豊洲新市場問題

オリンピックのメダルラッシュで世間が沸き立つ中、Twitterのタイムラインは豊洲新市場の問題でにぎわっている。一般的に盛り上がっているというよりは、それで盛り上がっている人をフォローしているので、とても盛り上がっているように見えるのだ。

だが、なぜこんなに反発されているのかというのがよくわからなかったので調べてみた。いくつかの要素があるようだ。第一の要素は、石原都知事と東京ガスの問題だ。簡単に例えると、イヌの寝床があった場所にお父さん(台所は使わない)が台所を作ろうとして家族が猛反発しているようなことになる。次の要素は、旧来型の流通と近代的な流通の対立だ。魚市場というと同じような物に思えるのだが、実際には伝統芸能とアイドルを使ったコンサートくらい違っている。

最初の問題から片付けよう。もともと豊洲には東京ガスの工場があった。東京ガスは、撤退するにあたり土地を高く買い取ってほしいと都に働きかける。そこで、石原都知事が「築地が古くなっているから、あの土地に市場を建てよう」と決めた。当初民主党中心の議会は反対するが、結局予算は執行される。東京ガスは土地を無毒化せずに土地を都に売抜けた疑いがあるということで裁判が進行しているようだ。工場では発がん性のあるベンゼンが出ており、周囲の地下水や土地は汚染されていると考えられているようだ。

冒頭のたとえの「イヌの寝床」も消毒してしまえば無毒になるのだが、日本人としてはどうしても「気持ち悪い」と考えるだろう。文化的に「穢れ」という概念を持っているからである。食べ物を扱う場所としてふさわしくないと考える人は多いはずだ。

石原都知事は東京ガスの土地を引き受けた時点で目的を達成したようで、後のことには関心を持たなかった。そのあとはリーダーシップのない現場にまかされ、案の定混乱を来した。

しかし、問題はそれだけに収まらなかった。築地には零細な流通業者が多い。新しい設備投資ができず引っ越しの費用も捻出できない。しかし、彼らは「目利き」であって、東京の食文化の大きな支え手になっている。すしは日本の魂と言える。つまり、築地市場は「伝統文化」になっているのだ。

例えて言えば、歌舞伎座を取り壊して東京ドームに移転しろというような話なのだ。東京ドームのほうが集客力は高いので、そこでアイドルのコンサートをやったほうが儲かる。だが、東京ドームでは歌舞伎はできないだろう。

建築の専門家の発信した情報を見ていると、どうやら「流通倉庫」として設計されているようである。漁船からトラックへの積み降ろし点という位置づけなのだろう。しかし、伝統的には市場の中で魚の解体などが行われていたようだ。このような作業は手間がかかるので、大手はやりたがらないのだろう。

そこで、伝統的な人たちが新しくできた建物に対していろいろと文句をつけ始めた。大手は移転ができる上に中小が淘汰されるので賛成派に回る。施設自体は広くなるし交通も便利なのだろう。両者はまっぷたつに分かれて対立しているようである。

市場の近代化という意味では、中小は淘汰されるべきなのではないかとも思われるのだが、築地はすでに観光資源になっている。これを代替しようとして東京都は「千客万来」という施設を作ろうとした。開発に名乗りを上げたのが、ダイワハウスとすしざんまいだ。しかし両者とも撤退してしまった。近所にある大江戸温泉物語という施設があり、東京都は施設の継続を決めてしまったからだという。ハフィントンポストに記事がある。

東京都は予算をかけずに民間企業に開発をやらせようとした。しかし、民間企業側は「独占じゃなきゃ嫌だ」と言い、両者の話し合いはまとまらなかったようである。築地の場外市場は自然発生的にできた味わいがあるのだが、人工的に作られた施設には観光の面での利点はない。そもそも流通倉庫なのだから観光資源になりようがない。例えば、築地の脇にイオンモールがあったとしても「他のイオンモールより新鮮だ」などとは誰も思わないだろう。

ということで豊洲移転問題をまとめると次のようになる。プロジェクトの目的は有毒物質でいっぱいの土地を都に高く買い取らせるというものだったが、これはすでに達成された。石原都知事は国政に逃げ出してしまったので、責任を取る人は誰もいない。かろうじて「箱を作る」というプロジェクトは完成したのだが、その中にどのようなコンテンツを入れてどう育てて行くかということについてはまるで関心を持たなかった。目的を失ったプロジェクトは迷走をはじめ、移転を前に大騒ぎが始まろうとしているのである。

東京は世界でもまれな食文化の豊かな都市だ。これほど、本格的に世界各地の料理を楽しむことができる都市はない。また、寿司は世界によく知られた日本オリジナルの食べ物だ。東京都は「海外から観光客を呼び込みたい」などと言っているのだが、実際には自分たちだけが持っている伝統には無頓着だということが分かる。

築地の問題を解決するのは簡単だ。大手の流通業者を豊洲に流し、中小の伝統的な業者を築地に残せば良いのだ。