カブールの邦人脱出大作戦と新安保法制

バイデン大統領のアフガニスタン政策の失敗で日本人大使館員とアフガニスタン人の職員が取り残された。その数は一説には500人程度だという。自ら意思決定できない日本政府はアメリカからの要請があって初めて自衛隊機を送り込むことにした。G7が動いているのに日本だけ何もしないと恥をかくというムラの感覚もあったようだ。

自衛隊機はパラリンピックのブルー・インパルスが話題になった入間基地から出発した。簡単な武器は持っているがタリバンと交戦することはできないという状態である。あまり話題にはならなかったが安倍政権が無理やり通した新安保法制の成立過程も暗い影を落としている。




問題点はいくつかあったようである。最初に報道が出た時に加藤官房長官は「当事国の受け入れ承認がない」ことを心配していた。どうやらこれは新安保法制を意識した発信だったようなのだが気がついた人はそう多くなさそうである。新安保法制のコアになっているのは集団的自衛権である。アフガニスタンのようにすでに政府が崩壊していると政府からの要請ができない。だからこの新安保法制が使えないのである。わざわざ言及したということは内閣の中から懸念が出たのであろう。さらに新安保法制は野党の協力なしに作られている。結果的に失敗した場合野党から攻撃されるのは目に見えている。プレッシャーは政権ではなく実行部隊である自体隊員にかかる。極めて理不尽な構造がある。

次に問題になったのは安全確保である。「日本に脅威」があるという前提がないと自衛隊は限定的集団自衛の権利が行使できない。自衛隊派遣の法律は場当たり的に拡張されてきた歴史ああり複雑で入り組んでいるが今回は緊急的な自国民の保護という枠組みを使ったようだ。だが、邦人救援に向かうためには派遣先の安全が確保されていなければならないのだという。

政府は「安全は確保されている」と言っているのだが明確な証明はない。一応根拠になったのはアメリカとタリバンの間に交わされた協定である。8月末までの期限限定付きで「さっさといなくなってくれるなら当面の安全は確保する」という約束が交わされた。だがこの協定は早速破られている。正体不明の武装集団が空港を襲いアフガニスタン人の警備員が殺された。アメリカとドイツの部隊が応戦したそうだ。事実上の前提はもはや崩れているのである。つまり理屈で政権を守ることはできても現地の自衛隊は守れない。

「なぜ日本政府は日本人(および日本の協力者だった大使館職員などのアフガニスタン人)を助けにゆかないのか」という声があり立憲民主党はこの救援に反対していない。ただし共産党は反対しているそうである。結果的に問題が起こればおそらく誰かが騒ぎ出すという状態だ。

政府にとってみれば安保法制は現実に即したものだったのかを検証し国民の理解を得るチャンスだと思うのだが、国民に説明をする意欲のない菅総理のもとでは議論の進展は期待できないだろう。自衛隊員の処遇改善のためには安倍政権・菅政権の系譜の政権ではダメだということがわかる。

また左派に支えられている立憲民主党には自衛隊アレルギーがありこちらも積極的な関与は期待できそうにない。自衛隊はある時は憲法改正の道具であり、またある時は災害派遣のための便利なツールのようにしか思われていない。

さらに政府専用機も動員される予定だった。自衛隊はカブールからパキスタンを往復する。政府専用機はこの自衛隊に水や食料を供給する役割を果たすとされていた。だが、政府支援機は千歳に戻ってきた。準備が整わないという理由である。なんらかの状況変化があったようなのだがそれが何なのか質問する記者はいない。小牧からアフガニスタンに向かうはずだったが現在は千歳で待機しているそうだ。

NHKがアフガニスタン派遣の政府側の見方を詳しくまとめている。カブール空港周辺は適切に航空管制されている。受け入れ国(アフガニスタン)の要請はないが無政府状態に陥っているのでこれは仕方のないことである。さらにこの任務は従来通りのものであり5年前に拡大された新安保法制に基づいた任務は付与されていないと説明されている。

政府首脳が作ったシナリオがありそれ以外の不測の事態は起こらないだろうという前提になっている。つまりここにもプランBがないのである。このミッションで何かが起きてしまうとたちまち政治問題化して選挙に不利になることがわかっているため政府は予防線の設定に躍起だ。

だが表向きの理由でも安保法制に前提の欠陥があることが明らかになった「受け入れ国(アフガニスタン)の許可が得られなかったから」ということで、いったん無政府状態になってしまうと集団的自衛は適用できないということがわかってしまったのである。おそらく台湾でも同じようなことが起こる。

現実にはアメリカの都合に合わせてスケジュールが組まれるためどうしても「使いたいけど使えない場面」が出てきてしまう。安保法制を安倍政権の狙い通りに設定し直すなら「日本はアメリカの軍事的属国でありアメリカの意思のもとで行動するのだ」ということを潔く認めなければならない。運用でカバーすることなどできないのである。

さらに、8月末を越えて邦人がアフガニスタンに取り残されても自衛隊は動けなくなる。タリバンとの協定が無効になると安全確保の前提が崩れるので自衛隊派遣ができなくなるからである。

コロナの陰に隠れて全く話題になっていないアフガニスタンの自衛隊機派遣だが、実はかなり問題のある派遣になっている。安保法制はしこりを残したままで作られあやふやな運用実績までできてしまった。次回以降はこれが前例となる。結果的に誰も責任を取らないまま矛盾の解消を自衛隊が担うという状態になってしまうのだ。

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“カブールの邦人脱出大作戦と新安保法制” への2件の返信

  1. タイトルの「法人」、「邦人」の間違いではないでしょうか?

    日本の安全保障政策は時の情勢(というよりアメリカの要請)に合わせて場当たり的に運用してきたせいで時間が進むほどに矛盾が大きくなってきている印象ですね。
    一度ちゃんと(憲法と合わせて)安保法制そのものを見直した方が良いと自分も思うのですが、それが今の日本で、そして今後もできるかというと……。

    お目汚しのコメント失礼しました。

    1. ご指摘ありがとうございました! 修正させていただきました。
      カブールの空港にたどり着いた邦人はおらずかといって市街地に迎えに行くわけには行かず政府専用機は千歳に待機という状況みたいですね。CIAの長官がカブールに乗り込んでタリバンと再交渉しているという話も伝わってきています。現地の皆さんも不安でしょうから、早く戻ってこれるといいんですけど……

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