僚政治を凌駕したことだろう。国政は地方政治のようなムラ政治、官僚組織、アメリカが持ち込んだ金メッキである民主主義の三層で成り立っている。

金メッキ担当だが面倒なことが嫌いな安倍総理はどんどん政務を行わなくなってゆく。国会対策すら嫌がり「外交だけしていたい」と常々周囲に語っていた。最終的に面倒なコロナ対策を裏担当の菅官房長官に丸投げして逃走してしまった。こうして「ウラ」とか「カゲ」などと言われてきた人が表舞台に立ってしまったのが菅政権である。コーティングを失った金メッキ政権といったところだろうか。

ウラの手法は補佐官、秘書官、秘書といった有権者から付託された権限はない人たちの暗躍によって支えられた説明できない世界である。こうして国政の基礎を支えていた官僚体制も徐々に破壊されてゆく。

皮肉なことに菅官房長官・総理のやり方は各地でハレーションを引き起こすことになる。つまり地方政治に成り立っていた関係まで破壊した。これが今回の横浜市長選の恐ろしいところである。

菅総理はハマの実力者だった藤木幸夫らと組んで高秀秀信市長を盛りたてていたそうだ。だが、藤木さんとの間にIRを巡って亀裂が生じた。亀裂は個人的な恨みであり何があったのかはよくわからない。最終的に敵対する山中竹春候補の決起集会に参加するところまで関係が悪化している。山中さんが勝利したあと「菅首相やめるんじゃないの?」と言い放ったそうである。IRだけでここまで関係が悪化するとは考えにくい。

劣勢になった菅総理は様々なルートを通じて小此木支持を模索するようになる。そこで使われたのは地方流のお願いと働きかけである。だが市議の時と違って菅総理は今や国家の最高権力者だ。結果的に和泉洋人首相補佐官の働きかけは「恫喝だ」と捉えられた。選挙直前に誹謗中傷の文書が飛び交うのは地方選挙ではわりと当たり前なのだが関係者が総理大臣だったとなれば話が全く違ってくる。こうしてかろうじて成り立っていたバランスが徐々に崩れてゆく。

また二階幹事長にも働きかけ公明党と会食を行なったという話も出ている。公明党は選挙協力はできないと断りたかったが単に断るわけにもいかないので批判覚悟で「会ってあげた」のである。石井幹事長は「十分注意しているのでいいと思った」と語っている。公明党との関係お冷ややかなものになりつつあるようだ。さらに建前で成り立っていた緊急事態宣言も効果を失いつつある。公明党会食が成り立つなら国民も「十分注意しているつもり」で動いてもいいことになるからだ。実際に緊急事態宣言を出しても人流の勢いは止まらない。こうして最後の砦がどんどん破壊されてゆき修復不可能な瓦礫の山が形成されつつある。

菅総理が介在したことで自民党市議と藤木さんの間には溝ができた。小此木さんはIR推進賛成だった自民党議員たちを説得して回ったそうだが効果はなかった。国会議員の椅子を捨ててまで地元を正常化しようとしていた小此木さんの努力を理解するものは誰もいなかった。疲れ果てて辞めてしまうのも無理はない。

菅総理は選挙スケジュールに間に合わせるために9月12日までに緊急事態宣言を解除したい。だが国民はもはや菅総理の言うことは聞かない。こうして菅流政治は行き詰まりを見せつつある。横浜市長選挙の最大争点が国のコロナ対策であったことを考えると菅総理がコロナ対策を他人に任せきりにしたまま横浜市長選挙に介入したのは明らかに選択の失敗だったと思う。総理ができる最大の支援はコロナ対策だった。

やはり金メッキは純金にはなれなかった。それどころか国政・地方行政をものすごい勢いで破壊し続けている。あとは国会議員がそれでも我慢して菅総理を支えきれるかだろう。おそらく総裁選・総選挙までの間はかなり混乱するのではないだろうか。時間をかけて引き伸ばせば引き延ばすほど収拾がつかなくなってからである。

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