台湾国民党の党首選挙と台湾人の現状

台湾問題に関心を持つ日本人は多いが、日本人の興味は対中国政策であり当事者である台湾人に関心を持つ人は少ない。最近国民党の党首(主席)が変わった。朱立倫さんという人で5年ぶりの復帰なのだそうだ。今回は台湾の現状を観察しながら日本のいびつな対中国政策についても若干考えてみたい。




台湾は国共内戦で大陸から逃れてきた国民党が支配していた地域である。つまり、かつて台湾は中国の一部とみなされていた。国民党は強権的に統治してきたが1988年に李登輝が総統に就任すると徐々に民主化の道を歩みだした。現在の与党は蔡英文主席・総統の民進党で国民党は与党ではない。

台湾の政治は「中国とどうやってゆくか」を中心に組み立てられている。国民党は再統一から現状維持までの幅があり、民進党は現状維持から台湾独立までの幅がある。

実際に今回の国民党の主席選挙も「共産党政権の再統一を目指すのか」と「現状維持で修好するのか」という二択だったそうである。結果的に選ばれたのは「現状維持派」だった。民進党の蔡英文主席も現状維持派である。一国二制度の提案は受け入れないがかと言って独立も推進しないという立場だ。

一方、有権者は対中政策をそれほど重要視していない。

2018年の地方選挙で民進党は大敗し蔡英文主席は一度党主席を辞任した。穏健派の蔡英文主席が退任すると台湾独立派が躍進するのではないかという観測もあったようだ。この時に問題になったのは日経新聞によれば公務員の年金改革と経済問題だったようである。つまり、蔡英文・民進党が支持されなかった理由は普通の民主主義国と同じ内政(特に経済問題)だったのである。

このあと状況は一変した。中国の強引な香港政策が影響を与えたようだ。習近平国家主席は口では一国二制度などと言っているがおそらく民主主義を守るつもりなどないということが明確になった。これが民進党にとって追い風になった。あからさまに中国を刺激するような独立運動は起こさないがかといって一国二制度などという非現実的な口車に乗って交渉を始めることもないという姿勢が好感されたようである。蔡英文総統の再選は中国にとって計算外だったとBBCがまとめているがおそらく民進党勝利の最大の立役者は習近平国家主席だろう。この後、蔡英文さんは民進党の主席にも復帰した。

今回の主席選挙の結果を受けて習近平国家主席は朱新主席に祝電を送り「中国を再統一して民族の復興を図ろう」と呼びかけたそうである。おそらく習近平国家主席は共産党内の求心力を保つために「偉大な中華帝国の復興」というビジョンを推進するしかないのだろう。

それが具体的にどういうものなのかはわからないが中国共産党は漢民族だけではなく清の領域にいた諸民族の代表であるというビジョンだ。だが、そのビジョンは共産党の維持のために作られた絵空事のようなものであり外からの理解は難しい。中華民族などという実態は単なる概念以上のものになりようがない。台湾は徐々にこうした「中国の内輪の問題」から自由になり普通の先進国になりつつある。

民進党政権下の台湾は急速に民主化と自由化が進んでいる。例えば2019年には同性婚を認める法案が可決された。大陸中国では認められないような自由を獲得してしまえば経済的な理由だけで共産党になびく人は少なくなるだろう。日本の新興保守・右翼は自由を認めれば国がバラバラになると思い込んでいるようだが台湾は戦略的に自由化を推し進めている。多様化の推進は国家の活気を生み出すということを台湾の政権は知っているのである。

問題になるのは経済だが中国とアメリカ合衆国の間でのハイテク取引などが盛んなため2021年のGDPの成長予測は5.46%と比較的順調である。これが6月の報道なのだが8月には5.88%に再修正された。つまり、経済も概ね好調だ。

現在深刻な半導体不足が起きている。先進国の半導体生産が高付加価値製品に傾きコモディティの在庫が品不足になった。コモディティはファウンドリという工場のないメーカーが主に作っているのだが、このファウンドリが中国に多かった。だが、アメリカが米中デカップリング政策を始めたために台湾や韓国のファウンドリに注文が殺到しさらに工場火災が重なったことで半導体不足が起こっているそうだ。

米中デカップリングは台湾にとって経済発展のチャンスになる。一方で中国との交易が盛んになっても経済発展のチャンスが生まれる。小さな国ならではの強かな戦略である。

日本の台湾政策という観点からは、米中デカップリングの推進こそが国益にかなうことになる。日本の論者たちはなぜか軍事的な話ばかりをしたがる。実際にポスト菅の総裁選挙を観察して見ると米中デカップリングについてのビジョンを持った候補がいない。実は日本の対中政策は単なるヒーロー願望であって具体性に欠けている。

中国の政治主張があまりにも特殊なものになってしまったため中国を自由主義経済のインナーサークルに置いておくコストは極めて高いものになってしまった。いちいち彼らの理屈に付き合っていられないのだ。

おそらく新しい供給基地としてインドを整備したり台湾や韓国などと協力して新しい供給ルートを確保するべきなのだろうが、今の日本には総合的な政策を立案できる政治家が育たなくなった。単に日米同盟にフリーライドしていれば大方の有権者は満足してくれる。あとは中国に対して勇ましいことさえ言っていれば新興宗教化した保守層をなだめることができてしまうのである。だから「アメリカが上手いことなんとかしてくれるだろう」以上の政策が生まれないのかもしれない。

Google Recommendation Advertisement