PCデポ問題 – 隠れた焦点

PCデポの件は大炎上している。株価が下げ止まらないようで、数百億円が吹き飛んだという話を読んだ。さて、この件に関しての経緯を読んだのだが、ちょっと衝撃を受けたことがあった。騙されたという父親は実は認知症だったようだ。

この件について語る人は少ない。認知症は関わると面倒だと思われているのだろう。多分、テレビでも話題に上らないのではないだろうか。

しかし、この件はかなり深刻な問題を抱えていると思う。この経緯から分かるのは認知症になってもPCデポに出かけて行きパソコンを使うための契約ができてしまうということだ。つまり、行動力は衰えないということなのだ。

PCデポの件が「人民裁判」によってのみ裁かれてしまうと、認知症が疑われる人には物を売るなということになりかねない。高齢者と契約するときに「あなたの精神が正常かどうかを証明してくれ」というような話になりかねないのだ。PCデポはこれから「70歳以上は相手にするな」ということになるだろう。無料解約に応じなければならなくなるからである。企業文化からして「丁寧に対応しろ」ということにはならないように思える。

認知症だという診断は得られるが、そうでないという診断をしてくれる病院はない。しかし、下手に認知症の人に物を売ってしまうと、契約が無効になるばかりか、株価に重大な影響がでかねないとなると「コンプライアンス」の名前のもとに極端な商慣習が広がりかねない。これは高齢者の人権を著しく侵害するだろう。

一方で、家族は二十四時間認知症患者を見ておけないのも事実だ。その間も出かけていって何らかの契約を結びかねない。どうやら、認知症程度であっても、本人が結んだ契約を無効にするのはそれほど簡単なことではないらしい。裁判を起こして、不当な契約だったということを証明しなければならないようだ。そもそも「誰に相談するのか」ということもよく分からない。弁護士の知り合いがいるという人は多くないのではないだろうか。禁治産状態にするということもできるのだろうが、いっさいの契約が結べなくなるということだから、同居が前提になるはずだ。また、本人にそれを了承させるのも極めて難しいだろう。

ある日突然認知症になって何も分からなくなるということではなく、症状は徐々に進む。本人はもちろん分からないし、家族も気づくのが遅れることが多いようだ。どこまで契約が有効で、どこから無効になるのかというのは、多分誰にも分からないはずだ。

PCデポのような「どう考えてもひどい」というようなケースですら、企業との交渉にはかなりの労力がかかる。これからこういうことが増えて行くのだ。

これが10年前ならまだ企業に余裕があり「年寄りを騙してでも成功してやろう」などと考える企業は多くなかった。30年前なら地域に時間に余裕がある人も多く見守りのようなことができたはずである。しかし、現在ではみな忙しく、心理的な余裕もない。

このケースを「政治がなんとかしなければならない」とか「痴呆症患者は高齢化が進むと増える傾向になる。社会の対応が急がれる」と結ぶことは簡単だ。しかし、それよりも「こういう事案に遭遇したら、個人的にどうすべきなのか」ということを考えるのが重要なのではないかと思う。意外とどうしてよいか分からないと思う人が多いのではないだろうか。