共謀罪をめぐる混乱

どうもよく分からない。国会中継で金田法務大臣がぐだぐだな答弁を繰り返している。金田さんはテロ等準備罪(共謀罪)を成立させたいらしいのだが、どうして共謀罪を整備しなければならないのか、共謀罪がないとなぜ困るのか、誰が対象になるのかがすべて不透明なのだ。答弁席の後ろに法務官僚が陣取っており、その場で「お勉強する」という体たらくだ。答弁は二転三転している。具体的な事例も挙げられないし、何が対象なのかもわからないので審議しようがない。

これを見て「まだ法案が準備できていないのに自民党の失点稼ぎを狙っているんだな」と思ったのだが、どうもそうではないようだ。そもそもは1月6日に「今年は共謀罪をやりますよ」と菅官房長官が言ったらしいいのだ。

だがこれも実は見出しマジックである。実際の記事をよく読むと「テロ等準備罪」を作る下準備になる法律を提出すると言っているだけだ。共同通信社がこれに「共謀罪「一般人は対象外」」という見出しをつけている。

共謀罪は「犯罪を準備しただけで処罰される」というものなのだが、犯罪の事実がなくても政府が一般人を拘束できるようになるので政治弾圧に利用される可能性がある。実際に日本は治安維持法が拡大解釈されてきた苦い歴史があるから、政府がいくら「一般人は対象外」と言っても誰も信じない。

これを「テロ」に置き換えたとしても無理がある。欧米の事例でもわかるようにテロに参加するのは外国から来た悪辣な人たちではなく「一般の市民」なのだし、裏をかいてやるのがテロなので「この犯罪だけ」ということを限定することもできない。

警察は共産党系の市民運動を監視している。政府がそれを望んでいるのかもハッキリしない。日本の意思決定は「空気の読み合い」なので責任が明確ではない。一部では暴力団が減っており警察が予算を縮小されないように「テロ監視を売り込んだ」という話がまことしやかに語られてる。実際には、「戦争法」デモが起きた時に「SEALDsデモは公安監視対象だからまともな就職ができなくなりますよ」という恫喝が行われた。こうした政治運動は政府を転覆するために行われているのだから(ただし民主的にだが……)これをテロだということは可能だし、時の権力者がこれを利用しないということはにわかには信頼できない。

さらに自民党は憲法草案で集会の自由を一部制限しようとしている。こちらは「公の秩序」というさらに曖昧な概念が用いられており、与党が勝手にカウンターを抑圧できるようになっている。

つまり状況を整理するとこうなる。

そもそも政府が信頼できないので共謀罪をきちんと運用してくれるかわからない。にもかかわらず政府は「雰囲気作り」を醸成しようとした。しかし通信社が「政府がやると言ったらもう通るのだろう」という見込みのもとに見出しを立てる。それがTwitter経由で拡散しコラムに書かれ野党が反対する。しかし、実際には法案はまだできていない。

実際には法案ができていないどころか「どれをテロ等準備罪」に含めるかということについて自民党と公明党で駆け引きしている最中だ。公明党は都議選を控えており「どの程度自民党にお付き合いするか」を思いあぐねている。自民党が右傾化しているので公明党の「平和の党」というイメージが毀損されているからだ。ある種の取引の最中だから、法務大臣も明確な答弁ができないのだろう。

ハッキリした混乱の原因が一つだけあるわけではなく、いつかの要素が絡まって「グダグタ答弁」になったようである。

 

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