それは美しい伝統なのか、それとも単なる奴隷制度なのか

あなたは生まれたときから将来の身分が決まっています。逃げることはできません。父親が死んだらあなたがその地位に就きます。将来あなたは影響力はある地位に就く可能性があるのですから、自分たちの将来を決めるような意思決定には関わることはできません。あなたがその身分から逃れることができるのは死んだときだけです。辞めるなんて許しません。お前に(いや失礼あなた様に)選択の余地はありません。

あなたはそれが気に入らないかもしれませんが、あなたの祖先がそうだったのだから、仕方がありません。諦めてください。というか、いや何もいうな。いや……その、仰らないでください。

生活保護はしてあげます。そのかわり無駄遣いだと思ったら、いろいろと文句を言いますから、覚悟しておいてください。特別な家にお嫁に入ったんですから、好きなときに買い物に行ってはいけません。贅沢だといって叩きます。実家に帰るのもいけません。実家で何か吹き込まれるとこまるでしょ。お父さん、偉いかたなんですよね。

仕事は山ほどありますよ。ただ、笑って手を振っているだけの簡単なお仕事じゃないですか。なんで満足にできないんですか。適応障害ですか。あんた、甘えているんじゃないのか。男子が生まれない。おおごとです。子供を産めないなんて、一人前じゃありません。

嫁が苦しんでいても文句を言ってはいけません。いや、匂わせるのもけしからん。いいですか。あなたのお仕事は、ただ笑って手を振るだけなのですよ。

女の子は結婚したら自由にしてあげます。いいや、人手不足だからそのままの地位にいてもらおうかなあ。でも、特殊な生まれなんだから、外に出てもひっそり騒ぎを起こさないように暮らしなさいよ。その点、旦那にもよく含んでおけ。いや、お伝えください。

いいですか、あなたたち。これが日本の美しい伝統なのです。あなたたちをかごの中に閉じ込めているから、私たちは思う存分美しい伝統に耽溺していられるのです。逃げ出すなんてとんでもない。考えるのもいけません。私たちが考える国体が台無しになってしまうじゃないですか。お城が崩れてしまうではないですか。

いいですか、あなたたちだけが犠牲になればいいのです。その他大勢が、甘い夢に浸れるのですよ。主人のいない神殿で、私たちだけが代理人として振る舞えるのです。私たちの尊厳はあなたの犠牲のうえに成り立っているのです。それを台無しにすることは、私たちが許しません。絶対にそれだけは許しません。

あなただけの問題ではありません。未来永劫あなたの子孫も同じ暮らしを受け入れなければなりません。